ある少年の、夢か。
僕はこの時、凄く混乱していた。原因は目の前にふてぶてしく座る男が発した言葉にある。一つ目の原因はフォティス政策に参加するという事実への単純な疑問から。二つ目の原因はこの男が皇帝の王冠を被り、自分が皇帝である、という言動を取っていることだ。
僕の記憶での皇帝は少し老いた男だったはずなのだ。決してこんな若く、胡散臭い人間では無い。皇帝が変わった?先代の皇帝が死んだのか?⋯否、何で?
そんな風に頭の中で思考をぐるぐると回していたその時、いきなり視界がグニャッと歪みだし、何処か違う場所に意識が引き込まれるようなそんな感覚に陥った。
ハッ、と目を開いた時、慣れ親しんだ自分の家の天井が視界いっぱいに現れた。身体を起き上がらせようとすると体中が少し痛んだ。床の上で寝落ちしてしまっていたらしい。
「⋯夢、夢か。」
そう呟いた後、深い溜息が出た。夢で良かった、という安心感からだ。あんな日々にはもう懲り懲りだ。牢の中は暗いし汚い。更には一人ぼっち。牢を出た後の日々だって碌なものでは無かった。
⋯否、前の事を考えるのは辞めよう。今は他にやるべき事が山程あるのだ。落ち込んでいる時間なんて無い。
それにしても何故自分は寝ていたのだろうか。確か寝る前までは魔術の訓練をしていたはずだ。つまり訓練中に寝てしまったという事だ。⋯本当に幼児の身体は困る。身体が小さいから出来る事も減る。更にはこの状況で昼寝なんて、
そう思い、もう一度深い溜息が出たその時、
「⋯あれ、ラテル起きたの?」
ドアの影から姉がひょこっ、と現れた。その時ふと思い出した。そういえば今日は勉強を教える約束をしていたのだと。
不味い、そう思った。約束の時間はもうとっくに過ぎている。約束は自分から取り付けたものだ。自分から言い出したというのに守る事が出来なかったのだ。怒られるだろうな、と不安を抱えながらもまず謝った。
「姉ちゃん、ごめん!勉強、僕から言い出した事なのに⋯!」
「それは全然大丈夫だよ。一人で勉強してたし。それより体調とか大丈夫なの?お昼寝なんて珍しいし。」
僕の不安とは裏腹に怒られるどころか心配された。てっきり少し怒っているのではと思っていたから驚いた。そのせいで少し惚けてしまったが直ぐに返事を返した。
「否、ただちょっと、眠くなっただけ。」
目を合わせて話すのが少し気まずく感じ、少し斜め上を見ながら言葉を出した。すると姉が少しだけ頬を緩ませて、
「そっか、眠くなっちゃっただけか〜。」
そう言いながら頭を撫でてきた。⋯その微笑ましそうな表情を辞めてほしい。照れるではないか。




