第11話【 生態系の異変(2)】
【サイクロプス】
単眼の巨人の魔物として知られているが、元は神々に立ち向かった巨人の血が入った低級の神だったが、その醜い姿から他の神々から酷い仕打ちを受けていた。また、鍛冶職人として腕を見込まれて神々に捧げる武器を造っていたが、それを謀反を起こす準備だと勘違いされた事で殺されてしまったという話を知っているだろうか・・・
サイクロプスは『人喰い巨人』と恐れられているが、神々が産み出した人間を憎んでいる為に人間の街を襲い食べるようになったという言い伝えがあるのだ。
実際にスラム出身であり、親に捨てられて孤児院に預けられた過去があるドラッグは洞窟内を探索中に見つけた安全な場所でサイクロプスの言い伝えや自分の過去にあった出来事を話し始めたのであった。
実際に神に仕える教会が支える孤児院にいた事があるが、聖職者は決して弱者を救ってはくれない。毎日バカみたいに神に祈った所で食える物が増える訳はないだろう。
所詮、聖職者も人間であるのだ。いくら綺麗事を抜かそうと聖職者の教会側からすれば、孤児院の子どもに掛けられる金など何処にもないのだ。
教会が優先するのは常に権力者である貴族や王族であり、基本的に信者から寄付金でなりなっている為に孤児院に回す金など微々たるものであるのだ。
だからこそ、聖職者は表向きは善人の顔をし、裏では孤児院の子どもらを養子という名の奴隷に仕上げたりしている。
酷ければ、年頃の女の子は奴隷市場に売買される事があった為にドラッグは生き延びる為にスラムの街で生きる術を身に付けて強くなったというのだ。
そして、本職である薬剤師のスキルにより薬を売って稼げるようになり冒険者として活躍するようになった。
だが、現実は残酷なものであったのだ。
実際に冒険者として階級を上げたら毛嫌いしていた貴族や王族の健康の為に薬を造らされ、仕舞いには助けてくれなかった【聖騎士団】つまりは聖職者達の為に回復薬や魔力回復薬を製造しろと命令されたのだ。
当然、ドラッグはそれを受け入れなれなかった。
助けてくれなかった聖職者達の為に何故、自分が助けなければならないのかわからなかったからだ。
それに貴族や王族の為に薬を造って献上した所で自分と同じ境遇な人間は救われないのであれば弱者を見殺しにしている聖職者の偽善者と同じてあると王都への誘いを受け入れる事が出来なかったのだ。
無論、国王はそれに対して激怒してきたが、自分の生い立ちと聖職者が行ってきた悪行を語るとその場にいたものは何も言い返せず、言い訳ばかりを言葉にしてきたのだ。
呆れてしまう程に醜く無様な口ぐさをいうフェンナト王国には忠誠心を掛けるだけの価値がないと悟った。
そして、冒険者としてのやりがいを徐々に失っている事に気づいた知り合いの女の魔導師から悪魔の書を手渡された事が切っ掛けでガーベラと出会ったのだ。
そして、初めて絶対に失いたくない護りたいという思いを感じる様になった。
だが、ガーベラは上級サキュバスでフェローラは魔物と精霊の混合種であり、周りからは当然白い目で見られている事に気づいていた。
そして、フェンナト王国の国王を蹴る切っ掛けはそれであったのだ。 自分にとっては家族同然のガーベラとフェローラを差別する発言にキレて顔面に蹴りを入れて痰を掛けてやったのだ。
稀有な【薬剤師】であり、特殊な製造法で回復薬や魔力回復薬などを製造できる上に病気などの薬作りもできるスキルを取得している為に国王もドラッグを死刑にする事は出来なかったのだ。
ドラッグには権力者が喉から手が出る程欲する不老不死の薬を製造できる可能性がある稀有な人物であったからだ。
【 完全回復薬】
どんな怪我や病や失われた身体を元に戻す事の出来る万能薬の製造を知っているからだ。
ガーベラとの出会いを作ってた魔導師とスラムで世話になった男にそれぞれ1本ずつ渡した事がフェンナト王国の国王に知れ渡っていた。
その冒険者らはフェンナト王国から既に去っており何処で何をしているのかは知らないと言うのだ。
そんな権力者らに嫌気をさしたドラッグはエデンの街の裏にある険しい山にガーベラとフェローラと暮らしてたまに街に降りて信頼できる雑貨屋に回復薬や魔力回復薬などを仕入れしておりそれを冒険者ギルドや王都から来る商人が求めてエデンの街にくるのだと話してくれたのだ。
「これは実際にあった事だからな。権力者は認めたくねぇもんは認めねぇ。つまりはミノタウロスとエルフが冒険者として活躍しても認めてくれない事も考えておいた方がいい・・・」
「そ、そんなじゃあこれから冒険者としてミックスと頑張っても・・・」
「まぁ、A階級以上になるとどこも戦力として欲するからな。特に財宝が眠る噂のある迷宮攻略とかは冒険者として意味がねぇ。例え攻略しても国の財産にされちまうからな・・・」
「えー!!じゃあA階級以上の冒険者って・・・」
ドラッグの言葉にリザーナは驚いていたのだ。
リザーナの事だから階級が上がれば楽な生活が出来ると思っていたのだろう。
すると、ガーベラが続けさまに追い討ちを掛けた。
「事実上、王国の軍隊に所属するから冒険者みたいな自由な行動は出来ないし、迷宮攻略も国の命令がないと無理なのよ。
しかも、職業差別もあるし、私やフェローラみたいな別な種族を受け入れてくれる国はないわ」
「なるほどな。つまりは冒険者として『自由』にやるにはB階級までにとどめておき、実力はA階級やS階級と同等かそれ以上の力をつけろって事か・・・」
実際にドラッグが冒険者として活躍を控えている理由は自身の職業である【薬剤師】と特異体質である為に魔族よりも高制度な魔力感知が出来る為に今回の異変にも気が付いたのだ。
そして、伝説の迷宮である大迷宮ラビュリンティスのミノタウロスを使い魔にしたリザーナにもその白羽の矢が向かってくる事を忠告してくれたのだ。
少なくともフェンナト王国の国王は国民の事を大事にしないクソ王と言い捨てるほど性根が腐っているらしいのだ。
そしてエルフのリザーナとミノタウロスのミックスはA階級に上がる昇級審査の際に何らかの嫌がらせもあるだろう。
ギルドマスターのゴリガンも獣人の血が半分流れている為に王都から少し離れたエデンの街でギルドマスターをやってるのもその為であるというのだ。
つまりは冒険者として結果を出して階級をあげても己の為になる範囲はB階級までであり、そこからは国の為に駒として働かされる。
確かにA階級の冒険者として依頼が出されればいい暮らしが約束されているのは間違いない。
だが、それを差し引いてもフェンナト王国に尽くす義理も忠誠心も感じるとか出来ないとドラッグは話すのだ。
ドラッグは立ち上がり、休憩を終えたが、最後にフェンナト王国の従者が近いうちにリザーナとミックスを勧誘しにくる可能性が十分にあり得ることを話したのだ。
だが、リザーナがエルフ族である以上差別国家であるフェンナト王国に忠誠心を尽くす義理もないと伝えてくれたのだ。
そして、ドラッグは腰のベルトから短剣を鞘から抜く。薄暗い洞窟内で魔物が少ないのは、サイクロプスらが全て食べしまったのだろうという。
「まぁ、冒険者の階級の話しは後だな。少なくともサイクロプス達がこの洞窟の奥部にある巨大な穴の中で暴れてやがるな・・・」
「音を聞けばわかるぜ? 多分他の冒険者か魔物と戦っているんだろうな・・・」
戦斧を両手で握りしてサイクロプス達が縄張りにしている巨大な広間は地面が筒抜けになっており、日の日差しが入り込んでいた。
そこに通じる出入り口の壁際からそっと覗き込むとサイクロプス達が棍棒や大槌を振りかざして何かと戦っていたのだ。
土煙で良く見えないが恐らくは蛇である。
だが、土煙から飛び出してきたのは上半身が女性で下半身が蛇である蛇身であったのだ。




