二度目のお茶会
だが、夫人の言葉に引っ掛かりを感じる。
「……ほかの子達、とはオレいがいにも婚約者候補がいたのですか?」
「友人候補よ。あの子はまだ婚約するには問題があってね、無理だと思っていたの。ガガーリも、誰にもユリーナの事は話していないはずよ。私も誰にも話さないし。あぁ、ようやく来たわね」
いつもクラウン家に来る時の上機嫌で話す夫人に、ヴィンセントは(問題?)と首を傾げた。
確かに父も、ガガーリがユリーナの話をした事が無いと言っていた。一体どんな問題があるのか。
ガガーリが何度も促しながらようやく辿り着いたユリーナに目を向けると相変わらず俯いたままのユリーナ。
「おこしいただきありがとうございます。ご一緒させていただけるコウエイに、かんしゃ、いたします」
カーテシーをして、ぽそぽそと呟くように言うユリーナ。
そしてすぐに父の後ろに隠れようとするのをガガーリが止める。
「ほら、席に着きなさい」
「ユリーナ、今日のヴィンセントはそこまで眩しくありませんよ」
父と母に促され、テーブルまで歩を進ませられるユリーナは、おずおずと椅子に座り正面に座ったヴィンセントを目の端に捉える。
「ユリーナ、失礼があっても構わないから、ちゃんと向き合いなさい。いいわね」
母の念押しにユリーナは小さく頷く。
失礼があってはいけない。ではなく、あってもいい。とは、この家族同士が仲が良いから言える事でもある。
ヴィンセントを赤ちゃんの頃から知る二人だから気安く、ヴィンセント又はヴィンスと呼び捨てにするし、本来であればヴィンセントも「おじさん、おばさん」と慕っている仲だ。
ただ今回は、ヴィンセントの強い意志によりこの席が用意されている。
そして侯爵夫妻も、ユリーナの人見知りとヴィンセントの想いに答えたくて今回の事には積極的だった。
席に着いた二人を見て、夫妻は
「ヴィンス、ゆっくりしていってくれ」
「ユリーナがあまりにも我が儘を言うようであれば、そこのナナが嗜めてくれるわ」
夫人が示した侍女が一歩前へ出て頭を下げた。
「ユリーナ様付きの侍女にございます」
そう挨拶をしてまた一歩下がり元の位置へ。
「よろしく、ナナ」
微笑をこぼしながらナナを見るヴィンセントにナナは少し顔を綻ばせながら会釈した。
夫妻が邸に引っ込み、給仕する使用人とヴィンセント、ユリーナの二人になると途端に無音が流れた。
侍女がカップに紅茶を注ぎ、それぞれの前に置く。
それでも何の動きもない。
ナナはそっと二人の様子を伺う。
どうやらヴィンセントはユリーナに見とれているようだ。
そしてユリーナはひたすらカップを見つめていた。
いつまでたっても動かない主に
「お嬢様」
と小声で嗜める。
ピクリ、と動いたユリーナは、そっとナナを見た。
しばらく見ていた。その目は小さく左右上下に揺れている。
ヴィンセントはただただ見つめ会うユリーナとナナを見ていた。
どんな構図だ。
周囲の使用人はその三人をただひたすらに静観し、空気と化している。
本当にどういう状況だ。
ゴホン。
とナナが咳払いをした事で空気が動く。
ユリーナが前を向いて、まずは紅茶を一口……いや、二口、三口……………一杯全部ゆっくりと飲み干し、正面にいるヴィンセントを見た。
(ようやく!!!)
周囲の使用人全員が胸を撫で下ろす。
「……きょうは、髪をおろしているのですね」
ほぉ……素敵。
と顔で語りながら言葉を発するユリーナに、ヴィンセントは笑顔になりそうになるのをグッとこらえ微笑にとどめた。
(あまり笑ったらまた目が焼けると言って見てくれなくなる!! たえるんだ、オレ!!)
と顔の筋肉、精神力をフルに使い、ユリーナに答える。
「気にいりませんか? あまり華美なのはこのまないとお聞きしましたので」
着飾ったヴィンセント(クラウン家)は目が潰れる。と言質を取った。と手紙に書いてあったので一切着飾る事なく、侯爵邸に来たのだ。それが項を成したのか、前回よりも長い間見つめてくれる。
服も刺繍が全くなく地味な色合いで、サイズの合わない服をわざと着てきた。
実際、家で試着した時、体に合う服だと似合っていて無理だと判断されたのだ。両親も使用人も、ましてや遊びに来ていた祖父母と友人達も首を横に振ったのだ。
皆、口を揃えて、まさかここまで何でも似合うとは思わなかった。と。
なので、くすんだ色のYシャツに同じくくすんだ色のベスト。ジャケットは無しで、本来なら身に付ける装飾品も無し。髪もセットせずに軽くとかしただけなうえに自らの手で乱して、野暮ったさを演出した。
大きめのYシャツに小さめのベストと、ちぐはぐな物を身に付ければ更に野暮ったさは増す。
これでどうだ!!!! と言わんばかりの毛色の良い貧民街の子供に大変身。
お陰でユリーナがしっかりヴィンセントを見つめている。苦労が報われた瞬間であった。
「……少しだけ目にやさしいです。……むりをなさっておりませんか? なんだか着なれておられないように思うのですが……」
気まずそうに指摘するユリーナにヴィンセントは素直に頷いた。
「そうですね。このような服は着たことがなかったのでしんせんに思います」
微笑を崩さずユリーナを見れば、ユリーナは口をぱくぱくさせながら何かを言いたそうにしていた。
少し首を傾げて「どうしました?」と優しく問いかければユリーナはグッと唇を結んだ後
「わたしのため、ですよね。気をつかわせてしまい申しわけありません。なんでしたら今後は手紙だけでかまいませんよ。ヴィンセント様もおいそがしいでしょうし……」
もじもじしながら必死に言い募るユリーナ。
「いそがしいのはユリーナ嬢もごいっしょでしょう? 手紙もうれしいですが、こうしてお会いしていただけるのはもっとうれしいです」
使用人すらも魅了する微笑みはユリーナにダイレクトタックをかました。
勢いよく下を向いたユリーナは
「手紙だけでおねがいします!」
と叫んでいた。