第94話【旅立ちの前の一仕事(5)】
第一目的地はクロニアス王国にある迷宮踏破と米の入手である。フォルトとゴリガンがそれぞれ各地方の冒険者ギルドに転移魔法のアイテムで送りつけて貰っていた。
まだトレーラーハウスも完成してない為、内装を考えながら全て手作業をしなければならない。その間、リザーナが面倒事を起こさないようにちゃんと仕事も与えておいた。
「み、ミックス~これ、し、しんどいよ~」
「他にやる事ねぇし、丁度良いだろ?頑張れ」
ポートフォリオンで飼育されている牛の魔物・カウモーウとヤギの魔物・ゴートスリープの絞った乳を瓶に入れて振らせていた。
簡単にいえば、バター作りである。かなりの重労働であるがリザーナや子どもらでも十分できる作業だ。落としそうになってもメルディアが水魔法で地面に落ちる前にフォローしてくれた。 大量に必要なら、エレーナに樽事尻尾で振って貰えば大量に作ることは出来るだろう。
だが、まだ修行に熱中しているのか戻ってくる気配はない。
その間にトレーラーハウスを作ってしまった方が楽だろうと作業をしているが、ポートフォリオンの建築家達も見学に来ていたのだ。別にその道のプロではないが、必要最低限の生活用品が揃っていれば良いだろうとは考えて作っている。
それに風呂も欲しいからエレーナがとぐろを巻いて入れる位の広さで十分だろうし、石窯を設備してあるトレーラーハウスは魔道コンロ同様に備え付けにしてしまえば、使い勝手が良いだろう。
最悪の場合は外で即興の風呂を作ってしまえば、自分だけは良いだろうし、寝室とリザーナらが寛げるスペースあれば十分だろう。
「あれ?ミックスが入るには小さくない?」
「阿保か。夜に見張りなしは危険だ。トレーラーハウスより巨大な魔物や魔獣に襲われたら壊されるだろう?そうならないように俺は外で休むつもりだ」
「え~!!それじゃ夜這いに行けないじゃんか!?なんでそんな事するの!?」
「・・・当たり前だろうが!!人が折角作ったもんを寝てる時に壊されてたまるか!!ってか、そんな事をする暇があるなら、リリスの力を目覚めさせる事に集中してくれ。半分はリザーナの努力次第でもあるんだぞ?」
薬神ディオスの話では女魔王・リリスの力で俺を武器化させてレッドクリムゾンの巨大な魔鉱石で出来た魔核コアを破壊する必要があるのだ。
リリスの部下だったガーベラから話を聞いたが俺もリザーナも良くわからなかった。
旅の道中で何かしろの切っ掛けがあれば覚醒する可能性は十分にあるだろう。
取りあえずはトレーラーハウスは完成した。建築家に内装をみても良いと許可を出して後はパン作りだ。
元々、バターはリザーナらが帰ってくる前に作っておいたものがあるし、ドライフルーツもラム酒に浸けておいたものがあるし、ナッツ類も市場で見掛けて大量に購入しておいた。
元々バター作りはリザーナ達のパン作りように自力で作らせるための遊びだ。
作るのは何度か作ったことがあるシュトーレンというドイツの菓子パンだ。
まぁ、単なる興味本位で作ったことがあるパンがこれしかないのでリザーナらがバターを作っている間に焼いてしまおう。
酒に浸けておいたドライフルーツの水気を拭き取って砕いたナッツ類と用意してパン生地とバター生地を混ぜ合わせて置いた物に投入して混ぜ合わせる。
手で丸めて温かい場所で20分~30分程発酵させる。確か、ボールとかに60℃位のお湯で容器事温めるのがオススメだった筈だ。
めん棒やヘラも作っておいたし、孤児院でパン工房でもやらせるのも面白いかもしれない。
そう考えていると、作業をみていたガーベラが近づいてきた。
「へぇー、ミックスもパン作り出来るんだね?ちょっと意外ね・・・」
「あぁ、前の世界で少しだけな。やったことがあるってだけだ。美味いとは思うぞ?長期保存ができる菓子パンだからな」
「へぇーなら冒険者向けに売れるかもしれないわねぇ。基本的にドライフルーツとか干し肉とかとても美味いと言いがたいし物だし・・・」
「孤児院でも作れりゃ、冒険者ギルドに下ろせるだろうしな。それに船乗り相手にも商売できるだろう?」
ポートフォリオンは漁業と貿易が盛んであるが、船乗り相手に話を聞いた所やはり公開中の保存食は不味いと言っていたのだ。
そこで長期保存ができるシュトーレンを思い出したのだ。
元々はクリスマスに向けて食う菓子パンだったと思うが長期保存できて上手いパンなら売れるだろう。
後は平らにして中に両端を折りたたむ。そして、折りたたんだ生地の表面にめん棒でくぼみをつけるように押して後は手で形を着けて石窯で焼く。
オーブンでも出来るがこっちでガーベラが作れれば子どもらにも食わせられるし、教えられるだろう。
確か、石窯の場合は焼き初めの9分しか膨らまないんだったか?
まぁ、熱エネルギー以前に火炎魔法で火力は何とか出来るが子どもらだけだとそうは行かないだろう。
下火の焚き火に水を掛けて水蒸気で膨らせる方法もあったような気がするがオルティガンやセルマいるし、その辺りは上手いことやってくれるだろう。
この世界には魔法もあるし、熱調整は何とかできるだろう。
焼き色が着いたらすぐにシュトーレンの表面に溶かしたバターをまんべんなく塗る事で長期保存が可能になる。 後は市場で見つけた粉砂糖をまんべんなく全体に振り掛けて完成だ。
確か、粗熱が取れたらラップを被せて保存する筈だが異世界にラップはないし、バケットに入れて布を被せるのが正解なのだろうか?
ただ、バターや砂糖を大量に使ってる為に何日も掛けて少しずつ食べるものだ。
それにこのまま食べるのではなく、薄く切って食べるものだし、その辺は上手いことやるだろう。
取りあえずは包丁で薄く切って食べられるようにして完成でいいだろう。
「ほれ、出来たぞ~。前の世界で俺が作れる唯一の長期保存のできる菓子パン『シュトーレン』だ」
「おぉ!!いただきまーす!!」
「リザーナ、どこから・・・。それにしても結構砂糖やバターを使うから貴族向けなのかしら?」
「その辺は知らん。ただ長期保存の効く食い物で俺が知ってるのはこれだな。それ以外だと魔核収納とか時間経過を気にしなくて済むスキルが必要だろうな」
唯一作れたのはモテる為に菓子パン作りのサイトを見ていた時に『これなら簡単だし作れるわ』のノリで作ったことがあったからだ。
口が裂けてもリザーナらには言わん絶対に前の世界でどう言った女が好みだったのか聞かれる事になる。
実際に前の世界では彼女は出来ても長続きはしなかった。良くあるいい人止まりの男だったからだ。
まぁ、異世界来てそれが役に立つとは思っても見なかったが後はこれがこっちでも流行るのかは冒険者ギルドや船乗りの口コミとガーベラや孤児院の子どもらに掛かっているだろう。
メルディアも満足そうに食べているが確かに太りやすいのは事実だろう。ちょっとずつ食べるものだしな。仮に肥ったとしてもバター作りで運動も兼ねているから大丈夫だろう。




