第2話【 迷宮探索と迷宮からの脱出 】
ミノタウロスになってしまった事を受け入れて地面に突き刺さった戦斧を手に取り、迷宮を探索に向かっている。正直に言えば、こういった感じの場所は苦手だし、斧等使った事もない。
だが、身を護る自己防衛の頼りになる武器はこの戦斧1本のみしかないのだ。覚悟をきめて宝物の最奥の部屋から出て情報収集と探索に向かったのであった。実際に迷宮を探索してみると、造りがかなり複雑であり宝物の最奥の部屋にたどり着くのは至難だろう。
土壁は継ぎ目も全く同じであり、目印になる物が特にない。迷宮内部の明かりも巨漢なミノタウロスの身体でも届かない位置に光る原石が一定距離に設置されている。ミノタウロスになってから頭の中には『宝を守護する事が義務』という認識はあった。
だが、状況を理解して想った事は何故『怪物が何処の誰のものかわからない財宝を護らなければならないのか』という理由がわからないのだ。こんな迷宮に財産を残して怪物に護らせたら必要な時に使用する事が出来ない。 それをわかってやっているのか理解する事ができない。
貴族か金持ちか、政治的資金の横領の金か知らんが、ミノタウロスが護ってたら持ち主でも殺されるってちょっと考えたらわかると思うがけどなぁ~。
実際に強い怪物に自分の『財宝を守護する』って事はわかる。確かに財産を護りたいというのは人間ならば当たり前の考えであるし、それを守護する番人や罠を仕掛けたいというのはわかる。
だが、結果的にその財産を守護している怪物に殺されては意味がないだろう。結局は無駄な金を使って軍を動かすか冒険者がいればそいつらを雇って討伐依頼を発注する事になるだろう。金持ちの道楽で迷宮で財産の守護などやっていられるか。ミノタウロスにとってのメリットがない。誰かの宝を守護する事でミノタウロスのメリットはなんだ?
財産を狙う盗賊団や国から派遣された冒険者や軍隊を相手にするのがメリットになるのか?宝を守護する為だけに戦うなど何のメリットも感じないだろう。
ミノタウロス目線での立場で考えてみれば、何も損得なしで宝のある迷宮に閉じ込められている怪物に過ぎない。 そんなことを考えていると通路の大広間に大柄な蛇がいたのだ。想像していたよりも巨大な身体を持った大蛇を見て『死への恐怖』を肌で感じ取る事ができた。だが、宝物の最奥の部屋にいても何れは飢餓で死んでしまうのが関の山だろう。
「どうせ、殺れなきゃ殺られるだけだ。ここであの蛇と戦って勝てないと色々と不味いよな。
取りあえずはやれるだけことを試してみないとダメだな。まぁ、蛇だし食えるか?今はミノタウロスだしいけるだろう。多分・・・」
覚悟を決め、大蛇のいる大広間に姿を表すと大蛇も自分の気配に気づき、身体を起こして威嚇してきた。
まさに『弱肉強食の世界』での命懸けの死闘負ければ食われて死に勝てばそれを食らって生きられる場所にいる。単純に生きる為に他種族を殺して食うか食われるかの話である。気が付けば、身体が本能的に戦斧を振り、大蛇の首を切飛ばしていた。
身体の部分がシタバタと暴れ、切り落とした首は眼光を開いたまま動かない。身体はミノタウロスでも心が人間であるせいか生で食べていいのだろうか?と不安が過った。だが、本能はミノタウロスであり、ジタバタと暴れる身体を押さえ付けて蛇の身体に食らい始めていたのだ。
蛇を食べようか悩み思考している事と行動が一致しない状態だった。まるで身体の差に違和感を感じつつも何処か蛮族的なミノタウロスらしい考え方も納得している自分がいるからだ。感覚的な事をいえば、もう一つ人格というべきだろうか? 狂暴で野蛮な【ミノタウロスの思考】が交雑したような心情があると言えば良いのだろう。
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ミノタウロスになってからどれだけの月日がたったのだろうか? ミノタウロスの生活にも順応して迷宮での暮らしや大まかであるが、この世界に着いて少しだけわかった事があった。
この迷宮にいる怪物らは外では【魔物】や【魔獣】と呼ばれており魔法を扱える。
そして、魔物には魔核と呼ばれる人間でいう心臓の役割りを果たしているモノが体内に存在する。
その魔核にモノを詰め込める事も出来るがそれは魔物の強さある魔力量によって容量が違ってくるらしいのだ。
つまりは迷宮に入ってくる魔物を倒して食べて魔物の力の源である魔力を強めればあの財宝を体内に全て収める事が出来る筈だと思い付いたのだ。
手当たり次第に出会う魔物達を倒しては食べてミノタウロスの魔核収納を拡大して何処の誰の財宝か知らないが迷惑料として全て持ち去ってやろうと決めていた。
そして、何よりも魔核を鍛えれば魔物としての器も強くなる為に強力な魔法や耐性も身に付く事がわかった。
ミノタウロスのスキルは【鈍器格闘】・【魔法耐性】・【物理耐性】・【土魔法】・【硬筋肉】・【怪力】と大抵の攻撃耐性がある上に戦斧を扱う過程でかなり高いスキルを獲得していたのだ。
まぁ、魔物に出会って食べている最中にレベルアップしてステータス画面が表示された事で知ったのだが、どうにも知識のない魔物は【本能的】に必要な知識を収得するが知性があれば選択する権利はあるようだ。
実際にレベルアップした際に覚えるかどうか選択する余地があるようだが今のところはこれが今の手持ちの武器である。
少なくともレベルも70と高レベルになっているために計画していた通りに財宝を全て体内の魔核収納に詰め込んで本格的に迷宮の外に出ようと実行に及んだが、とにかく財宝の種類が多いのだ。
金貨を初めとする王冠やブレスレットやネックレス、剣に兜、宝玉など様々な宝がここにはあるのだ。
魔物である自分が持っていても何の役に立つかはわからないが外に出れば少なくとも何らかの手段の一つとして使えるだろう。
大金は人々を狂わせる事も出来るし、説得に応じないのであればミノタウロスらしく力業で倒してしまえば良いのだ。
「さて、迷宮攻略するか。 多分、ここは最下層の最奥だから上に上がる階段を探してみるか…」
人の手で人為的に造られた構造であるのはわかっていた。だが、上からは魔物が地を擦る音や足音などが聞こえたからだ。何よりもある期間上からはこの迷宮は雨漏りが起こるのだ。
つまりは造られてから古くなり至るところに隙間が空いておりそこから雨水から流れ込んできているのだろう。
取りあえずは迷宮の最奥の宝物の守護者が自分であるなら自分よりも強い魔物はここにはいない筈だ。
まぁ、念の為にレベルを70という中途半端な所で辞めて迷宮攻略に移ろうと思ったのは少なくとも迷宮攻略中にレベルをカンストすると思ったからだ。
ここが地下迷宮の最奥の宝物間であり、その守護者がミノタウロスである自分ならばかなり深い迷宮である事を踏まえても迷宮内で魔物には必ず出会うだろう。
そうすれば、勝手にレベルも上がるし、迷宮攻略も出来る。一石二鳥であるのだ。
だが、これの判断が間違えであったと気づいたのはアイツと出会ってしまったからだ。
「金貨、貸してください !!!」
武器を捨てて、敵である魔物に対して土下座をしてきたエルフの少女との出会いが一匹のミノタウロスの物語の始まりであったのだ。