ある少女の、 。
結局考えるのを辞めて食堂でお弁当を食べることにした。お嬢様が原作とは違う人格、または性格だとしても私にはあまり関係ないことだ。どうせ物語に私が関わる事では無いのだから問題は無いのである。
⋯この選択は私の人生最大の過ちになるのだが、今の私がそれを知ることはなかった。
その後、特に問題は起こらなかった。あるとすれば1人の使用人がアイロンを失敗してハンカチを焦がした事ぐらいだ。まあ一日にそう何度も大きな問題は起こらないものである。そうして仕事を終え、いつも通り家に帰った。
朝起きて、お屋敷で働いて、家に帰って家族と夕飯を食べて寝る。そんな日々が続いていた。月日が流れるのは速いものであのメモを見つけた日から一年程たった。
その日もいつも通りに屋敷の清掃をしていた。珍しくお嬢様の帰りが遅く奥様が心配し始めた頃、いきなりドアが音をたてて開いた。開いたドアの先にいたのは皇家の衛兵達だった。
「どういう事?」 「何で衛兵が⋯」
といった声が屋敷中に響く中、衛兵の中の1人であろう者が口を開いた。
「⋯ペカタム・シーカレドが殿下をを殺害しようとした。そのためシーカレド家の人間及び、使用人の身柄を確保させてもらう。」
「そ、そんな!うちのペカタムがそんな事をするわけが、」
「事実です。彼女にはこの件以外にも殿下の婚約者を虐げてきたという件もあります、」
奥様の息を飲む音が響く。⋯一体どうなっているのだろうか。原作ではこんな事は起きなかったはずだ。あったらもっとネットで騒がれていたはずなのだ。つまりこれはイレギュラーな事なのだ。
そう考えている間に私含め全員が拘束された。その後、馬車に乗せられ、皇城の地下牢に幽閉された。牢内で聞いた話だがお嬢様が皇子に毒の入ったお菓子を食べさせたらしい。
皇太子の殺害未遂及び、その婚約者への数々のいじめによりシーカレド家の人間と使用人全員が斬首刑になった。晒し刑らしい。
知らされた次の日にはもう執行だ。順番は使用人が最初で次にシーカレド家の人間らしい。最後がお嬢様だ。あるものは、泣き叫び、ある者は放心状態。私の順番は使用人の方でも最後の方だ。若いかららしい。後輩ちゃんが私の後だ。彼女もやっぱり泣いている。「死にたくない、」とさっきから繰り返している。
私だってもちろん怖い。死の恐怖が薄れる事なんて無いのだ。けれどまた転生するのかもしれないという考えで周りの人間よりは落ち着いている。周りから見ると変な人間だ。
いくつもの断末魔が響いた後、私の順番がやってきた。漫画でよく見るあのギロチンを目の前で見る時が来るとは思わなかった。
「⋯今世もあんまり長生き出来なかったなあ。」
ふと呟いた。前世の最後の年齢は忘れたがそこそこ若かった。今世は更に短いらしい。血の飛び散った冷たい木の縁に首を置く。案外あっさりしているものだ。ぼーっと民衆を見ていると、バタバタと走る足音と高い声が聞こえてきた。
「⋯姉ちゃんっ、姉ちゃん!!」
弟だ。泣きながら走って来る。後ろから両親もおいかけてくる。そんなに入ると転ぶよ、っていつもなら言うところだけど不思議と声は出なくて、変わりに目から涙が溢れてきた。冷たくて鋭い刃が降ってくる。
「⋯ラテル、ごめんね。」
⋯あぁ、ちゃんと笑えていただろうか。最後に聞こえたのは家族の悲痛な叫び声だった。
まだ続きますからね。




