ある姉弟の、会話
少しの沈黙の後、先に声を上げたのはラテルだった。
「⋯取り敢えずこの話は置いといて、これからの話しをしよう。」
「これからの、ってどういう事?⋯魔族への対策か何かについて?」
「それもあるけど⋯単刀直入に聞くけど姉ちゃんってまたあの屋敷に就職するき無いよね?」
正直に言おう。その事は全く考えていなかった。ラテルの質問のお陰で今思い出せたのだ。さっき記憶を思い出したんだから仕方ないではないか。
「⋯全く考えてなかった。」そう伝えるとラテルはガクッと項垂れて溜め息をついた。
「姉ちゃんもう少し真剣に考えなよ⋯命に関わること何だし。」
「そう言われても、さっき記憶思い出したんだし、」
何だかラテルの言葉が強くなってきた気がするのだが、気のせいだろうか。しかし、屋敷に就職⋯正直に言ってしまうとどちらでも良い、というのが本音だ。何せ私はすでに二回も死んでいるのだ。
しかも一度目はトラックにドンッ、とぶつかってグシャッと死んだし、二回目なんてギロチンで胴体と首がゴトッと外れているのだ。これ以上に恐怖心が煽られた事なんて無い。そう考えるとあまり怖くないのだ。⋯否、溺死や焼死、窒息死などは全然怖いわ。
⋯もし、また同じようなルートになって今度は炙り殺されたり、拷問なんてものがあったら⋯ゾゾゾっと背筋が凍る。
「⋯やっぱりちゃんと考えるわ。」
「え、うん。」
急に青い顔をして言ってることを変えた姉に弟は驚きを隠せないらしい。しかしまた死ぬかもしれない事を考慮すると屋敷に働きに出ないほうが良いのかもしれない。⋯しかし、もしここで働きに出なくても結局魔族が襲ってきたら死ぬかもしれないし。
「⋯うぅむ、どうしよ⋯」
「え、姉ちゃんまさか働こうと思ってるの!?また処刑されるかも何だよ?否、絶対される!」
ラテルはどうしても私に働いてほしくないらしい。凄いあせりようだ。
「⋯いや、働こうが働かなかろうが魔族が攻めて来たら殺されてお終いだよ?私。」
「魔族の事なら姉ちゃん一人ぐらい僕が守れるから大丈夫だよ!?」
「弟に守られるだけのか弱い姉なんてダサいから嫌なんだけど。」
何度も言うが年下のそれも幼い弟に守られるなんて絶対に嫌だ。それなら死んだほうがマシかもしれない。私は前世で弟はいなかった為前世を含めても初めての弟だ。そんな大事な弟の前で見栄をはってしまうのは仕方ないことなのだ。
「⋯姉ちゃんのそういう唐突にかっこいい事言う所好きだけど⋯今回ばかりは譲れないんだ!」
最後の言葉に力を込めながら言うラテル。しかし両手で赤く染まった顔を隠しながら言っている姿を見ると迫力がなくなる。
「照れちゃって〜。そんなにお姉ちゃんはかっこよかったんですか〜?」
「⋯ニヤニヤしながら言うの辞めてよ。」
おっと、ついつい破顔していたらしい。気をつけなければ。ポーカーフェイスは私のアイデンティティなのだからな。




