第35話【 フォルトとの約束(2)】
冒険者階級昇級試験の為に迷宮【ゴブリンの巣穴】に到着する前にドラッグはキーンに渡した剣とリーナに渡したナックルダスターには魔法が付与された【付属魔法印】であり、ゴブリンの巣穴に到着する前に使いこなすよう無茶振りを指示し始めたのであった。同じく【付属魔法印】が付与されている槍を渡されたゼギラも驚いた顔をしていたがドラッグはセンスがあると思ったから渡したのだ。
基本的に魔力さえ流し込めば、後は馴染んでしまえば、手足の様に使いこなせるのは【付属魔法印】の武器の特徴でもある。
だが、【ゴブリンの巣穴】に近づくに連れ異変が怒っているのにドラッグは気づいた。
本来ならば、ゴブリンが出てきた所を狩る魔獣がいないのだ。
気になった為にガーベラに飛んで貰い、空から様子を伺って貰ったが魔物や魔獣の気配が異常に少なくなってきたのとやたらと【ゴブリンの巣穴】から離れているのだ。
「・・・こりゃあちょっとヤベェかもなぁ」
「ヤバいってどういう事だよ? 魔物や魔獣がいないならそれはそれでいい事だろ?」
「バカタレ。魔物や魔獣の世界は弱肉強食なんだよ。敵は冒険者だけが相手じゃねぇんだ。
なら、魔物の中でも一番弱いゴブリンを狙うだろ?んで、近くには【ゴブリンの巣穴】があるんだ。
野うさぎとか猪を狩る狩猟部隊を襲撃して喰らう魔獣もいるくらいだぞ?」
「じゃあ、魔物や魔獣が意図的に巣穴から離れているって事なのかしら?」
リーナの言葉に他の冒険者は難しい顔を見せたが、2人はその意味を理解できていなかった。
低級ゴブリンは武器や武具を使いこなせるだけの知性はあるが、そこまで強くない為に魔獣からすれば格好の狩り場になる為に巣穴があればその辺りを徘徊するのが一番効率良く自分よりも弱い魔物や魔獣を喰らうことできるからだ。だが、それをしていないとなると、立場が逆転している可能性が高いからだ。
ゴブリンの上位種であるホブゴブリン一匹やゴブリン・マジシャンなど少し高い知性を持ったゴブリンは狡猾な連携や罠に嵌めて逆に他の魔物や魔獣を狩りの対象にしている可能性が高いのだ。
そうなってくると話は大きく変わってくる。驚異度が跳ね上がり討伐も難しくなってくるからだ。
「・・・どうするんだよ?取りあえずは巣穴周辺の調査はするのか?」
ゼギラがドラッグに訊ねると、このまま巣穴の調査を続けるというのだ。少なくともこれでB階級の昇級試験に難易度は跳ね上がるが、冒険者にトラブルは付き物である。
本来ならば出現しないような強力な魔物が現れる事も無い訳でないからだ。
「大丈夫だ。無理そうなら、巣穴を爆破して生き埋めにする許可は取ってあるからな・・・」
「んなっ!?迷宮なのに壊しちまうのかよ!?」
と、言われてもマトモな冒険者が育成できず、昇級試験が行えない事や試験官になる冒険者が長らく不在で迷宮管理もマトモにできない状態で放置されていたのだ。
これでは宝の持ち腐れであり、ただ危険を放置しているのと何ら変わりは無いからだ。
ポートフォリオンは三幻神の一人であるレヴィアタンの加護で被害は無いだろうが、エデンの街には多大な被害が及ぶ可能性があるだろうし、フォルトもゴリガンにも許可済みである。
もしも、フェンナト王国のバカどもが文句を言ってきても何もしてこなかった連中にとやかく言われる筋合いは無いだろうし、そもそもドラッグが相手では部が悪いからなにも言えないからだ。
「取りあえずはゴブリンの巣穴の近くまでいって調査をしてから迷宮に入るか判断をする。もしも、危険だと判断したらゴブリンの巣穴は爆破して処分する事は了承済だ・・・」
「まぁ、俺は昇級できる訳だから良いけどドラッグさんにゃ何の対価が無いじゃないか?」
「俺の対価は情報だよ。ゴブリンの巣穴がそれだけ危険になっているって事は魔物や魔獣が凶暴化してあちこちの迷宮から溢れ出てくる可能性が高い。つまりは・・・」
「ポートフォリオン近くで【スタンピード】が発生する可能性が高まったって事になる訳ね・・・?」
C階級ランク冒険者・レミーラがドラッグの言葉を遮って放った【魔物や魔獣による死の行進】の言葉に冒険者達は戸惑いを隠せなかった。無論、キーンとリーナも【スタンピード】を経験した事はないが知識として知っている。
少なくとも、高難度の大迷宮・ラビュリンティスの守護者であった怪物・ミノタウロスが地上に現れた事を考えればありえない事態でないからだ。
ここから先は周囲の警戒を強めてゴブリンの襲撃に注意するようにドラッグは指示を出すと【ゴブリンの巣穴】に向けて移動を始めたのであった。




