第33話【 破格の昇級試験(4)】
ドラッグはキーンに渡した剣とリーナに渡したナックルダスターには魔法が付与された【付属魔法印】であり、ゴブリンの巣穴に到着する前に使いこなすよう無茶振りを指示し始めたのであった。
同じく槍を渡されたゼギラも驚いた顔をしていたが、ドラッグはセンスがあると思ったから渡したのだ。
本音をいえば今回のこの昇級試験が破格なのは元々、国や冒険者ギルドや騎士団が放置していた為に急遽、冒険者のレベルアップが必要になった事である。
特に今回の目的であるゴブリンの巣穴には個人的な依頼で調査しなくてはならないからだ。
特にダークエルフのセギラとアマゾネスのターシャにも関係があるからだ。
お前らの種族はこの【禁書】・『クッ殺せ!貴様の○○○には屈服しないぞ!!』というシリーズモノの官能小説が女エルフとアマゾネスの間で流行っているのだ。
そのうちの一つが【ゴブリン】が入っているのでその調査も兼ねていると話すとセギラとターシャは両手に顔を覆った。
「・・・知ってるよ。それが誰が書いて何処から出回ったのか知らないが反響が凄くて・・・。ワタシにもまわってきたよ・・・」
「あ、やっぱり?アマゾネスの族長は寧ろ、オーク派らしくてゴブリンは無理だって・・・」
「・・・エルフの里では大問題になってるからな。王女が当てられてオーク探す旅に出ていたし、第2王女はエルフが讃えている狩猟の女神・アルテミスから呪い受けて・・・」
「えっ?・・・もしかしてリザーナの事か?」
ゼギラの言う第2王女のエルフが狩猟の女神・アルテミスから呪いを受けたというならば、リザーナしか当てはまらないだろう。
ゼギラは驚いた表情を見せたが、ドラッグが広場にいたミノタウロスと蛇身といたエルフがリザーナであるというとエルフ違いだというのだ。
ゼギラが知っているリザーナ王女は大人っぽいエルフであり、あんなにも小柄ではなかったというのだ。
すると、ガーベラがリザーナが受けた【リリスの呪い】について何処まで知っているのか訪ねると里では他言無用といわれてしまい呪いについては話して貰えなかったというのだ。
これで大方の検討が着いた。 リザーナはリリスの呪いで身体が若返っている。
少なくともエルフは成人するまでに莫大な魔力が必要であるが、リザーナにはそれが足りていないように見えていたが、リリスの呪いで魔力を吸収されてあの姿になってしまったのであれば魔法が使えなくて当然だろう。
ドラッグが思考をしていると、C階級冒険者・レミーラが剣先をドラッグに向けてきたのだ。
何故、そんな貴重な武器や魔法の鞄を自分に渡したのか問いただしたのだ。ガーベラはそんな態度を取るレミーラに向かって鉤爪を伸ばして威嚇するが、ドラッグが制止させた。
理由は単純だからだ。
本来なら、定期的にポートフォリオンとエデンの街の冒険者ギルドから昇級試験の為に攻略した迷宮・【ゴブリンの巣穴】が4年も放置されているのにゴブリン達がエデンの街に襲撃してこない事に疑問を懐いたからだ。
すると、キーンが先に狙うならば近くのポートフォリオンではないかと尋ねるが、それは絶対に起こる事はない。
海には三幻神の一人・レヴィアタンが強力な魔力で街を覆っている為に並大抵の魔物や魔獣は襲ってこれないのだ。
そして、エデンの街にはその加護が届かない為にゴブリンが大量発生していれば間違えなくエデンの街に襲撃している筈だが、ゴブリンの目撃例がないのが問題なのだ。
「何でだよ? ゴブリンが襲撃してこないなら良いことじゃネェかよ?」
「ど阿呆。ゴブリンの中にも階級があって巣穴じゃ生きていけない程の数がいるから襲撃してくるんだよ。それが起こってねぇし、この辺りの魔物もゴブリンに狩りをされねぇ所を見ると・・・」
「・・・そんな事が・・・?ありえない。ありえない筈だ!!!」
「ちょっとレミーラさん、落ち着いて下さいよ!!?」
突如としてレミーラが剣を落として身体を震わせたのだ。ドラッグはゴブリン達が巣穴を拡張して迷宮を作り直している可能性が高く少なくともゴブリン達を指示している魔族か高い知能を持った者がゴブリン達を率いている。
少なくともB階級のドラッグらと自分達だけではどうにもならないレベルの数のゴブリン達が巣穴には無数にいるだろう。
下手をしたら全滅という場所に向かっている事実を全員が認識したのだ。
キーンとリーナは飛んでもない場所に向かっていると生唾を飲み込んだが、ゴブリン如きで喚いてるようじゃB階級冒険者としてはやっていけないとレミーラを睨み付けたのだ。
このフェンナト王国は昔から冒険者として経験を重ねれば重ねるほど腐りきった国が悪政を振り撒いているからだ。
現にこの辺りの魔物の魔獣はドラッグが薬作りに集中する前には弱かったが異変を感じて冒険者として活動を再開してみれば、魔物や魔獣は格段にレベルアップしていたのだ。
ポートフォリオンやエデンの冒険者ギルドに苦情を入れても恐らく現状を打破できる冒険者はギルドマスターのゴリガンとフォルトだけである。
だが、ギルドマスターには街に残り民衆を守るために残る義務がある為に街に頼れる冒険者を数名は残しておきたいのが本心だというのだ。
少なくともフェンナト王国にスカウトされてA階級になったとしても実力的いえば、今ここにいるメンバーと差ほど大差はないからだ。
フェンナト王国の周りの冒険者ギルドに入ってしまえばこう言った依頼も受ける事はない。
長年、魔物や魔獣と戦って培ってきた【勘】が鈍ってしまい使い物にならなくなってしまうからだ。
実際にフェンナト王国で何度も大暴れてして実力をしているドラッグだからこそ、今回の昇級試験で結果を残して本物の冒険者の数を増やさなければならない状態になっているのだ。
少なくともC階級冒険者・レミーラはフォルトが期待をしているのだ。
ならば、ドラッグが冒険者として教えられる事は至極単純である。
期待された以上の結果を出せる冒険者になることだ。
強い冒険者とは常に強敵と渡り歩き自信をつけて強くなるもの事であり、真に強い冒険者は階級に限らず実力で結果を残せるものであるのだ。
少なくともゴブリンの巣穴の調査で冒険者として自身の殻を破って強くならなければこの先冒険者としてやってはいけないし、フェンナト王国みたいに落ちぶれた冒険者にならない為にも本物の冒険者になる覚悟を見せなければ無いと言いきったのだ。




