11 横浜の黄昏
実家に車を預け新横浜へ出発です。新幹線の指定席券は数日前に指定席券売機で発券しています。
新幹線の駅まではローカル線で。支払いはSuicaです。
駅に着いたらショートブレッドとコーヒーを買ってホームへ。指定席の車両番号が書いてある辺りにはもう並んでいる人達が。私もそこに並びます。
滑るように新幹線がホームに入ってきました。久しぶりの新幹線、なんだか胸が高鳴ります。
指定された席に座ると滑るように動き始めます。ああ、この感覚久しぶり。一人で旅する時の解き放たれたような心地に満たされてゆきます。
窓の外は青空です。
あっという間に博多駅に到着。次の新幹線まで少し時間があったのでホームのコンビニで昼食代わりにパンとおにぎりとお茶を買いました。さっきのショートブレッドがまだおなかに残っている感じでした。
そしてここでもホームに滑るように新幹線が入ってきました。東京行きののぞみです。
以前も山陽・東海道新幹線を利用したことはありましたが、夜だったので景色はよくわかりませんでした。
今回は明るい時間なので様々な景色が目に飛び込んできました。
中でも驚いたのは福山駅です。ホームからお城が見えるなんて。海外の人に宣伝すれば大人気だと思います(もう宣伝しているかもしれませんが)。
こんな素敵な新幹線ですが、普通車指定席に車内販売はありません。3月のダイヤ改正以後グリーン車だけのサービスになってしまったのです。だから乗車前に食べ物を買ったのです。様々な事情があるのでしょうけれど、少し寂しいような。
お昼を食べてお茶を飲んでいるとどこからか犬の鳴き声が。見れば斜め前の席にキャリーらしいものが見えます。その中にいたのです。飼い主さんはキャリーの中の犬を刺激しないためなのか窓のカーテンを閉めていました。幸いにも犬はたまにしか鳴かないし、周囲の乗客も目くじらを立てることはありませんでした。
それにしても外の景色を見る楽しみを諦め周囲に迷惑をかけないようにする飼い主さんの心掛けはさすがだと思います。周りの人も鳴き声に誰も文句を言いません。なんだか心が温かくなりました。
やがて飼い主さんはキャリーとともに降りました。
この後も様々なところでマナーを守る人達を見かけました。
車内販売はグリーン車にしかありませんが、新幹線には誰でも使えるフリーWifiがあります。それで新幹線の運行状況を見ると、時間通り。一分の遅れもありませんでした。今更ながら凄いと思います。やや曇ってきたのでほんのわずかしか見えなかった富士山。でもそれで満足でした。
Wifiと変化に富んだ車窓の景色のおかげで、あっという間に新横浜に到着しました。
キャリーバッグを引っ張って降りました。さあ、ここから乗り換えてみなとみらいのホテルまで行きましょう。
でも構内ってわかりにくいものですね。駅広過ぎます。それで駅員さんに尋ねました。皆さん親切でした。
実は私、三十年以上前に関東地方に寝台特急で旅をしたことがあったのですが、その時なんとなく東に行くにつれて車掌さんが不機嫌そうになっていくように感じられたのです。九州はわりと普通、でも都内の路線では不機嫌そうに切符の確認をしていました。
月日がたって変わったのでしょうか。それとも私の感じ方が変わったのか? どちらにせよ悪いことではありません。
一方、次第に足がだるくなってきました。
私も含め田舎は車社会です。ちょっとした距離も自家用車で移動します。従って広い広い駅をホームからホームまで移動するのは思っていた以上に大変でした。歩き慣れた靴をはいていたのに、後で見たら親指の脇に水膨れができていました。
喉も乾いてきました。駅の中は外より涼しいとはいえ7月です。駅の自販機で水を買いほっと一息つきました。その間にもホームにはひっきりなしに電車が入ってきます。田舎ではついぞ見られない光景です。乗っている人達の平均年齢も若く見えます。世の中にはこんなに若者がいたのかと感動すら覚えました。
それはさておき、ホテルの最寄り駅で降りました。Suicaは便利でした。スマホを改札でピッとするだけで支払いが終わるのですから。
ホテル周辺には飲食店も多く夕食の場所には不自由しないでしょう。
キャリーバッグを引きずるようにしてホテルへと向かいました。船の帆の形を模したホテルは巨大でした。
フロントで氏名を告げるだけで部屋のキーになるカードを渡されました。
部屋は19階です。エレベーターはあっという間に駆け上がりました。
鍵を開けるとごく普通の部屋に見えました。が、カーテンを開けてえっと叫んでいました。窓の向こうには灯りがともり始めたビル、そしてイルミネーション輝く大きな観覧車、その足元には遊園地がありきらきらと光りながら回転するアトラクションが見えました。
シティビューだからビルしか見えないんじゃないかと思っていたのに、こんな景色が見えるなんて。感動しました。しかも港も見えるし。地図と照らし合わせると大さん橋です。そこから明日D・Pに乗るのです。
夕食は近場のイタリアンレストランで済ませました。そこからも遊園地のアトラクションのイルミネーションが見えました。カップルで来たら盛り上がるだろうなと思っていると、やはり私以外は皆カップルでした。
今頃、夫は何を食べているんだろうか。大好きなイワシを焼いて食べているかもしれないなと思いました。私も嫌いじゃないけど毎日イワシはちょっとなあ。
そんなことを思いながらラザニアやおいしいパンを食べました。
外は黄昏。横浜たそがれです。
ホテルに戻りお風呂に。ここで私は驚愕しました。バスタオルがでかい! たぶん私史上一番巨大なタオルだと思います。私の身体全部が覆い尽くせるほどです。昔見た「クレオパトラ」という映画でタイトルロールのエリザベス・テーラーが絨毯か何かにくるまれてレックス・ハリソン演ずるシーザーの元にやって来るシーンが再現できるんじゃないかと思うほどに。後で調べたらワイドサイズのタオルだったようです。
やはり都会の大きいホテルは違う……。
夜更けても外は明るかったのですが、疲れたのかストンと眠りに落ちました。目覚めたのは6時前。
起き上がり窓の外を見ると大さん橋に近づく船、そうです、あれはD・P!
スマホで写真を撮りました。巨大な船の全体が撮れる機会なんてそうそうありません。
この船に乗るのかと思うと不思議な気がしました。一体何が待っているのか。
さて、朝食です。会場はホテル内のビュッフェ。ここでも驚きの光景が待っていました。
男の人がサラダを食べている……!
え? 何を言ってるんだとお思いでしょう。でも、私にとってはこの光景は驚きでした。サラリーマンと思われる男性たち(平日でワイシャツネクタイ姿だったので)がそれぞれ緑の野菜をたっぷりと皿に盛っていたのです。この光景は私の周囲ではほとんど見かけないものでした。
田舎(私の近所の話です)では道の駅のレストランでビュッフェ形式のランチがあったりします。サラダ、カレー、そば、唐揚げ、焼き魚、焼肉、刺身、煮物、白和え、酢の物、ひじき、ごはん、味噌汁、フルーツ、ケーキ等様々な料理から好きなものを取り放題です。そこでよく見かけるのはおじさんたちの茶色い皿です。皿に揚げ物類、肉類が多数載っているのです。
ちなみに私達夫婦がよく行く野菜中心のビュッフェのあるお店の客は8割女性で男性は女性に連れてこられた夫や恋人、子どもという感じです。男性だけというのは見かけません。
とにかく何かあれば肉を食えというおじさんが多いのです。
ところが都会のホテルのビュッフェでは老いも若きも男性がサラダを食べているではありませんか。一人一人のトレイを見るわけにはいきませんが、緑色が多い印象です。
サラダさえ食べれば栄養のバランスがとれるわけではないと思いますが、少なくともバランスをとろうという意識があるのは確かでしょう。言い換えれば自己管理の意識が高いということかもしれません。厳しい競争社会の一端を見たような気がしました。
部屋に戻り「虎に翼」を見てしばしのんびり。
早めに乗船した方がいいというネット動画の教えを参考に10時前にチェックアウトしました。
なお夫は夕食用にシシャモを買っていました。でも疲れて焼くのが面倒になり結局翌朝焼いて食べたそうです。