出会い2
区切りよくしようとしたら、長くなってしまいました。
申し訳ありません。
ユリーナは以外とこのむにむにが好きだ。
家族にほっぺをいじられると、なんだかこそばゆくて幸せになる。遊んで貰ってるような気分になるからかもしれない。
思わず笑ってしまったユリーナは、その笑顔のまま父に言った。
「だって、おとうさまにお友達がいたなんておもわなかったんですもの」
娘からの更なる爆弾に公爵親子が負けた。
「あっははははは!! ガガーリ!! お前、子供に友がいないと思われてるのか!? 今まで誰もこの屋敷に呼ばなかったのか?」
涙目になりながら聞くセフィロス公爵にガガーリは暫し考えてから頷いた。
「そういえば誰も呼んだ事がないな」
「子供が四人もいるのにか?」
「そうだな……あいつらの家には行くんだが……何故今まで呼ばなかったのか不思議だ……」
心底可笑しいと笑い終えたセフィロスに首を傾げるガガーリ。
そんなやり取りを見てユリーナは
「ほんとうにお友達なのですね」
と真剣に言った。
「………友達だよ?」
情けない顔で娘に言うガガーリは、深い溜め息をもらす。
「ユリーナ嬢、ヴェルテン侯爵様はなんども我が家にあそびにきてくれているんだ。ユリーナ嬢のあにうえであられるユリウス殿もよくあそびにくるよ」
笑い終えた子息ヴィンセントが、ユリーナに補足してくれた。
「おにいさまも……!?」
またまん丸お目めで驚き、父を勢いよく見る。
「ユリーナは本当に顔で会話するね」
表情で「ほんとうですの!?」と問いかける我が娘を残念に見つめながらガガーリは
「本当だよ」
と苦笑した。
「セフィロスは結婚したのが遅かったのもあって子供が出来るのが遅かったからなぁ……ユリウスをよく可愛がってくれたんだよ」
「おにいさまは、このビボウにたえられたのですね」
「慣れたんじゃないかな?」
ただ『美しい=強い』とう謎の定義を確立してしまった息子を正すのが、その後とても大変だった事は言わないでおいた。
「ユリーナ嬢は、此方をあまり見てくれないが、私達の容姿が原因かな?」
素敵なバリトンで聞かれ、ピクリとユリーナの体が跳ねた。
そしておもむろに両手で顔を覆うと
「めがやけます」
と小さな声で呟く。
「……………焼けると言われたのは初めてだ……可愛いユリーナ嬢の目を焼いてしまう理由を聞かせて貰えるかな?」
「………見目がうるわしいだけでなく、なんか、キラキラしております。まぶしくて目がやけます」
口早に小声で言いながら俯いてゆくユリーナ。
「キラキラ……?」
可愛らしい子供の声が耳に届く。その声すら、キラキラしている。
そういえば、バリトンの声もうっとりするほど美しい。
なんなんだ! この親子!! 美で殺す気か!? とユリーナの心の中は嵐で渦巻く。
いや、むしろ、聞いているだけならほこほこしながら聞いていられるので、どうか父と会話を楽しんでほしい。そう思いながら指の間から父を見る。
が、その父はユリーナなど見ておらず、思考にふけりながら目の前の親子を眺めていた。
何を考えているのか解らないが、ユリーナはゆっくりと両手を膝に戻し、テーブルを見つめる素振りを見せながら父の様子を伺う。
決して正面を向くことは無い。
その徹底さにヴィンセントは苦笑する。
今まで出会って来た人達に、可愛い、流石公爵家の子息だ、と誉め粗野されてきたため自分ひいては両親の容姿がとても優れている事は知っていた。今まで会った令嬢も自分を見つめたまま動かず、その瞳にはうっとりとした熱もあった。見とれるとはこの事かというほど、はっきりと好意の眼を向けてくる。
だが、この少女はそうならないように「見ない」という選択をした。余りの振りきりにヴィンセントは可笑しくて仕方がない。今までは「ずっと見つめていたい」だとか「自分のモノにしたい」だとか言われて来たのだ。
その気持ち悪さがこの少女からは一切無い。
無論、その父であり、よく家に来るガガーリも気持ち悪いと思った事は一度もない。寧ろ好きだ。
今まで会って来た令嬢は婚約者候補を入れて10人以上だろう。やたらと娘を紹介してくる客人達に嫌気が差していた矢先の婚約だ。両親には妹を抱き締めながら「イヤだーー!!!!」と駄々を捏ねまくり強制的に連行されたタダン公爵家が懐かしい。
「そんなに嫌なのであれば婚約者を作ってしまいなさい。そうすれば婚約者がいるのでお断り致します。とはっきり言えるわ。それに紹介して来る家も格段に少なくなります。言っておくけれど、ヴィンセント。飽き飽きしているのはこの母も同じよ。さっさと婚約者を決めておしまいなさい」
と言われ、それもそうかと思ったのはタダン家から帰って来て、腐りきっていたときだった。
だがしかし、思い直してもタダン公爵令嬢はうっとりと見つめながら「ヴィンセントさまは、すべてがうつくしくいらっしゃるのね。ほうせきばこに、しまっておきたいですわ」と有り得ない事を言いながらヴィンセントを褒め称え、そして自分はそれに見合った容姿と教育を受けていると、自分自慢が始まった。
次に会ったパルメール侯爵令嬢はヴィンセントを見るなり倒れてしまう。思わず受け止めると、熱をおびた瞳でヴィンセントに「もうしわけありません。とつぜん、めまいがしてしまいまして……」と弱々しく口にし、ヴィンセントに項垂れた。
年上の令嬢に何度か同じような事をされていたヴィンセントは(こいつもか……)と思いながらも笑みをたたえ
「大丈夫ですか? 体調がわるいのでしたら、でなおします」
と近くにいたメイドに令嬢を預ける。そうして早々にその場を去った。
馬車の中で父に「キモチ悪い!! 何あの子!! ほんとうに6才!?」と怒鳴り散らし、両親が持ってくる縁談に難癖をつけまくった。
それからのユリーナだ。
最初は令嬢がどこにいるのか解らなかった。
まさか、父親の後ろに隠れ、股の間の微かな隙間から覗いているとは思わなかった。寧ろ、そんな所から覗けるほど小さな令嬢だとも思っていなかった。同じ8才と聞いていたので、それなりの身長かと。
ヴェルテン侯は長身だ。自分の父より背が高い。故に足も長い。だから股の間から覗ける事はあるだろう。
しかし、ユリーナはヴィンセントの肩ぐらいまでしか身長がなく、うつむくとぷっくりした頬に、少し尖った唇が幼さを強調していてとても可愛い。妹を見ている心地になる。
だが一向にこちらを見ない。ちゃんと顔を見てみたいと思ったのは初めてだ。だからか、やきもきしてしまい思わずユリーナをじっと見てしまっていた。
その事に気付いていた父二人は、特に気にした様子もなく、二人を見守る事にした。
そんな中でユリーナの爆弾発言の数々。
父であるガガーリは、娘にぼっちだと思われていた事実にショックを受け、セフィロスは落ち込むガガーリをからかい、とても楽しそうだ。
そしてヴィンセントは、思ってもいなかった令嬢の発言によけい、ユリーナの事を知りたくなった。何て面白い令嬢だろう。と好感度が上がる。驚く時のまん丸な目と、顔全面で語る、令嬢らしからぬ表情が楽しい。
こんなに笑ったのも久しぶりだ。キラキラしていると言われた事も、何だか不思議に思えたが、何より目の前の令嬢が摩訶不思議でビックリ箱みたいで。ずっと見ていたくなった。
「おとうさま、どうかなさいましたか?」
ユリーナの囁き声は、すっと耳に入る。子供特有の高い声であるのに心地好い。
「ん?」
「考えこんでいるようでしたので。……もしかして私いってはいけないことを、いったのでしょうか?」
とても不安そうに見つめるユリーナに苦笑したガガーリと、その言葉を聞いて表情が緩むクラウン親子。
ユリーナはクラウン親子を見ていないので、微笑ましく見つめられている事に気付かず、父の服をそっと掴んでしまった。
「おとうさま……?」
「そんな顔をするな。今まで何故友人達を家に呼ばなかったのか考えていたんだ」
そう言ってユリーナの頬を人差し指で軽く撫でると、ガガーリは
「愛しい妻を見せたくなかったんだと思う」
ぽつり呟いた。
「流石の愛妻家だな」
楽しそうなバリトンにガガーリははにかむ。
「無意識とは怖いものだな」
「それだけ愛情深いのだろう」
にやり顔も様になる美丈夫である。
その後、ユリーナの目は正面に行かない事から、二人きりにさせるのは早いだろうと、父二人が目で語った後は四人(基本三人)で会話を楽しみ、お茶とお菓子を堪能して、クラウン親子は帰宅した。
美貌の塊二人が居なくなると、ユリーナは深く息を吐き出し、父ガガーリの足をポカポカ叩き出した。
「おとうさま!! なんで、おあいする直前にいうのですか!! おきゃくさまって、おじぃさまとおばぁさまだと思っておりました!! キンチョーして、へんな行動しかできませんでしたわ!! もう! もう!! もう~~!!」
怒鳴りながら叩くがそこまで痛くはない愛らしい攻撃を屈んで受け止め、抱き上げる事で止めさせた。
「ごめんごめん、ユリーナ。直前に言わないとユリーナは逃げてしまうだろう?」
「だからって、あう直前にいうのはナシです!!」
プンプンと音が聞こえてきそうな怒りにガガーリは、思わず笑ってしまう。
「なぜ、わらうのですか!!」
もう~!! と怒るユリーナの体をあやすように揺すって歩き出すガガーリは、ひたすら「ごめん」と謝り倒しながら玄関をくぐった。
一方、馬車の中の麗しきクラウン親子は互いに笑顔が絶えなかった。
「とてもたのしい子だったね、父上」
上機嫌で言うヴィンセントにセフィロスは頷く。
「長女のユア嬢の話はよく聞いていたが、まさか紹介してくれるのは次女のユリーナ嬢だとは、驚いたよ」
「ユア嬢? ほんとうは長女とのおみあいだったの?」
「そう思っていたんだ。だが、ユア嬢は12才で、今年学園入学だから避けたのかもしれない。同い年の次女がいるのは知っていたが、本当に話題に出さないんだ。だから何かあると思っていたが、相当可愛がっているね。あそこまで甘々だと思わなかった」
確かによく頭を撫でていたし、娘に向ける視線は愛情溢れるものだった。だがヴィンセントは長男のユリウスにも同じ視線を送っていたので、子煩悩の強い人なのだと思っていたが……
「ユリウス様と、どうちがうの?」
「接し方が違っただろう? ユリウスをあんなに優しく撫でたりしない」
穏やかに言うセフィロスにヴィンセントは、なるほど、と頷いた。
そして、おもむろに
「父上、オレはユリーナ嬢にしようとおもうんだ。だからほかの子たちにあわなくてもいいでしょ?」
満面の笑顔で、そして、少し首を傾けて言う。
「駄目だよ。あと二人、明日と明後日に予定してあるから頑張るんだ」
「どうしてもダメ?」
「駄目だ。一度だけでいい。会いなさい」
唇を尖らせて、下を見てしまったヴィンセントは、暫し膨れながら
「わかった」
と答える。
「じゃあ、一回あったら、もうあわなくていいんだよね」
伺うように上目遣いで質問する息子を見てセフィロスは、我が子ながら自分の容姿と仕草を充分理解していて末恐ろしいな。と冷や汗をかいた。
「あぁ、その後はお前の好きにしていい」
「ありがとう!! 父上!!」
花が咲く笑顔で喜ぶ息子をいつぶりに見ただろう。
我が子とはこうまで愛らしいのか、とほこほこするセフィロスであった。
今後も長さがバラバラになってしまいそうなので、今のうちに謝っておきます。ごめんなさいm(_ _)m