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2人で飛んでもいいですか?

翌日は意外にも早く目が覚めた。

侍女が起こしに来る前に目が覚めるのは久しぶりだった。

カーテンを開けて外を確認すると、雲一つない晴天だった。

窓を少し開けると涼しい風が流れ込んでくる。

公国は一年を通して気温が一定のため、農作物の収穫も安定している。

帝国では四季と呼ばれる4つの季節があり、それぞれの季節で気温が変わるため様々な農作物を楽しめるらしい。

季節ごとに収穫できる食べ物が違うとも聞く。

今回は手土産に公国ではお目にかかる事がない食べ物があると聞くので、今から楽しみにしている。

扉をノックする音が聞こえる。


「はーい」

「失礼致します」


入ってきたのは、マーニではなく、犬人族の侍女ミンイだった。

右耳が折れているのを本人は気にしているが、私はそれが彼女のチャームポイントのようで可愛いと思っている。

城に仕えてまだ短いため、気持ちが尻尾に出やすく分かりやすいのも可愛い。

いつもは起こしに来るのはマーニため、少し珍しい。


「おはよう、ミンイ」

「おはようございます」


挨拶が終わると、ミンイの視線はソファに移る。

気持ちは分かる。

異様な存在感を放つパンダが陣取っているのだ。

気になるだろう。

それに昨日戻ってきた際に、思ったより多くの城仕の者たちに目撃された。

噂が広がっている気がしていた。


「欲しいならプレゼントするわよ」

「いえ、いらないです」


ハッキリと言われてしまった。

一応尻尾を確認するも、動いていないので建前や嘘ではないようで残念。

できるなら誰かに貰ってほしい。


「マーニは?」

「本日の早朝に自宅に急いで帰られました。娘さんがやっと産気づいたようですよ」

「出産予定日を過ぎても予兆がないって笑ってたのに、やっぱり心配してたんだね」

「初孫ですしね」

「プレゼントにパンダ持って行ったら喜ぶかな?」

「あり得ないのでやめてください」

「やっぱりダメか」

「マーニさんは明日には戻ってくるそうです」

「もっとゆっくりしてくれば良いのに」

「大きな子供が城にいるので気が休まさないのでしょう」

「私の侍女は正直すぎますね」


長い付き合いばかりなので、公の場以外ではほとんど友人関係に近い。

マーニに関しては生まれた頃から仕えてくれているので、第二の母のような存在。


「マーニがいないなら、好きにできるのは今日しかない!」

「あまり好き勝手なさるなら、後で報告しますよ」

「今日は浮島に薬草を取りに行く予定だったんだけど」

「その件はマーニ様からお聞きしております」

「なら、問題ないわね」

「遅くなりすぎないようにだけ、お願いいたします」

「はーい」


今日は黒いシャツに一見するとスカートに見えるショートパンツにロングブーツに着替える。

朝食に向かうと部屋にはすでに、父様と母様と姉様たちが座っていた。

珍しく兄様たち家族がいない。


「おはようございます」

「おはよう。今日は寝坊して来ないと思っていたわ」


長女のコーミル姉様が笑いながら言う。

次女のハルイナ姉様と三女のコアイル姉様まで笑っているので、昨日のお祭りの件は完全に城中に知れ渡っているらしい。


「おはよう、アフィリア。早く席に着きなさい」

「おはよございます、お父様。失礼します」


席に着くとすぐに朝食が運ばれきた。

父様が子供を愛称でなく、ちゃんと名前で呼ぶ時は怒っている時なので、部屋に緊張感が漂う。

説教の内容が予測できるだけに、できれば早く食べ終わって部屋を出たい。

できるなら、食べずにいますぐ出ていきたい。


「アフィリア」

「はい、お父様」

「お前がいつもどう行動しようが何も言わないが、最低限王家の威厳は損なうことがないよう行動しないと言ってきたな」

「はい、お父様」

「16歳の淑女が、体の半分以上が隠れるような大きなぬいぐるみを持って王城を歩く行為をお前は問題ないと思うのか」

「申し訳ございません」


やっぱりあのパンダのせいだった。

城のみんなは私が怒られるだろうと予想できただろうに、誰だ父様の耳に入れた奴は。

後で探して頬を引っ張ってやりたい。

そもそも淑女って何んだ。

私がその言葉に当てはまる訳ないのは父様自身もよく分かっているだろうに。


「分かっているなら以後気を付けなさい」

「はい」


それだけ言うと、食事を終えていた父様は席を立つ。

それに合わせて母様も席を立ち、連れ立って部屋を出ていく。

部屋の扉が閉まってからも、しばらく部屋ではそれぞれが食事するだけの音が響く。


「今回は時期が悪かっただけよ」

「ミル姉様、ちゃんと分かってるよ。ありがとう」

「帝国の人も来てるし、どんなことで何言われるか分からないから。みんな神経質になってるようね。お父様も周りから色々言われて疲れているのね」


コーミル姉様の言葉に、ハルイナ姉様とコアイル姉様が頷く。


「政に関わる人たちはかなり神経質になっているわね」

「未だに帝国の策略で、王家の暗殺目当ても排除しきれないって過激派が騒いでるわ。今回の会談の架け橋をした穏健派は、ありえないと怒っているし。穏健派と過激派が対立しているわね」


ハルイナ姉様の言葉に、コアイル姉様が同意する。

その後も政の話は続くが、私にはよく分からない話ばかり。

でも、兄様の補佐をしている姉様達でも大変そうなので、対立の間に直接立っている兄様たちはもっと大変なのだろう。

ご愁傷様です。

そういう時は、歳が離れて生まれてこれたことに感謝しかない。

薄情でもこれが私なので、口に出さないので許してほしい。


「そういえば、フィーアは今日薬草取りに行くのよね」

「そうなんだけど、父様のあの感じからしてやめた方がいいかな?」

「薬草に関してなら、父様も許してくるわよ。あなたのおかげで薬学が飛躍的に成長したのだもの」


ユーミル姉様が優しく微笑んでくれる。

ハルイナ姉様もコアイル姉様も同意してくれる。


「薬草を取りに行くなら、兄様とカザナフの為に薬を煎じてあげてくれるかしら。最近疲れているから、落ち着けるような薬で良いのだけれど」

「いいよ。分かった」

「なら、私には新しくハンドクリームを調合して。同じ分量のはずなのに、フィーアの調合してくれたものが一番効果あるのよね」

「ハル姉様は、あの入浴剤使わない方がいいって言ってるのにまだ使ってるんでしょ。ハル姉様の肌には合わないから違うのに変えるべきって言ってるのに」

「だってあの香りが好きなんだもん」

「アロマをちゃんと調合したはずなんだけど」

「だって、アロマだと体に臭いが付きにくいんだもん。香水とかにならないかなぁ」

「もう……」

「お願い」

「なら、私は惚れ薬!」

「「あら!コアイルまさか!?」」


コアイル姉様のまさかの要望に愕然としていると、姉2人が目を輝かせる。

輝かせないでほしいし、まさかであってほしくもない。

2人の姉たちの言葉に、コアイル姉様は残念そうな表情で顔を横に振る。


「私ではなく、私の侍女のアグル。第一騎士団の騎士に惚れたらしいんだけど、声すらかけられてないのよね」

「声すらかけられないのに、惚れ薬飲ませるのは大変ね」

「作戦が必要ね」


恋バナに盛り上がる、いつまでも心は乙女の姉様達。

だが、残念なお知らせをしなければいけない。


「残念ながら、惚れ薬なんてありません」

「「無いの!!!」」


ユーミル姉様はただ残念そうに、ハルイナ姉様はこの世の絶望のように、コアイル姉様はとても驚いた三者三様の表情をする。


「フィーアちゃんなら、作れたりしない?」


ハルイナ姉様が縋るような表情で問いかけてくる。


「可能性だけの話なら、作れる。けど、そんなもの作っても使用禁止されるだけだと思うよ」

「なんで!!」


いつものハルイナ姉様なら少し考えれば分かりそうだけれど、冷静さがない今の姉様は気づかない。


「当たり前でしょ。本当にあれば、悪用し放題でしょ」


見かねたユーミル姉様が助け舟を出してくれる。


「でも私、フィーアちゃんなら密かに作って1つくらい持ってると思ってた」


ハルイナ姉様の発言に、コアイル姉様が分かるとでも言いたげに頷く。

姉たちは私のことを何だと思っていのか、一度ちゃんと話し合う必要がありそうだ。


「ごちそうさまです」


食べ終わったので、とっとと部屋を出ようと扉に向かう。


「あ、フィーアちゃん」


丁度、扉を開けた瞬間に、ハルイナ姉様に呼び止められてしまった。


「何ですか?」

「気が向いたら作ってね、惚れ薬」

「気が向かないので、作る予定はありません」

「作ったら、1番に教えてね」


これはもしかしたら揶揄われているのかもしれない。

笑顔で手を振るハルイナ姉様に、同じように笑顔で手を振って部屋を出る。

自室に戻ると、ミンイがすでにカゴを用意して待っていてくれた。


「いつもよりお早いお戻りですね」

「今日は兄様たちがいなかったし、父様からの説教があり、姉様たちからは遊ばれたからね。逃げてきたの」

「相変わらず仲がよろしいですね」

「ミンイの所も大家族で仲が良いでしょ。またお菓子の新作が送られて来たって聞いたよ」

「製菓店の方も順調だと、手紙もくれています。また近いうちにおやつにお持ちいたしましょう」

「それは楽しみ」


ミンイの実家は王都でも有名な製菓店。

最近では、夕方前には品切れになることも珍しくない。

ミンイは長女で、下に妹と弟が合わせて4人いるが、3人がお店を手伝っている。

3人で競い合いながらお店を盛り上げてる。

お店に行くとほぼ毎日言い争いが聞こえるのも、ご愛嬌。

ミンイからカゴを受け取り、いつものローブを羽織る。

ベランダに続く窓を開ける。


「暗くなる前には必ず戻るから、行ってきます」

「今度遅くなった場合は、しばらく外出禁止になるのをお忘れないよう。気を付けていってらっしゃいませ」


完全に忘れていた約束を、思い出さされた。

父様と母様両方と約束したので、破れば本当に外出禁止にされかねない。

今日はちゃんと日の傾きを気にしよう。

フードをしっかり被り、翼を広げた瞬間、いつもの様に戦闘機が一機飛び立つ。


「丁度いい」


翼を広げて思いっきり飛び立つ。


「姫様!危ない行動だけはダメですよ!」


ミンイが大声で叫ぶので、視線を送り手を振る。

分かったの合図だけれど、ただ一緒に飛ぶだけなら危ない行動に当たらないはず。

さっきの発言には関わるなって意味も含まれていそうだったけれど、言われていないので感じ取れなかったことにしよう。

戦闘機はそれなりに早く飛んでいたけれど、私にとっては準備運動に丁度いい。

少し飛び続けたところで追いつけた。

操縦席に座る人間は被り物をしていて、顔がはっきり見えない。

私が並んで飛行していると、スピードを上げ始めた。

私も合わせてスピードを上げる。

最後はお互いトップスピードで飛ぶ。

そのスピードを落とすことなく、戦闘機は高度を落とす。

どうしようか迷っていると、戦闘機が一回転する。

その後、今度は逆回転。

なんだか挑発されている気がする。


「売られた喧嘩は買うと面白い」


同じように高度を下げながら一回転してみる。

次に逆回転。

戦闘機が二回転すれば私も二回転。

三回転。

四回転。

お互いに回転数を競っていたら、気づいたら地上付近。

お互いに急上昇。

お互いに一歩も引かない。

私と互角に戦うことができる人間に会えて心が躍るのを感じる。 

相手の方もどこか楽しげだ。

体力が続く限り、一生飛び続けていたい。

そう思えた。

視界の端で何が動いた。

視線を移すと、操縦席の人間が、手の動きで何かを伝えようとしている。

詳しくは分からないけど、多分この楽しい時間の終わりを伝えているのだろう。

楽しくて忘れていたけど、私も薬草を取りに行く予定があった事を思い出した。

相手にバイバイと手を振る。

戦闘機は船の方に軌道を変えて、私も目的の島へ向きを変える。

今から明日が楽しみだ。

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