ある少年の、第一声。
謁見室の扉が開いたその先には、皇帝の証である王冠を被った老いた皇帝、ではなく何故か皇帝の証の王冠を被った皇太子がそこにいた。
庶民の自分が本来なら見ることも叶わない高級そうなソファーの上にふてぶてしく皇太子が座っていた。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。第一印象はまさに最悪だった。
更にその皇太子の横にはべったりとくっついた女がいる。しかし僕がここに案内されたという事はこの人物達が僕自身を呼び出したのだろう。
だと言うのに衛兵と僕が入室した時からこちらには気付きもせず、横の女と談笑をしていた。いくら僕が罪人であるとはいえこの対応はあんまりだと思った。しかもこの後直ぐに衛兵は退室していった。
つまり今この部屋には皇太子と謎の女と僕だけという状況になってしまったのだ。本当に勘弁してほしい。この頃の僕は多少は精神的に強くなったものの、所詮はただの子供であるため声を上げる事も出来ず固まっていた。
そんな状況で気付いて貰えるわけもなく棒立ちのまま数分が立っていた。流石に声をかけようかと悩み始めたその時、女がこちらに気付いたらしくこちらをチラッと見た。驚く素振りは無かったが嫌悪感の滲み出た表情をしていた。
「セフィル様?そこに小汚い子供がいるのですが⋯不愉快なのでどうにか出来ませんか?」
そうして皇太子に伝えたこの言葉、どう聞いてもこちらを馬鹿にしている。小汚くて不愉快、貴族が平民に言いそうな言葉に順位をつけた場合、十位以内には入りそうな言葉だ。
傷付きはしなかったがイラッとはした。そんなこちらの心境など考えもしない素振りで今度は皇太子が声を上げた。
「⋯あぁ、件の子供。来ていたんだね、悪いねカラナ。彼には少し用があるんだ。少しの辛抱だよ、我慢してあげて。」
「⋯セフィル様のご用事でしたら仕方ありませんね。」
そう言って溜息を付く女に皇太子がありがとう、と声をかける。ここにいる僕に少しも失礼だとかの感情は浮かばないのだろうか。酷い言われようだ。
そして次の瞬間、ついに僕に声をかけてきた。
「ねぇ君、平民なのに随分を頭が高いよね。跪くとか出来ないわけ?」
第一声がこれである。皇太子の前にも席はあるというのに座れでは無く、跪けである。少なくても小さな子供に言うべき言葉では絶対にない。
とはいえここで何かを訴えるのは命が危ないし得策では無いため素直に従った。跪く、なんて行為は人生で初めての事だった。
「⋯言われないとわからないだなんて、これだから平民は⋯」
横の女が蔑んだような表情でそういった。
「⋯まあとにかく、本題に入ろうか。⋯この国の皇帝からの命令だ。君にはフォティス政策に参加してもらう。」
「⋯はい?」
この一言が僕のこの場所での第一声だった。
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