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26話 怪しく冷たい悲壮(1)

 降魔くんが姿を消してから早5日あまりが経ちそうです。あの戦いがあってからずっと、わたしは彼を探し回っていました。そんな時、急に雨に降られて足早に宿へ帰っている最中に子供を抱きかかえた少女を見つけました。路地で雨宿りしているらしく、可哀想だったので内緒でわたしの借りている宿に入れることにしました。

 愛想がよく、やんちゃな妹達を思い出すくらい無邪気で可愛い子です。

 ですが、弟かは判りませんが、小さな子供をあやしている様子は既に大人びているようでした。格好からしてあまり裕福ではないお家の子のようで、より元の世界を思い出されます。

 久しぶりに人と話す機会ができたので、なんとか話題を出そうとして降魔くんの話になりました。

 

「街が魔物の大群が押し寄せてきたとかで大混乱になっている中、わたしは人混みに流されて避難所へと行ってしまいました。なので、戦いの場に出たのでしょう彼がどうしていたのかは判りません……。ただ、後に気さくな冒険者さんに訊いたところによると、戦いには参加していたようでした。

 魔物の大群を指揮していた主犯と一人で戦うことになったみたいなんです。引き籠っているわたしと比べて、とても勇敢ですよね……。

 幸い、その戦闘は流浪の女冒険者達に一掃されたようで、この国は守られました。しかし、とうの降魔くんも敵の主犯もどちらの姿もなく、結局事の真相がわからずじまいなんだそうです! 話を聞いた冒険者さんが言うには、降魔くんはかなりの腕の持ち主と評判だそうで、必ず生きていると太鼓判を押してくれました。

 わたしもきっとそうじゃないかって思っているんですけど…………探しても見つからないんです……」


 長々とわたしが話してしまいましたが、少女は寝付いた子供を抱っこしながら聞いてくれました。

 途中、「おお」や「ほえ~」と子供らしい声を漏らしていて話しやすかったのもあるんでしょう。つい思っていたことを吐露してしまいました。


「ならきっとそのゴウマクンさんは、お姉さんを守ろうとして戦いに行ったのかもね!」

「それはありませんよ。彼は、人に頼まれて断ることができない人なんです!

 最近、それを知りました。前から近くにいた人でしたが、彼を近くに感じたのはここ最近です。だから判るんです。他人の困っていること、嫌なこと、全部を理解できる人でそれを放っては置けないんだって。

 降魔くんはそういう人なんです。だから、誰かの為というなら、この国の人達全員の為ですよ」

「あれあれ? 顔赤いよ?」

「え!? そ、そんなことないですよ!??」

「あれあれ? もしかしてお姉さん、そのゴウマクンさんのこと好きなんじゃないの〰〰?」

「ちょ、やめてくださいってば! わたし、そんなに簡単な女じゃありません!」

「ふふふ! ゴウマクンさん、帰ってくるといいね!」

「は、はい……。

 カクシちゃん、はどうしてこの国に?」

「ボクは〰〰…………ちょっと気になったことがあって!

 でも……もういいのかなとかも思ってて」

「どうしてそう思うんですか?」

「ボクも人を探してた――んだけど、ここにはもういなかったみたい。魔物の大群が行ったって知ったから、もしかしたらって思ったんだけど……たぶん大丈夫そう!」


 少し意味深な回答で返答しにくかったけれど、最後に見せる愛らしい表情にほだされた。


「もし何か困っていることがあったら言ってくださいね?」


 わたしも降魔くんみたいに他人ひとに優しくなれる人になりたい。


「うん! お姉さん優しいからちゃんと覚えとく!

 でも、良かったな。お兄さんに逢って、少し期待し過ぎているかもしれないって思ってたけど、またお姉さんみたいに優しい人に逢えてよかった!」

「あはは……少し照れますね」


 ふとわたしの視線が彼女が抱いている子供へと移る。

 本来ならば、こんな小さな子が親を連れずに更に小さい子を抱いて外にいるというのは少し異常な光景。しかし、こっちは元の世界とは違った風習もあるだろうから気にしないようにしていた。けれど、その子供が誰かの面影があるような気がして暫く凝視してしまいました。


「どうしたの?」

「あ、いえ……どこかで見たような気がする顔だな、と思いまして。もしかして親はこの国の人ですか? 最近見たような気がするんですが……」

「本当!!?」

「もしかしてカクシちゃんが探してる人ってその人?」

「そう! ボクに名前を付けてくれた人!」


 妙に食いついてきたので、わたしは思わず脳裏でとある推測をしてしまった。

 もしかしてこの子達、親に捨てられたの!? 名前を付けてくれたってことはきっとそうだよね。

 親の手掛かりを見つけてこの国に来たはいいけど、全然見つからないからさっきは大丈夫って……。

 もしそうなら、なんて可哀想なの……。


「わかりました! なら、わたしもカクシちゃんの探している人を探すの手伝います! きっとその子に似ている男の人ですよね!」

「あれあれ、いいの!?」

「はい、勿論です」

「でも、お姉さん自分が探している人だってまだ見つかっていないのに……」

「一緒に探せばいいんです! やることは変わりませんよ!」

「ありがとう!

 全然見つからないから、もうここにはいないかもしれないけど、万が一怪我とかで弱っている可能性もあるからちゃんと探しておきたかったんだ!」

「それなら急がないとですね! 任せてください!」



 元々、家では家族の多い身の上だったので、カクシちゃんが近くにいてくれたことはむしろわたしにとっては安心することでした。

 カクシちゃんの弟は、それはもう可愛いいです。手を握ると、笑顔で手を振ってくれたりして遊ばれます。直ぐに懐いてくれるところは、カクシちゃんに似ているでしょうか。わたしでも抱っこするのに抵抗がありませんでした。


 次の日、雨もやんで晴れ渡った空の下で人探しが始まります。冒険者ギルド、魔法学院、市場、裏路地と主要な所から細かい所まで三人で探し回りました。

 降魔くんは冒険者ギルドに来ると思うのですが、やはりあれ以来一度も来ていないようでした。

 カクシちゃんの方はというと――


「カクシちゃんの探している人がどこに行きそうなのか、とか心当たりはありませんか?」

「う〰〰ん……あの人間、今ナイーブだからな…………。ああいう狭っ苦しいかどとかにうずくまっているんじゃないかなって思うんだけど!」


 もしかして家計が破綻して夜逃げした人!? ほとんどホームレスになっていて、流浪しているってことなのかな? なんて可哀想なの……。

 よし! ちゃんと見つけてあげないと!


 少し危険ですが、カクシちゃんの指摘は暗い場所ということだったので裏路地にも入って見ました。

 ホームレスらしい人は何人かいたのですが、カクシちゃん曰くもっと若いとのことでいまいち年齢像がはっきりしません。


「もっとこう……ぱっとしなくて、目が死んでいて、ありとあらゆるものに興味なしみたいな感じ!」

「う~ん……それじゃあ少し判らない、かな~……。他に何か……せめて服装が判ればいいんですが……」


 幼いゆえかカクシちゃんの説明はざっくりとしていて人物像も曖昧だったので、もう少し詳しく知ろうと思いました。そんな矢先、カクシちゃんは考えるように唸ると何かを見つけたようで、


「あ!! アレだよアレ!!」


 急に指を差して叫びます。

 その指の先へと視線を移すと、視界がスローモーションのようにぐらつきました。


「あん?」


 裏路地にある怪しげなお店を物色している男性が目に映りました。何人か冒険者のようないでたちをしている中で、希望に思える紺色の制服が暗い道を色付けた。

 カクシちゃんに指を差されて気付く少年は、眉を顰めてこちらを睨み付けました。

 わたしは、その少年が願っていた人とは違って思わず残念に思ってしまいました。


「あれ? もしかしてそこにいるの七瀬じゃね?」


 紛れもない同じクラスのクラスメイト。しかし、その相手はわたしが望むどのグループの人間とも違いました。

 基山くんをはじめとする実力主義の中核を担っていた富樫怜王とがしれおくん。

 耳にピアスを付け、髪を茶色に染めています。基山くん同様素行が悪く、補導されたことは数知れない。いけないアルバイトをしているだとか噂もあって、基本的にわたしのようなクラスの端くれは近づこうともしない相手です。背丈もあり、気弱な男子をいびることも何度か見たことがあります。

 なんでこの人がこんな所にいるの……?

 血の気が引いて黙り込むわたしを他所に富樫くんはにじり寄って来ました。


「おいおい、無視かよ!? 聞こえてんだろ、おい七瀬!」


 彼の大きな声が不快な音に聞こえて後退る。


「あれあれ? 知り合い?」


 違うと言いたい。けれど、カクシちゃんに迷惑は掛けたくない。


「う、うん……。久しぶりだね、富樫くん……」

「なんだよ、ガキ連れてんのか? そのガキは更にガキ連れてるとかウケるわ~」


 心臓が高鳴っていくのが判る。冷や汗が全身から滲み出し、震えるのをバレないように堪えるので精一杯。

 富樫くんは、更にこちらに近づいてきた。嘲笑うような顔は嫌悪感を誘い、今すぐにでも逃げ出したかった。それでもわたしは愛想笑いをしながら対応しなければいけなかった。


「あはは……他の皆は一緒なの?」

「ああ、店ン中に基山もいるぜ。んでも、ちょっと目を離した先にハギとかとは逸れちまってさ。困った奴らだぜ。

 でも七瀬が来てくれて助かったぜ。基山の奴たぶん長いからさ、少しあっちで話さねえ?」


 肩に触れられ、咄嗟に弾いてしまった。条件反射で起こした行動だったけれど、この人に触られることだけは絶対に嫌な気がした。


「なにすんだよ、連れねえなあ……」


 一気に富樫くんの顔が強張った。人間とは思えないどす黒い心が表情の裏に垣間見える。


「あれあれ……お姉さん、この人――」


 カクシちゃんも雰囲気で察したのでしょう。やってしまった、と思ったみたいでそわそわしています。


「だ、大丈夫だから……」

「何が大丈夫なんだよ? てか、このガキたちはなんだよ? お前、子供でも作ったのか? んなわけねえよな! まだ経験無いって顔してっし!」


 富樫くんから下卑た笑みが零れた。

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