ある少女の、変化。
そんな形で手伝いの一日はあっという間に過ぎ去った。お客様が沢山来たお陰で忙しくなり時間を気にする時間なんて無かったのだ。
店の片付けも終わり、今は自分の部屋のベッドに腰掛けている。特にする事も無く、見慣れた何の変哲も無い天井をぼーっと見上げる。いつの間にか太陽は沈み、月の光が淡く部屋を照らしていた。
何もせずにいると色んな事を思い出してしまう。前世の交通事故や処刑の瞬間。段々と身体が冷たくなっていく感覚からの恐怖。何だかんだ言って未だに痛みや死は怖いし嫌いだ。
死ぬ、という事は何もなくなるという事だと思っていた。生きていた頃の記憶も人格も全て無くなって形に残るのは動かない身体だけ。寂しい事だ。
だというのに転生やらループ何かがあるせいでその意識は何とも軽いものに変わってしまった。それは嬉しい事なのか、将又悲しい事なのかは今の私には判断出来ない難しいことだ。
だからお嬢様の処刑を阻止したり、魔族を倒したい、だなんて事を言ってしまったのだろう。昔の自分なら有り得なかった判断だ。こんな臆病で馬鹿でな性格だから、前世は後悔ばかりの人生だったのだろう。
今回の選択だって愚かで馬鹿げたものなのかもしれない。それでもこの選択は自分が勇気を、自信を持てるようになったって言う証明になるのかも、何て思うと少しだけ、ほんの少しだけ嬉しい気持ちになってしまう。
感慨深い気分になり、天井に顔を向けたまま、目を瞑る。やっぱり頭によぎるのは死の瞬間の嫌な記憶。けれどその後に今までの楽しい記憶が現れてきた。母さんや父さん、ラテル。今の私には大切な人が沢山いる。昔の私とは違うんだ。
パチっと音がなりそうな程勢いよく目を開く。私はもう一人ではない、その事実に胸が高鳴り、心が踊っている。月の光がより一層輝いている様に感じる。
そんな時、ドアが開き外から光が入ってきた。部屋が暗かったせいでその光が少し眩しい。目を細めてその方向に目を向けるとそこにはラテルがいた。
「姉ちゃん。夕飯の時間だって!」
その言葉に「わかった。」という短い返事を返し、ベッドから飛び降りてラテルの方へと近付いた。
「⋯?何で笑ってるの?」
「え?」
不思議そうにそう言うラテルに私も不思議に思い聞き返す。どうやら私は知らないうちに笑っていたらしい。
「何かあったの?」
その言葉に考えていた事をそのまま伝えるのは少し気恥ずかしく感じ、「⋯内緒。」という言葉を短く返した。
その返事に納得する訳も無く「何で!?」と何度も聞いてきたがこちらも「内緒ー。」という間延びした返事を返し、足早に食卓へと足を進めた。




