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25話 満月が映す妖光(2)

 ゼラの指先にある闇の中で一人の少女が頭を抱えてうずくまっていた。仄暗い闇をゆったりと靡かせながら纏っている。


「妖怪は、人間以上に可哀想な成れの果てじゃ。拒絶されようとも、お主自身を貫いてゆけ」


 スイレンは、俺と同じで一人でずっと抱えていたんだ。誰より孤独を身近に感じ、誰より不安を背負って生きてきた。慣れもあるだろうが、これだけの不幸を持ちながら普段何事もないように振舞っているのは驚嘆ものだ。

 俺は諦めたけど、スイレンは諦めずに戦ってきたんだ。命が潰えた後もずっと……。


「――スイレン!!」

「…………」


 肩を掴み呼び掛けるも、まるで石のように硬く石のように微動だにしない。

 俺の声が聞こえていないのか……?


「スイレン! スイレン!!」


 大声を出して揺さぶってみた。すると、彼女の頭が少しだけ起き上がった。


「誰ですの……わたくしの名を呼ぶ赤い目は……!」


 一気に顔を上げるスイレンの顔がドス黒く変色していた。

 顔は闇に、体は泥のように今にも崩れそうである。


「すい……れん…………? なんだこれ……どうなってんだ!?」


 不甲斐無くも恐怖を感じて後退れば、後ろにいたゼラを探して振り返る。しかし、もはや俺の周囲に逃げ道はなかった。そこら中を覆っていた暗闇が俺諸共スイレンを飲み込もうとしている。

 ゼラがいない……。これは現実じゃない。スイレンの望み、もしくは不安を形作った幻想だ。

 後ろを振り返るな。スイレンを救い出すまではもう後戻りしない……!!


「おい、聞こえるかスイレン!! 俺だ、アカヒトだ!! お前がベニカツと呼ぶ人間だ!! 聞こえてたらなんか反応しろっ!!」


 ドロドロな闇がどんどん俺達を飲み込もうと高波を打つ。波の中には赤い目がいくつも並び、俺達を蔑むように睨み付けていた。

 光が消えていく中、顔の失くしたスイレンは、俺の言葉に微々たる反応を示した。ピクリとこちらを見たかと思うと、あの名前を口ずさむ。


「べ……に……かつ……。

 聞き覚えがある……けど、どうせわたくしを忘れ捨てた人間の一人だったんだ。人間も妖怪もなにも変わりはしない。誰しもわたくしの秘密を知った途端に態度を変えていく他。この秘密があなた達に害をもたらすわけでもないというのに、勝手に妄想して疎んでくる。

 時には離れ、時には穢し、時には突き放す。わたくしにとってどれも同じ、赤い目で見られるようになった瞬間から孤独を味わう手段に過ぎないんですの。

 赤い目が怖くて仕方がない。あの人もきっと、誰もがきっと……。わたくしを赤い目で見ているに違いないんですの」

「……勝手に俺達を評価するなよ! 過去に何があったのか知らないし、この世の中だ――時には仕方のないことだってたくさんあると思う。けど、俺も同じつって切り離すなんて、寂しいじゃねえか!!」

「寂しい? おかしなこと……人間という種族は群れて寂しさなんて感じないはず」

「んなもん人それぞれだよ。

 俺もお前と同じだ、ずっと孤独だった。自分しか知らない呪いが他人に言えない呪いで、孤独を強制されてきた。呪いが無かったからって一人じゃなかったかもしれないなんて言えない。けど、きっとこの呪いはいつか終わってくれるんじゃないかって思ってた。だって、自分だけが違うなんてひどすぎるだろ?」

「同じ……? わたくしは一人で苦しんできた。あなたも同じだというの?」

「そうだ、お前と俺は同じだ。孤独に愛され、友情を疑うように仕組まれた不運児だ。

 だから、俺の事だけはちゃんと見てくれないか? お前が俺を信じてくれなきゃ、俺もお前を信じきることはできない! 俺とお前の二人なら、きっと明るい未来を信じられるって思わせてほしいんだよ!!」

「…………明るい未来なんてこない、今まで一度としてこなかった――。

 皆が喜んでいた時も、自分だけはいつか一人になるからって本当は喜べなかった。誰もがそうじゃないから、恨んだ時もある。

 どうしてわたくしは、世界に恨まれているの? どうしてわたくしにこんな酷いことをするの?」


 スイレンは更に黒く泥の体を崩して項垂れていった。


「わからない。知らないだけかもしれないし、答えなんてないかもしれない。でも、そんなの探したってきっと意味なんかない。理由なんてわかったとしても、俺達の過去は消えてくれないんだからな。

 だから、もう一人になろうとするのをやめないか? 見たくないものを怖がって立つことさえできないのなら、不幸以上の不幸になっちまうぞ」

「どうしてあなたはわたくしにこんなに話しかけてくれるの? わたくしの秘密を知って尚、どうしてあなたはわたくしから離れて行かないの?」

「お前は、俺を一人にするのか?」

「え――?」


 最後の光の線が闇に飲み込まれそうになる瞬間、スイレンの顔があげられた。更には周囲の闇の動きがスイレンの精神状態に左右されたように止まった。


「俺は、嘘吐きだ。咄嗟に思ってもみないことを口走ってしまう。お前を助けようとしたのも、勝手に動いた嘘の口のせいかもしれない。真意さえわからない偽りの呪いが俺の秘密だ。

 今はまだ実感はわかないかもしれないが、これはいずれお前にも何かよくないものを誘うかもしれない。スイレンはこれを知って、俺から遠ざかっていくか?」

「どうしてわたくしがそんなこと――…………?」


 スイレンは、怪訝そうな顔になる。自分で言おうとしたことに違和感を感じたように首を傾げた。

 結構勇気のいる質問だったが、即答で嫌悪されなくてよかった……。


「俺のことを信じてくれないか? 嘘吐きの俺が言うからちょっと薄い気もするが、俺と一緒に戦ってくれないか。一人で戦うより、一人でも多くの味方がいてくれた方が心強いってもんだ」

「わたくしでいいですの?」


 顔の闇が晴れ、仄かに涙ぐむ彼女の素顔が表れる。

 幼い少女の容姿と垂れた狐耳も相まって愛らしい。儚く顔を赤らめ、熱を帯びた声はすっと胸の中へと飛び込んできた。


「もちろんだ! ……――俺でいいか?」


 右手を差し伸べると、スイレンの崩れかけの足は形を取り戻し俺の胸へと突っこんできた。俺達は、勢いあまって倒れ込んでしまった。

 次の瞬間、周囲を取り巻く赤い目と闇がはじけ飛んだ。光が戻り、ゼラが呆れるような顔で俺達を見下ろしていた。

 胡乱だ目に見えるのはなぜだろう。スイレンをギリギリの所で取り戻せたのに呆れ果てたのだろうか。


女子おなごの裸体を抱きしめるとは、やはりお主はロリコンというやつなのか?」


 ラタ、イ…………?

 首の後ろにまで手を回して抱き着いているスイレン。その体を改めて見る。

 白く透き通った肌にラインのくっきりとした細身。小さいのに触り心地がよさそうな肉質に唾を飲みんだ。

 体が固まる。流石に手を出してはいけない、触れてはいけないだろうと無自覚に罪悪感に襲われた。


「スイレン、さん……なにゆえお裸なのでしょうか……」


 さっきまで黒い影に覆われていたこともあって裸かどうかなんて見分けがつかなかった。まずいものに手を出したみたいで声も裏返ってしまった。



◇◇◇



 丑三つ時。妖怪にとっては活発になる最高の時間だろう。俺が寝ている間にそんな時間になったようだ。

 妖怪達は外へ出てわいわいと姦しい。いつも寝ているから気付かなかったが、宴とでも言わんばかりに焚火を起こして周りに集まっている。

 俺は、端の方で一人ぼっちとなっていたキロロを呼び出してスイレンの下へと連れて行った。部屋にいたゼラやハク、クウやリコにシノンまで引っ張って来てスイレンを前に立たせた。

 スイレンの不安を払拭するには、結局キロロと話さなければ始まらないのだ。


「スイちゃんこんな所にいてはったんですか! よかったわあ。ずぅっと心配しとったんよ?」


 安堵するようなキロロの言葉にスイレンは「うん」とたどたどしい相槌をするだけだった。


「どうしたん? なんや元気なさそうやけど……」


 さすがはキロロだ、一目で何かに悩んでいると悟ったらしい。

 だが、それが目的じゃあない。スイレンの胸の内をさらけ出せる相手なのかを、これから決定付けなければならないんだ。


「そや! 今さっきおいしいものができたって言ってたところなんよ。皆さんも食べてくやろ? ごっつ美味いから、頬っぺた落ちるよぉ!」


 静けさがキロロを不安にしたのだろう。作り笑いをしながら踵を返そうとしていた。


「キロロ…………っ――」

「聞きたない!」


 キロロは、背中を震わせながらスイレンの言葉を遮った。かと思えば、一目散にキロロは走り出してしまった。

 逃げた!?

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