ある少年の、語らなかった秘密。
ラテル視点。
僕には、物心ついた頃から姉がいた。僕より五つも歳が離れている優しくて、不思議な姉だ。幼かった自分から見た姉は何でも知ってて、頼りがいのある人だった。
頼り甲斐のある、と言っても僕が幼かったから神格化している面もあるのだろう。何せ姉には横着な一面があることも知っていたからだ。単純に怠け者だったのだろう。幼い子供でも理解出来てしまう程の怠け者な姉、知らない誰かから見ると『情けない姉』と思われるのだろう。
それでも僕にとっては大切な存在で、憧れのような存在でもあったのだ。
そんな姉は、ある日突然この世から消えた。斬首刑だった。
ある令嬢がこの国の皇太子を殺害しようとしたことが原因だったそうだ。何故そんな理由で姉が殺されなければいけなかったのだろうか。姉自身には何の罪も無いのに。
結局、皇太子は死ななかった。姉を含んだあの令嬢に関わる人間が一斉に殺されて終わったのだ。⋯言葉じゃ表せないような、色々な感情が込み上げてきた。
憤怒、悲嘆、嘆き、復讐心、ぐるぐる、ぐるぐる、色んな色の絵の具が混ぜられる様な、そんな感覚が脳内を支配した。
そのせいだろう。僕は姉の首が切断された瞬間、魔力暴走を起こした。元から魔力量が多かったのもあってその規模は膨大だったらしい。辺りにいた人間は殆ど死んだらしい。勿論両親も。
らしい、というのは暴走中は殆ど意識が無かった為、後で話を聞いたからだ。その聞いた場所、と言うのも牢の中であったのだが。当然だろう、故意では無かったとはいえ何百人も殺したんだ。それは罪に値する。
しかしこの国の法では魔力暴走による被害は殆どの場合裁かれない。そう決まっている。だからこそ国の判断が遅れていた。
そして僕の罪状が決定する前に魔族が攻めて来てしまったのだ。国は混乱で溢れた。そこで現れたのがフォティス政策だ。国民の殆どが賛成の動きだった。
政策に駆り出される者達は「国の英雄」と称えられていた。この政策を牢の見回りにいる衛兵の噂話越しに聞いた僕は正直に引いた。家族や大勢を殺した自分が言えたことでは無いのだろうが非人道的だと思っていた。
とはいえ近々処刑される自分には関係の無い話だろう、と高を括っていたのが悪かった。
何とこのフォティス政策に自分も参加することになってしまったのだ。




