第14話【 生態系の異変(5)】
リザーナとともに壁に吹き飛ばされた蛇身の回復の為にブロンテスをガーベラ達に任せたドラッグであったが、ミックスの魔力の流れが変わった事に気付くと視線を送った。魔物は本来ならば本能的に体内の魔力を利用して過酷な生存競争に生き抜く為に【肉体強化】を自然に取得している事が当たり前であるからだ。
ガーベラやフェローラも魔力を体内に流し込む【肉体強化】は勿論できる。だが、【武装強化】は【肉体強化】とはまた別物であるからだ。 武器を扱う魔物は少なく、ほぼ【肉体強化】のみでの戦闘しか出来ないからだ。
武器を扱う魔物は使い方を理解する事は出来てもそれを強化する【武装強化】を使いこなすのは困難だといわれているからだ。実際にこの蛇身は【肉体強化】を自然に行っていたが、サーベルに魔力を流し込み強化する事は出来てなかった。それが本来ならば自然的な事である。
少なくとも、ブロンテスの攻撃を耐える事は出来るだろうが、致命傷を与えられる攻撃を与えるのは難しいだろう。
だが、ある意味で冒険者として【肉体強化】と【武装強化】の両方を取得出来なければ冒険者としてやっては行けない上に身を護る手段の一つとして魔力増強する修練にもなるからだ。
つまりは例え魔力量が少ない戦士や武闘家、狩人もこの二つの魔力の技術を使いこなせれば、自分にあった魔法を付与してもった特別な武器が存在するからだ。
実際に魔法が付与された【付属魔法印】の魔石を埋め込まれた武器を扱う事が出来るようになる為に戦術の幅や強さに研きを掛ける事が出来るようになり更に上を目指せるからだ。
これから先の事を考えればリザーナもミックスも【肉体強化】と【武装強化】は上級冒険者として必須スキルであるといえるからだ。
もしも、ここでミックスがそれを使いこなせれば間違いなくS階級の冒険者と対等に戦える怪物になるだろう。
すると、リザーナが再び回復薬を口移しで流し込むと蛇身は身体を起こしてブロンテスに襲い掛かろうとしたがドラッグが止めに入ったのだ。
「何だよ!? 邪魔するな!! アイツはワタシが倒すんだ!」
「そりゃわかるぜ? けど、今の蛇身嬢ちゃんじゃ、ブロンテスの皮膚に傷は付けられても致命傷を追わせる事は出来ねぇ。それは本能的に理解できるだろ? 」
ドラッグの言葉に蛇身は歯軋りをして悔しさを滲ませた。
それは本人が本能的に理解できている事だからだろう。 リザーナが何故、そんな事をいうのかドラッグに訊ねた。すると、ドラッグはミックスが【肉体強化】と【武装強化】を取得すれば、元々持っている戦斧には付属されている魔法が付与されいる【付属魔法印】の武器であるからだと語ったのだ。
ミックスが同じ紋章が刻まれているといった戦斧の斧頭には【付属魔法印】の魔石を埋め込まれているからだ。
つまりは戦斧に【肉体強化】で練り込まれた魔力を【武装強化】の技術でより強大な魔法技が使えるかもしれないからだ。
実際にミックスの体内の魔力量が膨れ上がり、戦斧に魔力が注がれているのがハッキリと目に映ったからだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
実際にガーベラに言われた通りに全身に流れている魔力を両手で持っている戦斧に流し込むと普段よりも濃い魔力量が溜まってきているのが感じ取る事が出来た。 そして、ミックスの戦斧は魔力を受け取った事で真の力を発揮させると脳裏に技名が流れ込んできたのだ。
「 爆砕ッ!!!」
戦斧を振り回し力業で叩き斬る事しかしてこなかったが、自然を斧の先端に魔力が集中している事が手先から伝わってきたのだ。
まるで戦斧に一つになったかの様に刺先から爆発系の魔法を放出したのであった。
その爆風の影響で穴の空いた洞窟内はまるで煙突の中のように煙で覆われしまったのだ。
少しずつ煙が晴れると爆発をもろに受けたブロンテスは膝を付き、フェローラが蔦で手首を絡めている為に倒れる事が出来なかった。
流石にこちらに倒れられると押し潰させてしまうと思いフェローラが蔦でブロンテスを仰向けに倒した。
だが、ブロンテスはまだ息があった。 辛うじて生きていたが、既に虫の息であったのだ。すると、ドラッグはリザーナと蛇身とともにブロンテスに近づいてくると懐から針の入ったケースを取り出してそのうちの1本を額に投げ差したのだ。 薬剤師のスキルで作った特殊な麻痺針であり、ブロンテスが万が一にも起き上がらないように念には念を込めたドラッグの思いやりであった。
ドラッグは蛇身に顎でブロンテスにトドメを刺せと指示をした。すると、蛇身はこちらを見てきた。確かにこれでは獲物を横取りしたように思えるだろうが、本来は蛇身の獲物でありこちらが勝手に横取りしたのだ。 少なくもドラッグや自分ではなく、同胞の敵討ちの為に戦いきた者に敬意を払うのが筋だろう。すると、ブロンテスが弱々しい声で話し始めたのだ。
「お、おのれ・・・神々への・・・巨人族の復讐の邪魔をしおって・・・だが、魔族は魔王様は必ず・・・神々と人間を滅ぼすぞ・・・? 」
「知るかよ。 アンタらはワタシら蛇身を滅ぼした。これはその罪滅ぼしだ!!!」
蛇身はサーベルの先端をブロンテスの巨大な瞳に突き刺してブロンテスを仕留めたのであった。
蛇身はやりきった事で目玉に突き刺したサーベルの柄から手を離すとその場で泣き崩れてしまった。
リザーナが蛇身にそっと寄り添う中、ドラッグはブロンテスの言葉が気になっていた。
魔族が【破滅の魔王・レッドクリムゾン】を復活させようと暗躍している事や巨人族の生き残りであり、神々に怨みを持つ種族を配下に加えようとしているのだろうと話した。
事情は詳しくは知らないが、その破滅の魔王を復活させる為に魔族が至るところで魔力を増強させ知性の無い魔物達を強化しているのだろうというのだ。
取りあえずは1度、冒険者ギルドに戻って報告をして今後どうするのかはギルドや聖騎士団や各国の国の王族達が決める事であり、ドラッグらは特に興味はないそうだ。
「俺は自分にとって大切なガーベラとフェローラが護れればそれでいいしな。 魔族が魔王復活させそうが喧嘩を売られなきゃこっちからわざわざで向いてやる必要はネェしな・・・」
「そうか。確かにわざわざこっちから魔族に喧嘩売るメリットはねぇし、少なくも売られた喧嘩は買うで良いのか・・・」
ドラッグの言葉に共感しながら、倒したブロンテスの遺体を見つめていた。
すると、ブロンテスの遺体は巨大な大剣に変わってしまい蛇身のサーベルが突き刺していた場所を失い、バランスを崩して地面に倒れる音が鳴り響いた。
巨大な大剣を持とうとリザーナが持ち上げようとしてみるがビクともしないのだ。
仕方無いと持ち上げてみるが、自分が持っている戦斧よりも重かったのだ。
意地になり、戦斧を地面に突き刺して力業で持ち上げるが少ししか持ち上げる事が出来なかったのだ。
「止めとけ。腰痛めるぞ?こりゃ【魔剣】だ。しかも、魔法が付与されいる【付属魔法印】の武器でミックスの戦斧と同じだな・・・」
「だが、何でブロンテスの遺体からそんなものが・・・?」
恐らくは魔物特有の魔核収納にしまってあり使いこなす事ができる魔族の戦士にでも献上したかったのだろうとドラッグは推測したのだ。
自分でも持つことが難しかった魔剣をドラッグは軽々と持って見せたのだ。
一旦冒険者ギルドに戻って魔剣の事や今後の事を話し合う必要がある為にエデンの街に戻るというが蛇身はどうするのであろうか?
既に棲みかも同胞も皆殺しにされている。
どうするつもりなのかと蛇身を見ていたが、視線の先にはドラッグとリザーナをじっと見つめていた。
そして、リザーナに近づいて後ろから抱き締めたのだ。
「なぁ。エルフのお嬢ちゃん?アンタはワタシの唇を奪ったよな? なら、責任取ってくれないと困るなぁ~」
「・・・確かに女の子に大事なファーストキスを奪った罪は重いね。何が望み?」
「アタシをアンタの従魔にしてくれよ!少なくも変える場所もねぇしな。それに2度も救われたからな・・・」
「なるほど。ミックス!良いよね?」
確かにこのまま蛇身だけを置き去りにするのは心苦しい心情があった上にリザーナを気に入っている様子だった。
了承をするとリザーナは蛇身に『エレーナ』と名付けをして新たにリザーナが仲間に加わり、エデンの街に向かって帰路に着いたのであった。
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