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ある屋敷の、使用人より。

 というのが私の、前の人生。

そう、私は転生したのだ。それも異世界に。産まれたときから記憶を持っていた、という形の転生だった為、自分の姿が赤ん坊になっているとわかったときは驚いた。それはもう本当に。


 とはいえ慣れというのは本当に怖いもので割とすぐに適応していった。いや、適応というよりは認めるしかないという考えに至ったのだが。


 そりゃ転生したら魔法を探求したり新たな人生に心を踊らせるのが物語の定番だとは思うが私はそうではなかった。まず最初に感じたのは不安である。よくわからない世界。元の世界、現代社会ほど発展していない世界。知っている人間も存在しない。こんな環境で不安を感じないことこそおかしいのだ。(私の解釈ではあるが)


 だが私にも多少の好奇心は合った。どうやらこの世界、科学の代わりに魔法が発達しているらしい。定番だな、とは思ったがまあ自分も少し使ってみたいとは思った。


 そして新しい家族。とても優しく、温かい家庭であった。数年一緒に暮らしこの場所も確かに自分の家庭なんだと実感したのである。


 

 私はこの世界で不安こそ合ったが好奇心や新しい家族のお陰でなんとか普通に過ごせている。とはいえ転生。つまり私は一度死んでいるのである。もう一度言おう死んだのだ。


 交通事故、横断歩道を渡っているときに信号無視をして飛び出してきたトラックにひかれた。自分から流れるありえないほどの血液。言い表せないような痛み。死への恐怖。


 

 身体が変わってもあの記憶が、痛みが、恐怖が、今もふとした時に思い出される。いわゆるトラウマになっていた。



 ただトラウマといっても環境や家族のお陰か、はたまた違う何かのお陰か、悟られない程度になっていた。


 

 ここで今世の私についてだ。名はランペ・イニアル。この世界は庶民でも性いわゆる苗字を持っているらしい。ランペという名前を認識したとき(ランプみたいだなあ⋯)とは思ったものの私は気に入っている。


 私の職業はある屋敷に仕える使用人、まあメイドさんだ。ちなみに私の年齢は今年で15歳。立派な未成年である。成人年齢は現代社会と同じ18歳だ。それなら私は働けないだろうと思われるだろうがこちらの世界は未成年でも仕事が出来れば働けるのである。いわゆる実力主義。


 前世から私は家事全般は得意だった為この仕事は天職だった。とはいえこの仕事だって簡単なものではない。洗濯機や掃除機、食洗機など機械の類はほぼいや無い。殆どの仕事は魔法を用いた手作業だ。


 そしてこの屋敷に住むご令嬢は少し、いやかなりの我儘令嬢である。使用人の淹れた私達庶民には手の届かないような高級紅茶を「今日の気分の味じゃない。」と言って投げ飛ばしたり、少し厳しい、しかし実力は確かな家庭教師を気に入らないと言って解約したり。

 

ドレスや小物、お菓子に使用人、彼女の手によってたくさんのものが踏みにじられてきた。一応彼女とは同い年だ。


 私がこの屋敷に就職したのが13歳の時。約3年間、それだけでも彼女の多くの悪行をこの目で見てきた。彼女の手によって散っていく人や物と共に彼女自身の成長も見てきた。


 彼女は年齢があがるごとに暴力的になっていた。最近では使用人達に暴力を振るうのが当たり前になっていた。実際に私も数回殴られている。



 そうして私は思ったのだ、「物語の定番悪役令嬢みたいだなあ」と。

そしてその時にハッと思い出したのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()


 なぜ今まで覚えていなかったのかが不思議なくらいだ。つり上がった赤い瞳につややかなストレートロングの金髪。悪役令嬢の見本のような彼女はこの物語の悪役令嬢であり主人公だったのだ。


 彼女の名はペカタム・シーカレド。高位貴族だそうだ。父の高い財力に権力、家族からの愛を受けて育ち、結果的に彼女は我儘令嬢になったそうだ。


 そして彼女、悪役令嬢にして主役なのだ。いわゆるこの物語は学園恋愛系の悪役令嬢に転生したオタク会社員が元の処刑バッドエンドを避けるために奮闘していき、そうしているうちに男性キャラやヒロインとの

仲が深まっていく。という安定の物語なのだ。


 正直言ってこの物語が前世の私は嫌いな物語ランキングのNo.1になるぐらい嫌いだったのだ。もちろん今も好きじゃない。


 何故かというと、彼女は記憶を思い出す前いわゆる現在なのだが、取り返しのつかないことをしているのだ。ものや食べ物が壊れる程度ならまだ良い。否、全く良くは無いのだが。


 もうすでに人に傷をつけてしまっているのだ。彼女に消えない傷跡をつけられた者は数え切れないほどいる。


 少し前まで私と同年代、少し上ぐらいの人、アナさんという方がいたのだがその人は確か5年ぐらい働いていた方だったのだが、ちょうどお嬢様の機嫌の悪い時に紅茶を持っていくことになったらしい。


 特にミスもしていなかったのに気に入らなかったから、という理由で顔に向かって紅茶を投げつけられたらしい。


気に入らなかった、というのは紅茶のことか、アナさんのことか、わからずじまいだがとにかくそんな理不尽な理由で嫁入り前の女性の顔に消えるかわからない火傷を残したのだ。否、嫁入り前の女性とかそれ以前に人にむかって暴力を振るうこと自体が駄目なのだ



 こういった事例が他にもたくさんあるのだ。こんなことをしてきた彼女が前世の記憶を思い出したからというだけで幸福が訪れる。ひどい話だ。



 私はこの話がどうしても好きになれず途中で読むことをやめてしまった。まあ全ての人間に合う作品など無いだろうという考えで割り切っていたが今の私はこの世界に存在しているのだ。途中で止めることはできない。


 

 この職場から去るという選択肢もあるわけだが今年で3年目の仕事だ。正直簡単にやめたくない。この環境にも正直慣れてしまっているわけだし。


 どうせもうすぐ彼女も前世の記憶を思い出して職場環境も良くなるはずだ。家族にもいらぬ苦労をかけたくない。



 ということで仕事は継続することにした。











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