第78話【フェンナト王国の末路(2)】
魔族はフェンナト王の娘を気に入った。彼女には明確な目的がこの若さでハッキリとしていたからだ。
そして、それを魔族である自分や神々と戦った巨人の戦士達を利用して成し遂げようとしているからだ。
この娘の名は『フラム』というらしい。年齢は6歳という幼さであるが、我々に脅えた幼い娘という姿を演じられるほど肝が座っている人物でもあった。
それは父親に対して強い憎悪と嫌悪感を抱いていたからだ。
今、この場にいる妃はフラムの実の母親ではなく後妻にある人物である。
本来であれば、フェンナト王ではなくフラムの母親が正当な王家であったが、欲深いフェンナト王とその側近らによって暗殺されてしまった。
幼い自分を残したのには魔王レッドクリムゾンを封印した大魔導士メルディアの魔法と聖女である母の血筋の関わりが必要であったからだ。
自分は父親から愛されてなどいない。寧ろ、このフェンナト王国を肥やす為に生かされているのだ。 この2人も魔道具により『本当の妹・娘』と記憶を植え付けられているが聖女の血筋を引いているフラムにはその効果を無効に出来る。
だが、それを父は知らない。そして自分の娘だと思っている愚かな継母は父の愛人であった人物だ。
前々から自分の母親と国の方針で意見が食い違っていたを今でも覚えている。父は邪魔は母を消して聖女の血を受け継いだ自分を愛人との娘という事にして『母は子どもが産まれず、病に倒れた』という父にとって都合の良い環境にされてしまったのだ。
『私はあの愚王を父とは思ってません。だから魔王レッドクリムゾンの復活に協力します』
『フフッ聖女の血を継ぐ娘が魔族に力を貸すとは想定外の出来事ですが、こちらとしてありがたいことですがね』
『女神様は母を見捨てました。なら神にとって『聖女』とは都合の良い依代なのでないかと考えてしまったのです。まだ魔族・・・いや、悪魔と契約した方が現実的に目的を果たせますからね。フェンナト王国の滅亡と父へ復讐が望みです。後はそうですね。外の・・・別の世界を見てみたいですね』
『ふぅむ。これはこれはなんと素晴らしい悪感情だろうか?
つまりは実母を裏切り愛人の娘として育てられた事を恨んでいると? とても素晴らしい悪感情だ!!
しかも女神の使いとして名高い『聖女』が発するものはなともいいがたい珍味だろうか!!!』
魔族は人間の感情を好物とする為に喜怒哀楽の激しい人物との相性が良いのだ。少なくとも魔族はフラムを気に入っていてた。
フェンナト王国の近く魔王レッドクリムゾンの本体が封じられている山の近くにある岩石地帯に巨大な岩石同士が植物の蔦で不自然に巻き付けられている隙間に小さな洞窟が出来ていた。
フェンナト城の地下から通じる抜け道を通り抜けるとここに通じているというのだ。
実際に。巨人の首領・ボルカが他の巨人にフラムが指差す場所を掘り起こすと確かに通路が存在していた。
「ここにお父様がいる筈です。前にお兄様とかくれんぼしてた時に私見ました・・・」
「オイ!お前らこの大岩を退かせるぞ!!!」
「「「オォッ!!」」」
だが、巨人達が近づくと岩石同士を繋ぎ合わせていた植物の蔦が突如として巨人達に巻ついてきたのだ。他の巨人が斧や剣で蔦を斬るが何度も再生して巨人達を妨害してきたのだ。
この蔦の正体は魔王レッドクリムゾンの復活を考える魔族に対抗する為の用意された防御壁の手段であった。
臆病者であるフェンナト王が自身の身を守るために逃げ込むにはこれ以上ない防壁であろう。
『蔦にお兄様とお義母様を掴ませて下さい』
『ふぅむ。どれ、やってみようではないか?』
魔族は・巨人の首領・ボルカの掌で脅えていた2人を蔦に襲わせると蔦は巨人達から離れ、2人に纏わり始めたのだ。
この蔦はフェンナトの血とそうではない人間に強い恨みを抱いてたドライアドの成れの果てである。騙されたドライアドの怨念は強くフェンナトの血を継ぐ者とそうではない女を強く恨んでいた。
このドライアドは母である聖女の声に力を貸してくれたのだ。それを裏切ったのがフェンナト王であるが、ドライアドはフェンナト王に手出し出来ない契約をしてしまっていたのだ。
『聖女』の血とフェンナトの血を継ぐフラムは蔦と交渉していたのだ。必ず近い将来その恨みを晴らさせてると約束を果たしたのだ。
すると、蔦は兄であった者と母であった者を包み込み地面へと潜って行ってしまった。岩石を繋ぎ合わせていた蔦も朽ち果ててしまったのだ。
魔族は不敵な笑みを浮かべてボルカに岩を退かせる様に伝えたのだ。間も無く魔王レッドクリムゾンは復活する。
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一方でフェンナト王は剣を構えて魔王レッドクリムゾンの魔核を封じ込めている間に一人でいた。
この場にはフェンナトの血を継ぐ者か聖女の血を継ぐ者しか入れない。家族を見捨てても自分は特別な人間であり生き延びなければならないと思い違いをしていた。
魔王レッドクリムゾンを封じ込めている力は大魔導士・メルディアと聖女であった前妻であり、フェンナト王はただ政略結婚でその役目に和って入っただけであり、特別な存在ではない。
万が一の自体が起きてもフェンナト王自身にはどうする事も出来ないのだ。愚王には特別な力など最初から備わっていないからだ。
無論ここにはドライアドの蔦があり、例え魔族や巨人であっても破ることは出来ないだろうと高を括っていた。
どうせ巨人達は妻や子ども達を食い殺してしまうだろうと思っていたからだ。
だが、その予想は外れ魔王レッドクリムゾンの魔核を守っていた岩石を持ち上げられてしまい、地上に姿をさらしてしまったからだ。
【破壊の邪竜】の異名を持つ魔王・レッドクリムゾンは膨大な魔力のおかげでフェンナト王国は潤っていたのだ。
魔族に抱き抱えられた娘のフラムは魔族に操られてしまったのだろうかとか唖然とした表情を見せると娘と魔族はクスクスと小馬鹿にしたように笑い始めた。
そんな事はどうでもいい。この場を護らなくてはならないと剣を構える。
だが、魔族はそんな事をして無駄だと剣身をへし折ってしまったのだ。
そして、腹を手で貫かれてしまったのだ。
「あぁ、哀れな愚王よ。特別な力を持ちわせていないのに勘違いした愚かな者よ。鍵は返してもらうぞ?まぁ、もう聞こえてはおらんか」
「仕上げに私の血と魔力が必要です。まだ足りないので魔族さん分けてくれませんか?」
「小娘。我ら巨人族の目的は・・・」
「知ってます。天界に、神々に復讐をしたいのですよね? 私もです。聖女として女神に選ばれた母を助けてくれなかった女神に復讐したい。協力するのにこれ以上の意味は必要ありますか?」
フラムの言葉にオルガは豪快に笑うと承諾した。そして、魔族との関係を深める意味合いを込めて名付けをする事になったのだ。
フラムは魔族に『ケミカル』と名付けたのだ。
護身用で持っていた短剣でフェンナト王の亡骸から装飾された鍵を取るとその宝石に血を滴し、ケミカルと手を繋ぎ、魔王レッドクリムゾンの魔核が封印されている水晶にある窪みに鍵を差し込むと封印が解かれ魔核は魔王レッドクリムゾンの身体が封印されている山へと向かっていた。
そして、地響きとともに目覚めた魔王レッドクリムゾンが地上に姿を表し復活を遂げたのであった。




