第19話【 予想外の旅立ちへ 】
スラム出身で人間性に難のあるドラッグが唯一信頼しているB階級冒険者の2人はドラッグをまるで弟のように可愛がっていたのだ。
魔物である自分にはそういった感情はない筈だが、ドラッグとその2人の冒険者のやり取りを見ていた先にふっとそう思ってしまったのだ。
何故なのかはわからないがそう感じてしまったのはエデンの街で人間と掛かってるからだろうと特に気にする事はその時はしなかった。
現実的に今のままでは冒険者として何時くたばってもおかしくない状況であるからだ。
少なくとも自分の迷宮でレベル上げをして強くなった気になっていただけだったとブロンテスとの戦いで実感したからだ。
何よりもリザーナは他の人間とは違い長寿の民であるエルフである為に軽く2~3000年は生きる種族である。
そして、魔物は死なない限り永遠に生きる事ができる種族であるのだ。
好きに生き、好きに食い寝て好きな異性を抱いて数を増やすのが普通の魔物らしい。
少なくともミノタウロスはそういう怪物であると教えられたからだ。
つまりはミノタウロスとして自分はおかしいな異端児なのだろう。 あの場でリザーナを犯さずに逆に止めたしまったのだ。
それも名付けをする前にだ。 明らかに自分はミノタウロスとしての【本能】が戦闘以外はまるで人間のような思考になってきていると薄々感じてきていたのだ。
すると、ドラッグの頭を豪快に撫でていた肌の黒い鎧と大剣を身に纏った重戦士が近づいてきたのだ。
「お前さんがドラッグが手紙でいってたミノタウロスのミックスか? 俺はオルティガンっていう者だ。宜しくな!」
「ミノタウロスのミックスだ。で、この隠れてるエルフが魔物使いのリザーナ、それと|蛇身〈ラミア〉のエレーナだ。よろしく頼む」
ドラッグが手紙で話していた為にミノタウロス相手でもかなり好意的に話をしてくれるが、エデンの街では見かけない黒い肌の持ち主であった為かリザーナが怯えているのが気掛かりであった。すると、オルティガンは【ダークエルフの呪いを受けた人間】ではないとリザーナに笑みを浮かべたのだ。
リザーナは安心した表情を見せたが、【ダークエルフの呪い】という意味がわからなかった。
そこにドラッグともう一人の知り合いである黒く大きな帽子と色白な妖艶な姿をした服装をした美女が近づいてきたのだ。
名前はセルマといい、ドラッグが知る限りでは魔術師の仲間でS階級の実力を持っているが、母国・フェンナト王国の方針に反発的であり、ドラッグを擁護した為にB階級冒険者として活動しているというのだ。
そして、そのセルマは【ダークエルフの呪いを受けた人間】について教えてくれたのだ。
話を聞くと魔族や悪魔の肌は基本的に茶褐色・青紫色・黒色と言われている為に悪魔の肌を持つ人間を迫害する風習があり、黒い肌を持った人間はダークエルフに呪いを受けたせいで肌が黒くなったという噂がある為にエルフ族のリザーナからすればいい話ではないからだ。
実際にフェンナト王国では肌の色や人種差別撤廃を求めた者が死刑になったりしている為にほぼ全ての種族や一定の人間から嫌われている国であるというのだ。
そして、今回の一件でフェンナト王国からエデンの街に拠点を完全に移住するというのだ。
そんなに簡単に決め手いい事なのだろうかと、尋ねると2人は笑って答えたのだ。
「まぁ、王都で冒険者として活動しているとエデンの街では冒険者として活動するのも変わらんしな・・・」
「それに話を通してくれたんでしょ? ダリル伯爵にね・・・」
ダリル伯爵に話を通してくれたというのはどう意味であろうか? すると、ドラッグはオルティガンは冒険者として稼いだ金で孤児を食わせているから自分等が港街の都市【ポートフォリオン】に滞在している間はこの屋敷に住んでいいことになっていたのだ。
驚いていると、ドラッグはリザーナを見た。
「あ、言うの忘れた!!ゴメンね?けど、留守にするよりもいいでしょ? ドラッグが信頼している冒険者に屋敷を守って貰えるなら安いものでしょ?」
「それは良いがせっかく手に入れた屋敷をまだ顔を合わせた奴らに任せていいのか?」
「最初は怖かったけどいい人だって思ったから!ほら、エレーナ達も子ども達に人気だよ?」
オルティガン達の後ろにはフェンナト王国から乗ってきた馬車があったが、そこに多くの子ども達がおり、エレーナとガーベラが遊んでいたのだ。
ドラッグ曰く商人が乗ってきた馬車がダメになってしまった為に手配してくれて時にオルティガンの私情を知ってる為にエデンの街の屋敷に済ませる条件付きで話を進めていたと言うのだ。
勿論、家主であるリザーナにはそれを承認済みであると言われたのだ。
リザーナを睨み付ける。だが、普段通りに能天気な笑みを見せた為に阿保らしくなってきた。
そして、商人が荷馬車に商品を積み終え次第港街の都市【ポートフォリオン】に向けて出発するとドラッグは不敵な笑みを浮かべたのであった。




