ある少女と、ある少女。
ラテルに一言伝えた後に私は颯爽と学園から出発し、馬車の停留所に立っていた。家と学園とでは距離があり、とてもじゃないが歩いて登校なんて出来ないのだ。
だからと言って貴族の様に自家用の馬車があるわけでは無い為、大人数用に走っている馬車、前世で言うところの公共交通機関を使っている。
次の馬車が来るまでには少し時間があり、近所にあった出店でジュースを買ってきて飲んでいたのだがそれも飲み終わってしまい、暇を持て余していた。
こちらの世界にはスマホも無いから本当に暇をつぶす物がない。出来る事と言ったら昔ラテルが行っていた魔力調節の特訓ぐらいだ。
目の前に球体型の水を出し、プカプカと浮かばせ、その球体を少しずつ増やしていく。これはラテルがシャボン玉型の物を使って魔力調節をしていたのを見て真似した結果出来た物だ。
正確に言えば劣化型。シャボン玉の形にしようとしてはみたがどうしても出来なかったのだ。球体の水を薄い膜状にし、それを浮かばせる。一見簡単そうに聞こえるが全くそんな事は無い。
水を出し、浮かせる。この工程だけでも魔法を同時に二つ使うという高難易度の事をこなしている。その超集中している段階で更に薄い状態にして保つだなんて事は普通出来ない。
例えて言うなら難しい計算式を解きながら、ピアノで高難易度の曲を弾く様な感じだ。⋯自分で言っていながらわけが分からない。ラテルは初心者がよく行う特訓法と言っていたがあれは絶対に嘘だ。
初心者の状態でこんな事が出来るとしたら神か有り得ないくらいの天才だけだろう。そう考えるとラテルは本当に天才なのだという事が分かる。
そんな弟に対し、姉である筈の私は随分と情けなく、自然と溜息が溢れてしまう。弟の才能はすごい事だし本来なら喜ばしい事だ。それでもそんな弟を見ていると自分の情けなさが見えて少しだけ悲しくなる。とはいえ大切で可愛い弟である事に変わりは無いし、嫌う、だなんて事はこの先一生訪れないだろう。
目の前に浮かぶ水に目を向ける。それは綺麗な球体になっていた。最初の頃は丸くするのも一苦労だったが、最近は何も考えなくても丸い形になるようになった。その事に喜びを感じ、微笑する。その瞬間、視界の端ににゅっ、と何かが現れた。
「貴方、魔法を同時に二つも使えるの!?」
その声に驚き、出していた水が全て地面に落ちてしまった。びしゃっ、と言う音を立てながら水は落ちたが突然現れたその子にも私にも水はかかっていなかった。
未だに驚きから心臓はバクバクとなっていた。騒ぐ心臓を落ち着かせながら、現れた子へと視線を向ける。そこにいたのは長くふわふわとした黒い髪を持つ、活発そうな少女だった。大きな赤い瞳をキラキラと輝かせ、こちらを見ている。
「そ、そうだけど、」
「すっごーい!!」
あまり会った事のないタイプの子に驚きながら声を出すと、私の声量の倍はある声量で言葉を返してきた。ガシッと手を握られ、顔を近づけられる。
「貴方さっきの試験にいたよね!?お友達になりましょう!!」
「えっ、あっ、はい!」
凄い勢いで迫られるものだからついはい、と応えてしまった。特に断る気も無かったがあまりに凄い勢いだったものだから即答になってしまった。




