第95話【旅立ちの前の一仕事(6)】
ポートフォリオンで冒険者や船乗り向けに作った『シュトーレン』は長期保存のできる菓子パンである為に冒険者ギルドや船乗りには好評であったが、問題は砂糖が高級品であるという事だ。
冒険者ギルドで製造するにしても孤児院で作って貰うにしても砂糖の価値を考慮してもかなり難しいとゴリガンとフォルトは頭を悩ませていた。
確か、サトウキビから色々な過程を踏んで製造している為に砂糖の価値が高いのは当たり前の事である。異世界で甘味は貴重な筈だ。
だが、早い話をすれば、ポートフォリオンでサトウキビを育てれば良いのだろうがそういった知識が無いというのだ。
はっきりいえば、異世界でもサトウキビから砂糖が取れるのは知らないが、何をどういう過程で作業するのかどう言った物が必要なのか知識は持ち合わせていない。
新しく立てた冒険者ギルドで受付嬢のマリナとステラ、ゴリガンやフォルトらと相談すると
「これはありがたいパンだが、ケーキは貴族や王族しか口に出来ない代物だからな。冒険者や船乗り相手に売るとなると値段がどうしても高くなるな 」
「そうか。確かに金があるから砂糖も大量に購入出来たが、普通は難しいよな 」
「元々、砂糖は輸入に頼っていたからな。塩はまだ何とかなるにしても砂糖は難しいな。シュトーレンを切り分けて販売してもC階級位ないと手が出せんだろうな」
「サトウキビ畑作る必要あるのか?俺の山に自生してるし、甘い花とか植物を食べて砂糖を作る魔物がいるだろ?」
フェローラとバイコーンともに元々暮らしていた山の様子を見に行っていたドラッグはシュトーレンを口に咥えて話を訊いていたが食べ終わると、ドラッグの山には野生のサトウキビや甘い花や植物が大量に自生しており、それを食べて砂糖を作る魔物がいるというのだ。
だが、フォルトやゴリガンはそういった魔物の類いに覚えがないと言うのだ。
バイコーンに訊ねると人が知らない魔物などいくらでもいると言うのだ。
そもそも、肉食で人肉を好み人を襲う事を生業にしている魔物の魔獣の類いが人に知れ渡り後は大昔に見た程度の知識しか持ち合わせていないと言うのだ。
実際に冒険者ギルドの古い魔物や魔獣の文献が纏められてる書物を見せて貰ったが、バイコーンの言う通り人里を襲ったり、人の手で造られて暴走した魔物や魔獣ばかり描かれていた。
確かに冷静になって考えてみれば当たり前の事か。 前の世界でも未開の地はあるし、新種の生物だって発見されて人の手で名前が付けられる。
未確認の魔物や魔獣がこの世界にいても何ら不思議な事では無いのだ。
「言われてみりゃ、確かに魔物や魔獣に名前付けるのは人間だな。名前が付けられて生態や特徴とか調べられるのか 」
『大体、魔素を含む植物だけを好む無害な魔物や魔獣もいるんだ。我だって高品質な魔素を含んだ植物を求めて大陸を移動する魔物だぞ?人間なんて食えないし、無闇に人里に行く理由がない』
「そういえば、バイコーンも元々はかなり稀有な魔物だったな。確かに植物を食う魔物からしたら」
『その道中で高品質なドラッグにあっただけだ。ドラッグの体内魔素は植物を育てる力が強い。フェローラのエネルギー源でもあり、全ての植物を育てる力を持ってるから移動して探すよりも側にいた方が美味い飯にありつけるからな』
人間視点で考えすぎていたがここは異世界だ。前の世界のが文明の利器はあるかもしれないが向こうにいない【魔物や魔獣】がいるのだ。
何もサトウキビから砂糖を取らなくてもそういった生物がいる世界だ。
誰でも簡単にと思っていたが向こうで簡単に手に入っていた代物が高級品である事は当然あり得る事だ。
実際に買い込んで貰った香辛料もハーブ類もいい値段をしていたし、魔物や魔獣がいる世界での農耕は難しいかも知れない。
すると、ゴリガンがその魔物についてドラッグに訊ねた。
「それなら、その魔物か魔獣を連れてきて育てることは可能だろうか?」
「どうだろうな。こっちから手出ししなきゃ比較的無害な魔物だしな。あの亀は・・・」
「亀の魔物か。それで砂糖を作るって甲羅の脱皮か?」
「そうそう、俺らはその亀の魔物を『シュガー・タートル』って呼んでるぜ?普通に手渡しで果物とか与えられるし、懐いたら餌くれると思って近づいてくるぞ?」
ドラッグの話通りなら、その亀の魔物は比較的に大人しい無害な魔物だろう。ただドラッグやガーベラ、フェローラという強者相手に従っているだけかも知れない。
下手な事をするよりリザーナで試すのが手っ取り早いだろう。リザーナに攻撃的な姿勢を見せたら敵意あり、見せなかった敵意の無い魔物だろう。
その事をゴリガンやフォルトに使えると本当に魔物使いのかと頭を悩ませていた。
そもそも、魔物使いの基本は魔物を屈服させて隷属契約をするらしいがリザーナとは口約束だけでそんなものされた覚えがないのだ。




