ある少女の、姉としての思い。
「⋯何で姉ちゃんは謝ってるの?」
ポツリ、と零されたその一言は零された酷く冷静で落ち着いていた。
「訓練をして戦いに出るだけだよ?そんなに危険なの?」
「出るだけって⋯だって魔族は人より強いんでしょ?それと戦うってことは絶対に負傷者や死人がでるでしょ?」
あまりにもラテルが平坦な口調で喋るものだからついこちら側が弱気腰になってしまった。
「⋯あぁ、まあ確かに魔族は人間より強いっていうのが常識だよね。さっき僕が説明したし。⋯でもそれ以上の強さを身につければ良いだけだよ。負けるのは敵より実力が足りなかった。鍛練が足りてなかった。それだけだよ。」
「え?うん、?」
「まあそういうことだよ」と言葉を続けるラテルに私はこう思った。
(うちの弟いつからこんな強者感出すようになったの⋯!?)
と、いくら私がそんなにおふざけキャラじゃないとはいえ元は現代人で若者。ある程度のユーモアはある。⋯あるはずだ。しかし本当に今のセリフは強者感がある。⋯どちらかというと悪役っぽいが。
とはいえ私は弟のある発言に釈然としない。ある発言というのは『負けるのは鍛練が足りていなかったから』という言葉だ。確かに鍛練や努力が足りていなかったのかもしれないからラテルの言葉は一理あるのだろう。
しかしだ、人には才能があるし逆に苦手分野というものも存在する。血反吐を吐くほど努力したって、死ぬほど願ったって叶わないこと、出来ないことは必ずある、と私は考えている。何でも出来てしまう人間なんて物語の主人公や最強キャラだけではないのだろうか。
というように私はただ単に鍛練が足りなかった、というのもまた違う気がするのだ。まあ、どちらにせよ現実は厳しいというものだ。
⋯しかし、この考えを弟に教えてもきっと理解できないことだろう。なぜならこの子は『出来てしまう側の人間』なのだろうから。この世界に選ばれた側の人間なのだろう。簡単に言うと主要キャラなんだろう、ということ。
だから言わない、言えない。押し付けは嫌だし。常識に縛られて生きるのはとても辛いことだから。思い出すのは前世の事。好きじゃない勉強をして、好きじゃない事を程々にこなして、結局うまくいかなかった前の人生。
折角の自分の人生なんだからせめて弟には、後悔のない一生を。
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