第118話【朝食のホットケーキと会話】
目覚めると迷宮内で眠っていたにも関わらず、近くの魔物の気配は扉向こうにいるオーガのみだ。20階層には19階層のトロールやブラックベアは降りてこないようだ。
階層主の階層はちょっとした休憩場所になっているのかもしれない。
背筋を伸ばして朝食の用意をする。ホットケーキ作りに挑戦だ。
先ずはボールに小麦粉と砂糖を混ぜ合わせる。そこに牛乳と卵を投入して滑らかになるまで混ぜる。
後はフライパンに油を薄く引いて、円を書く用に注いでいき、焼き上げていく。両面をきつね色になるまで焼き上げて皿に移して完成である。
個人的にはここにハチミツをかけたいが、ないからバター乗せるのがベストだろう。
魔石と鍛冶スキルで作った耐熱コップに牛乳と砂糖を入れて混ぜる。
その後に魔道レンジで温めてホットミルクを作っておいた。
後は鍋に中火でお湯を沸かして樽に入れて、タオルを温めておく。
すると、トレーラーハウスからリザーナ達が姿を表した。温めておいたタオルをメルディアとエレーナに渡し、リザーナを受け取って顔を拭く。
そんな様子を見てエレーナは律儀だというのだ。
「契約した内容が『養う事』だしな。それにアステリオスとも約束してるからな」
「ミノタウロスって忠誠心が高い魔獣なのか?」
「んな訳ないだろ?狂暴過ぎて迷宮作られて閉じ込められたのにあったらダメだろ?ただ・・・」
「ただ?どうしたの?」
アステリオスと話していて気になったのはラビュリンティスの財宝の存在である。まだ迷宮に育って宝箱などに宝石類があるならわかるが、目覚めた時に第一声が「財宝が無事なら」と言ったのを覚えていたからだ。
少なくともアステリオスは暇で魔鉱石や近くの階層にいる地竜と黒い蛇を食べていたみたいだが、金貨や宝石類を集めた覚えはないといっていたからだ。
メルディアが挑んだ頃には既にラビュリンティスの財宝の守護するダンジョンボスになっていたみたいだ。
出来立てのホットケーキをフォークで切り分けながら話すとメルディアも食べながら答えてくれた。
「確かにラビュリンティスの財宝の事はいってたなぁ。けど、確かにアステリオスはんの話が本当ならその金貨や財宝とかはどっから来たんや?」
「迷宮の王で試して見たが産み出せるのは宝石類や魔法のアイテムとかは配置できるが、金貨に至っては人の手で加工されたものだし・・・」
「そう考えると誰かに【強制懐柔】されたのかも知れんな~」
「何だ?それのスキルは?」
メルディアもあくまでも【噂話】として知っている程度だというが、グランディア王国の魔物使い中でも上位種の魔物や魔獣を強制的に使い魔にできるスキルであり、噂ではドラゴンも使い魔にできるスキルだというのだ。
ただ、代償は大きくあくまでも強制的に使い魔にしているだけなので魔力が切れたり、スキルが何らかの形で解除されてしまうと災害級の被害が出てしまう為に余り使う魔物使いはいないそうだ。
基本的に使い魔になっていれば誰かに【強制懐柔】を掛けられても従う事はないというのだ。ただ逆を言ってしまえば、魔物使いさえ亡き者にすれば、使用する事が出来るとも捉えられる。
「まぁ、財宝はどのみち使えないし、換金しなきゃならねぇ。鑑定しても金貨としか表示されなかったからな 」
「あぁ~、だから気になったんか?ウチも迷宮挑戦はクロニアス王国とラビュリンティスしか知らんなぁ~
クロニアス王国はフォルトらが冒険者だった頃に30階層以上ある事を知っとたんはギルドマスターの時に報告受けたからやからなぁ~」
「2人とも真面目すぎじゃネェの?魔物が細かい事を気にし過ぎじゃネェか?強いヤツが生き残る『弱肉強食』が魔物と魔獣の共通認識だろ?」
「そうだよ!取りあえずはここ踏破してからマリーナシティで美味しいものをまたミックスに作って貰おうよ!ホットケーキも美味しいし!」
メルディアと真剣な話をしていると、エレーナは真面目すぎると注意されたのだ。確かに魔物や魔獣の共通認識は弱肉強食だし間違ってはいないのだ。
リザーナに至っては本当に冒険者で魔物使いであるのか呆れてしまった。
確かにわからない事に仮説を考えてもあっているのか事実確認をする術がないのは確かである。薬神ディオスの神託でマリーナシティに向かう事は決まっているが、残り四つの30階層以上ある迷宮の場所はわかっていない。
確かにここで話し合っていてもどうする事も出来ないのは事実だ。
ならば、朝食を済ませてさっさと迷宮を踏破してしまった方が良いだろう。
それから追加でホットケーキを数枚とエレーナが「肉が食いたい」というので作り置きの唐揚げとトンカツを皿に出た。またハチミツがかれければ、もっと美味くなる事を教えるとやる気を見せた。
その後、洗い物を済ませて、20階層の階層主のオーガがいる扉を開いたのであった。
目の前にはミノタウロスである自分と同じ巨体で筋肉質で赤い皮膚の身体を持ち、下唇から突き出すイノシシのような二本の牙をはやし、額から角がはえていた。
こちらに気が付いたように手に持っていた金砕棒を振り上げて突進してきた。
だが、エレーナとともに武器を構えていたが、横から水の玉が横切るとオーガの顔を包み込んでしまった。
「手っ取り早く次の階層いかんとなぁ~♪雑魚相手に無駄な体力は必要あらへんよ~」
「・・・迷宮内で溺死っていいのか?」
「と、取りあえず倒せたから良いんじゃないか?」
「メルディアってたまに怖いよね・・・」
目の前で顔に水の玉を纏わせてもがき苦しむオーガは金砕棒を落としてその場に跪くとそのまま倒れてしまった。宝箱が現れて石と鑑定で安全を確認してリザーナに開けさせると中には宝石類が詰まっていた。




