第9話【 エデンの街・一番の冒険者・ドラッグ 】
ダリル伯爵から家を貰った事で街での生活は安定している上にリザーナも魔物使いとしての役割りをこなしていた。 土魔法のお陰でエデンの街を魔物から守る城壁の修繕工事が想定していた期間よりも短縮された為に報酬額上乗せされたのだ。その活躍もあり、冒険者階級も無事にFからEに昇級する事ができたのだ。
冒険者階級が上がった事ではしゃぐリザーナの相手をしながらマリナとステラからの新たな依頼を受けていたのだ。
このエデンの街は【フェンナト王国】という国の領地であるらしい。
エデンの街から西側に向かった先に王都アストロティズから定期的に商人にが荷物を運び込んでくるのだ。
前に助けた商人にもそのフェンナト王国の首都・アストロティズからエデンに向かっている最中に魔物に襲われてしまったらしい。
少なくとも馬車は無事であり、ダリル伯爵の計らいで馬も新たに用意して貰い、護衛の冒険者の他にエデンからも警護の為にDからC階級のパーティーに護衛の依頼を掛けたというのだ。
だが、リザーナの階級はEに上がったばかりである為にその護衛の依頼を受ける事は出来ないが、その変わりに少し特殊な薬草採取を依頼されたのであった。
リザーナとミックスに依頼されたのは【B階級の薬草採取】の依頼であったからだ。
「ちょっと待ってよ!ステラさん!マリナちゃん!エデンの街の冒険者階級って高くてもCでしょ!?」
慌てるリザーナが困惑するのも無理もない話であるからだ。
エデンの街の冒険者パーティーは平均的にE~C階級が多く在籍しているのだ。
特にC階級からB階級への昇格審査基準の壁が高いからだ。
その為、万年C階級止まりの冒険者も珍しくないと聞いていたからだ。
少なくともB階級上がった冒険者パーティーの多くは王都や他に羽振りの良い国の【護衛職】と呼ばれる王国直下の冒険者パーティーとして雇われて迷宮攻略を生業とするのが高階級冒険者の一般的な選択であるからだ。
つまりはこの依頼を受けるにはB階級の冒険者がいなければ受けられない依頼である筈の為、リザーナとともに困惑を隠せなかったのは事実である。
だが、ステラはこのエデンの待ちにもB階級の冒険者はいるというのだ。
新人のマリナはあくまでも【噂】として聴いたことがある程度のパーティーである。
一言で言えば『素行不良の冒険者』であるというのだ。
本来の実力であれば、A階級以上である人物だという噂である。
だが、王族や貴族を毛嫌いし、従わないだけでなく、フェンナト王国の国王の顔面に蹴りを入れた伝説を残しているのだ。
普通に国王の顔面に蹴りを入れたのであれば死刑なるだろう。
だが、その冒険者の職業が稀有な【薬剤師】であり、特殊な製造法で回復薬や魔力回復薬などを製造できる上に病気などの薬作りもできるスキルを取得している為に王都から離れたこのエデンの街で街の雑貨屋を営んでいるというだ。
ステラから話を聞く限りかなり危険な人物であるのは間違いないが、その冒険者からリザーナとミックスは直々の依頼をされたのであった。
そして、その人物らもこの冒険者ギルドに来るというのだ。
すると、ボサボサの銀髪に長身でボロボロのローブような服と黒い長ズボン、腰のベルトに短剣を差し込んでおり、目付きの悪い男が入ってきた。
リザーナは珍しく後ろに隠れる素振りを見せなかったのだ。
男はギルドにはいると当たり前を見渡してからミノタウロスを見つめるとゆっくりと近づいてきた。
「俺が依頼主のドラッグだ・・・。スラム出身で職業柄からそう呼ばれてた名残でそう名乗っている・・・で、エルフの嬢ちゃんがリザーナか?」
「うん。 あのドラックさんだよね!!?」
「有名人なのか?」
「そりゃもう!薬作りをさせたらエルフよりも凄い腕を持ってて上級サキュバスとアルラウネとも契約したっていう偉業に王様の顔面に蹴りを入れて唾を掛けた異端児って!」
リザーナの言葉にドラッグは大笑いし始めたのだ。何よりもミノタウロスと契約を成立させるだけの『何か』をリザーナはもっていると予測し、興味があるというのだ。
本来であれば、迷宮ボスの魔物を使い魔にする事は不可能である。
だが、リザーナはそれを可能にした事と狩人から魔物使いに職業が強制的に変更したにも関わらず、リザーナは楽観的に捉えていたが実際は大事であるとドラッグは語る。
ドラッグは悪魔の書で上級サキュバスと契約をして名付けをした事で契約は成立させたが、職業が変更になるという事はなかったからだ。
更には森で見つけたドライアドとアルラウネの混合種にも名付けをして仲間にしている過去があるからだ。
つまりはミックスとリザーナは根本的に契約成立の為に職業を変更しなければならない『何か特別』な事情があるとドラッグは考えているのだ。
確かにこのドラッグという男の話が本当であれば、リザーナは狩人から魔物使いに強制的に変更しなければならない事情があると考えるのが普通だろう。
リザーナがまるで気にしていなかったが、冒険者ギルドで様々な話を聴くと自分とリザーナの契約には名付けのほかに魔物使いにならなければいけない理由があると考えるのが妥当だろう。
ステラとゴリガンが何故リザーナとミックスに依頼をしたのか尋ねてきたのだ。
すると、ドラッグはここ最近の魔物の生態系や魔力濃度が異常だと話し始めたのだ。
「ゴリガンの旦那は知ってるだろうが、俺の身体は特殊体質で空気中の微量な魔素を体内に溜め込んで魔力にする事が出来る体質なんだよ。
んで、ここ最近の肌で感じる魔力濃度が異常に高くなってるんだよ・・・」
「それと薬草採取と何の関係が・・・?」
「空気中の魔素が高くなると魔物は一気に強くなる。稀にある突然変異種ってヤツだな。
つまりはその原因を発生させている魔物のが地下にいて魔力を放出してこの辺りの魔物にも影響が出てる訳だよ。
多分、この辺りだけじゃなくてフェンナト王国も怪しいが俺はあの国は嫌いだからな・・・
んで、これだけ高濃度な魔力を放つ迷宮には希少な薬草が良く育つ事があるが、原因がわからない。
そこで伝説のミノタウロスのミックスとリザーナちゃんと調査を兼ねて臨時パーティー依頼を頼もうと思ってな・・・」
飄々とした態度でゴリガンに目的を話すドラッグであるが、冒険者として活動はここ2年行っていないというのだ。
しかし、ドラッグはこの2年間はある薬作りの為に研究に没頭しており、薬草採取の為に魔物との戦闘もしていたというのだ。
だが、ドラッグが欲している迷宮の調査をしたがサイクロプスが群れを作っておりかなり高難度な迷宮になっている為に放置するのは危険な状態であるというのだ。
そして、少なくともエデンの冒険者レベルはドラッグよりも低い為に伝説のミノタウロスを使い魔として従えているリザーナに白羽の矢が立ったという訳であった。
ある程度の事情を聴いたが、こちらへの対価としては冒険者階級の昇格に繋がる功績を全て渡すというのだ。
少なくともA階級に昇格するとフェンナト王国から招集が掛かるという方針である。
しかし、それを受け入れてしまえば王国の為に迷宮攻略をしなくてはならず、国王の飼い犬になるのが不服なドラッグからすれば好きに迷宮に出入りできるB階級で十分であると言いきったのだ。
まだE階級である為にここで大きな功績をあげればより良い依頼を受ける事もできる為にこちら側にもメリットある。
まぁ、リザーナはそんな事など気にせずにドラッグと迷宮攻略にいける事を喜んでいた為に腹の探り合いにはならない。
ドラッグはそんなリザーナを見て笑い、ミックスに大変そうだなと声を掛けてきたが、噂よりも粗暴で乱暴な印象は感じなかった。
断る理由もない為にリザーナらはエデンの冒険者の中でもトップランカーの冒険者・ドラッグと臨時パーティーを結成して迷宮攻略に挑むのであった。