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夢のクルーズ珍道中  作者: 股旅の於由巳
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08 外された梯子(2024年5月)

4月の初めに残金支払いについてのメールがH社から届きました。

残金は

二人分の料金の残り80%

国際観光旅客税 1,000円×2

政府関連諸税・港湾料・寄港料 15,575円×2

オプショナルツアー代金 二人分

海外旅行保険 二人分

で、そこから早期受付割引(10,000円×2)とポイント分が値引きされました。

早速カードで支払いました。

胸がドキドキしました。積み立て貯金一年分に近い額ですから。




その約一週間後キャンセル料が生じる日がやってきました。

クルーズ船のキャンセル料金は独特です。

旅行開始日の90日前まで無料

89~57日前まで 旅行代金の20%

56~29日前まで 旅行代金の50%

28~15日前まで 旅行代金の75%

14日前以降    旅行代金の100%

クルーズ取消費用担保特約に入っていれば本人、同行者、家族の死亡、病気入院等の場合はキャンセル料金が支払われます。

4月の末には海外旅行被保険者証留守宅控えが届きました。

いよいよクルーズ開始までのカウントダウンが始まったような気がしました。




またプリンセス・クルーズのアプリもダウンロードしました。

このアプリを使えばダイニングの予約等ができます。

でもログインに必要な予約番号がまだ知らされていません。そこでクルーズの担当にメールしてみました。すると教えてもらえました。

出発まで二カ月余り前アプリで出来ることはまだ限られていましたが、それでもワクワクが止まりませんでした。




いろいろやることはありますが、旅行の準備ばかりしているわけにはいきません。私はネット上に小説を書いていました。6月から始まるアルファポリスの歴史・時代小説大賞のエントリーも5月にあります。

時代物やらSF物やら書きながら北海道の寄港地観光の計画を立てたり英会話の勉強をしていました。

一方、夫は退職後、暇をもてあまし小遣い稼ぎにシルバー人材センターに入り、依頼された仕事をやっていました。

このシルバー人材センターの仕事、老人向けとは思えないほどハードなものでした。

草刈り作業から帰宅した夫は疲れ切っていました。

聞けば大先輩方(80代の老婆もいる)の草刈りは恐ろしく速くついていけないとのこと。

他にも草刈り道具はすべて自前、危険な場所で仕事をすることもあるのに労災がない等、あまり細かいことは書けませんが不安要素が目白押し(損害保険はあるようです)。

年金の範囲内でなんとか暮らせるのだから辞めたらいいのにと思ってました。

でも、夫の考えは違っていました。

別の手段で小遣い稼ぎを考えていました。

なんと夫はハローワークに行き仕事探しを始めたのです。ハローワークの紹介ならシルバーより安全だろうと。

どうせすぐには見つからない、旅行が終わった後にでも就職できればいいと思っていたのでしょう。

ところが、すぐに仕事が見つかってしまったのです。こんな田舎でも人手不足は深刻だったのです。面接に来たのは夫一人だったので即決定。6月から来てくれと。

旅行に行く日は休みをもらうからと夫は言いましたが、それ絶対無理と私は内心思ってました。実際駄目でした。その会社夏は特に忙しいのです。

旅行代金の50%のキャンセル料を取られる時期になってから旅行に行けない、しかもその理由は病気でも怪我でもないのですから保険特約を適用できません。

なんなの? 何考えてるの? お小遣いなら必要な額渡してるのに。すぐネットでいろいろと買うからだよ。旅行の小遣いだって別枠でとってあるのに。

アラスカに行ってまうぞ。

ノルウェージャンクルーズの船ならシングル用の部屋があったはず。飛行機でシアトルに行ってスターバックス1号店でコーヒー飲んで、船に乗ってグレーシャーベイで氷河を見て……。現実逃避をしている場合ではありません。大体アメリカ行くならESTA申請しないといけないのに。




ここで思い出してください。「01 クルーズの誘惑」の最後の段落を。


クルーズ船の客室は基本的に二名で使うことになっています。

料金もその設定です。

一名で予約すると追加料金を取られます。

二名分の料金を支払うことになるのです。

夫が嫌だと言ったら諦めるか、二名分支払って一人で行くか、それとも誰かを誘うか。

そう、クルーズ旅行計画のネックは夫でした。


本当に夫がネックだったのです。

ああ、ネックを締めてやりた……いけない、冷静にならなくては。




H社のクルーズ担当にメールをしました。夫が行けなくなった、人数変更できないかと。

するとその日のうちに返信が来ました。発信時間を見たら午後5時を過ぎています。申し訳ないです、ほんと。終業時間過ぎてるかもしれないのに。

丁寧な返信でした。全文は長いので要点をかいつまんで。


○私一人で行く場合は夫の取消料はかからないが、一人部屋追加料金(一人分の料金)がかかる。

○夫に代わって別の人と行く場合は出発の31日前までは手数料が100,000円かかり、それ以降の変更は不可。


ちなみにこれは後で知った話ですが、申込者を変更するのは不可能だそうです。今回は私が申込者だったので夫を別の人に変更することが可能だったのです。




この段階で旅行を中止したら、キャンセル料50%を支払わなければなりません。一人分の旅行代金です。税金やオプショナルツアーの代金はそのまま返ってくるでしょう。保険についてはクルーズ取消費用担保特約以外の掛け金も返ってきます。

ただ夫の新たな勤め先は土日休みで就業時間は短いですが、大晦日と正月三が日以外のまとまった休みが取れません。お盆の休みもありません。当然今後しばらくは二人で旅行はできません。

もうなんというか、梯子を外された気分です。

インデアンカレーを食べるんじゃなかったのか! 

パスポート取るのにかかった費用(16,000円)を忘れたのか!

英会話勉強してたのに!

言いたいことは山ほどありますが、本人が決めてしまったらどうしようもありません。




旅行を中止せずに新たな同行者をと思いましたが、これが難しい。

まず旅行に行く時間と旅行代金を支払えるかという問題があります。交友範囲の狭い私にはそういう知り合いはいません。いても二カ月後に12日間の旅行に行こうなんて誘えません。そんな長時間家を空けられる人はいません。しかも××万円かかるとか。

大体パスポートを持っていると思われる人がいないのです。調べると県民の10人に1人程度しか所持していないようなのです。わざわざお金を出してパスポートを作ってもらうのも申し訳ないです。

実際、私の家族も持っていません。海外に行った経験のあるのは……いました。戦前に仕事で上海に行った祖父と祖母です。それから母の一番上の兄は農協の団体旅行か何かでヨーロッパに行っています。三人ともすでに泉下の人ですが。

母にそれとなくどうかと聞いてみましたが、あと5年早かったらと。

夫の姉に聞こうかと思いましたがやめました。彼女の夫は超亭主関白です。家に遊びに行くと自分はテーブルの前に座って義姉にあれこれ指図するだけです。そんな人が妻の旅行を許すはずがありません。




時間は刻々と過ぎていきます。

担当者はメールに「早めのご連絡をお待ちしております」と書いていました。

もしパスポートのない人に作ってもらって同行してもらうとしたら書類提出まであと三日しかないということに気付きました。

無理だ。日数的にも。

キャンセルか。それとも……。

夫はどうしろと言いません。やめろとも行けとも。

元からそういう人です。私のやることに文句は言わない人です。

決めるのは私です。




次回更新は明後日15日です。

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