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24話 睡蓮の秘め事(2)

 スイレンは、項垂れるとどんどん座り込んでいった。頭を抱えて「やってしまった」とでも言いたげだ。


「もしかして、知られたくなかったことなのか?」

「…………気味悪いですわよね。こんな……髪の色が変わる狐なんて……」

「全然? なんでそんな風に思うんだよ?」


 妖怪なんてなんでもありみたいなところあるじゃないか。むしろ気味が悪いのは邪魅じゃみとか不浸婆ひらたずばばあとかああいうのだろう。論点がずれているんだとは思うけど、もしかしてこれが理由でキロロから逃げてたのか?


「皆わたくしのこの髪を見ると、気味が悪いって。忌みものだって。ですから満月の日はこうやって隠れているんですの。ここで嫌われたら、居場所がなくなるから……。

 だけれど、紅葛様に見つかってしまいましたの。もう……ここにわたくしの居場所は……」


 嘘ではない……けど、忌みものってのは引っ掛かるな。妖怪自体がソレだと思うんだが、妖怪の中でもそんなのがあるのか?


「それ、いつの話だよ……」

「……え? えっと、千年以上は前……ですの」

「千年!!? お前、そんなに前のこと今までずっと気にしてたのか!?」

「皆から嫌われて、居場所がなくなってずっとひとりぼっちになっていたんですの……。

 わたくしは弱いから、誰かと一緒じゃなきゃ死んでしまいますの。狐同士でも無理だったから、人間を頼りにしたんですの。なのに……満月の夜、わたくしの毛並みの変わり様を見た人間がわたくしを忌み物だと。化物だと……!

 わたくしには隠れる以外に方法がないんですの! だって、この髪は消すこともできなければなくなってくれたりもしないんですものっ!!」


 スイレンの本気度が慟哭のように響く叫びで伝わった。

 彼女の髪は雨に打たれながらも次々と色を変えていく。白から赤、紫、黄色……睡蓮スイレンの名の通り、髪の色はあの花のように鮮やかに咲きほこった。


「…………ここは濡れる。隠れるなら、いい場所知ってるぞ」


 雨とは関係なくスイレンは潤んだ瞳で見上げてきた。



◇◇◇



 スイレンを俺の部屋へと入れた。雨が本降りになってきて、二人共かなりびしょ濡れだ。

 温泉は外だから屋内の風呂なら雨に打たれずに済むと思うが――スイレンは他の奴等に遭遇する可能性があることはできないから却下ダメと。仕方ない、ハクを呼んでくるか。こういう時はハク母ちゃんが一番頼りになる。


「結構物がないんですのね……」

「まあな」


 スイレンを連れてきたのは初めてだ。偶にクウたちやゼラが来るけれど、その時に遊ぶカードゲームがあるくらいであとはあまり使わない棚くらいしかない。元の世界ならゲーム機とか漫画本とかで散らかっているんだけどね。

 そろえている時間もなかったし、そのうちお茶くらいは入れられるようにしておきたいが。


「ちょっと俺、ハク呼んでくるからここで待ってろな」

「へ!? は、ハク、さん……ですか……」


 やっぱり嫌なのか。けど、お世話係は必要だしな。このままじゃ風邪ひくだろうし、俺のせいで雨に打たせたようなもんだから……このままというのはな。


「約束する。ハクには絶対ばらさせないし、あいつは絶対お前のことを嫌ったりしない! あいつの主人は俺だから俺には逆らわないから、安心してくれ!」

「…………どうしてそこまでしてくれるんですの?」

「……同じ境遇だからかな……。俺にもよく判らないけど、どうしても誰かに助けて欲しい時ってあるだろ。俺はそれを得られなかったけど、お前は俺の部下みたいなものだしな」

「偶にキロロが言っていました。人間は、時に自分でもよくわからないような行動をすることがあると。でも紅葛様はそうじゃなくて、きっと優しいからですの。

 わたくし、紅葛様のもとへこれてよかったと思います!」


 そんな安心しきった顔するなよ。

 俺は、まだなにもできない底辺だ。だから、俺が優しくするのは自分が優しい人間であると思いたいから。他の人間やつらとは違うと思いたいからなんだ……。









 俺は、ハクに秘密を守るよう約束させて連れてきた。

 ハクにはスミレの体を拭くよう命令し、俺にはタオルを持ってこさせた。いいように扱き使ってしまっているが、ハクは「はいはい」と面倒見よく素直に受け入れていた。

 あいつは母親の素質があるな。子供をあやすのも上手そうだ。


 俺は、スイレンに新しい服を見繕った。ゼラに事情を話さずに記憶から服を作って貰ったのだ。

 昔、従妹が着ていたものでだいたい縮尺もあったらしい。胸部にメロンやスイカなどのロゴの入った黄色のティシャツに白い短パンは快活そうな印象を受ける。


「まあまあ似合っているんじゃないか? 年相応で新鮮味もあるし、うん可愛いぞ」

「ホントですの!?」

「あ、ああ……なにより獣耳と服装のリアルなマッチングというか、全体的に明るくなった気がする。なあ、ハク?」

「ええ、可愛いですよスイレンさん!」


 ハクの加え手もあり、スイレンは新しい服装にご機嫌なようである。動きやすいのか動き回って純真無垢を体現していた。


「そうですレッドさん!」

「ん、なんだ?」

「わたしも新しい服装が欲しいです。後で九尾様にお願いして頂けますよね?」


 あれ? ハクの目が怖い。笑っているのに笑っているように見えない。なんだ、本当にこいつもスイレンの髪の色が気になるのか!?


「いただけますね?」

「お、おう……。

 え、お前……スイレンの髪の色どう思ってんの?」


 スイレンがティシャツに興味津々なところ、俺はハクに耳打ちした。すると、彼女は訝しむように眉を顰める。


「……そんなのどうだっていいじゃないですか。

 それを言うなら、わたしだって胸の大きさゆえにいびられた時代だってありましたから。そういうコンプレックスをわざわざ指摘して蔑むことをする者の気が知れません!」


 そう言いながらハクの胸が弾んだ。

 言わないけど、言わないけどな……胸の大きさがコンプレックスなんて言いふらすなよ。スミレなんてあるかどうかすらわからないんだからな……!


「第一、そういう風潮が妖怪の中でも薄れないというのがおかしいんですよ! 人間も妖怪も変わらず他者を貶めようとするのは、相手への想う心が低いからに他なりません! つまり、相手を蔑むことこそ自分を貶める愚行なんです! なので、レッドさんも他者を無用に突き落とそうとするのはやめてくださいね!?」

「お、おう……」


 すごい熱心に演説されてしまった。むしろこいつの方がスイレンの気持ちを判ってやれるかもしれないほどだ。

 このぶんなら絶対に口を割らないだろう。


「ハクさん、ありがとう……」

「スイレンさん……」


 昂ったハクの声は当然のようにスイレンに聞こえていた。

 スイレンは嬉しそうにもじもじとしている。ハクの訴えが彼女にとって何よりも嬉しかったのだろう。


「ハクさん、大好きですの!」

「……スイレンさん。困った時はなんでも言ってくださいね、レッドさんよりもわたしを頼ってもいいですから」


 ハクは、スイレンが抱き着いてくるのに応えた。妖怪同士でもこんな絆があるのか。

 スイレンは気付いていないだけなんじゃないだろうか。本当は皆、ちゃんと説明すれば分かってくれるということを。だけど、これを言って変に期待させる方が意地悪なのかもしれない……。

 ……俺にできることはあるんだろうか。


「レッドさん、わたしも暫くここにいてもよろしいですか? 自室ですと、どうにも訪ねてくる方がいますし」

「いいぞ」


 俺の部屋なら誰も来ない、と安易に言っているのだがまあいいだろう。この部屋に他の誰かがいること自体珍しいのは間違っていないしな。


「すみません紅葛様。わたくしの為に部屋のスペースを取ってしまいますの……」

「大丈夫ですよ、特に何も置く物もない寂しい部屋ですから! スイレンさんがいることで、この寂しい部屋に百本のバラが咲き誇ったようなものです!

 むしろこの寂しい男……もといレッドさんの部屋には誰かが居座るくらいがちょうどいいんですよ!」

「おいハク。スイレンへのフォローなんだろうが、だからといって俺をどう言っても許す訳じゃないからな?」

「言葉の綾ですから、気にしないでください。レッドさんはレッドさんでそこはかとなく悪くない部類の人間ですよ」

「……」

「紅葛様はとてもお優しい方ですの! なんの取柄もない泣く事しかできないわたくしを受け入れ、更には温かいお部屋と新しい衣服まで頂きました。これほどまでに紳士的な殿方は初めてですの!

 九尾様が見初められたのも納得ができるというもの! わたくしは改めて、紅葛様に忠誠を誓おうと思いますの!!」


 なんだろう……元々高かったらしい評価がうなぎのぼりに上がっていっている気がする。こんなつもりはなかったんだけどな……。


 タンッ!


 唐突に部屋の戸が左右に開かれた。びくっと驚き見ると、クウがしかめ面で俺を見上げていた。


「く、クウ……」


 こういう時に限って来てしまった…………!?


「ど、どうした? 遊びに来たのか?」


 まずいか? スイレンは他の妖怪に見られたくないんだろうし、でもクウなら大丈夫だとは思うが……。


「あ~あ。アンタが空狐様を差し置いて女達を自室に連れ込んでいるから、怒っちゃったのよ」


 続けざまにリコとシノンまで。ハクの後ろに隠れるスイレンを他所に我が物顔で部屋へと足を踏み入れてきた。


「連れ込んでるって……俺は別に……」

「空狐様、このエロオヤジめはていのいい言い訳を考え込んでいるようです!」

「言い訳はよくありませんよ~。あらあら、スイレンちゃんに新しいお洋服をプレゼントしていたみたいですね。

 これはこれは……逃れようのない証拠がありますが、何か反論はありますか?」


 シノンがいつも以上に怖い。笑っているのに逆の感情を露わにするような妖気を漂わせている。

 スイレンの髪色は今赤みの帯びた白だ。しかし、三人共まったく気づかないように意地悪な笑みを浮かべていた。

 俺を弄り倒す方が優先なのか!?


「だ、だからさ――」

「言い訳無用よ! このちくしょう魔! 空狐様の御前なのよ、が高いわ!!」


 言わせろツインテールキス魔が!!

 とは思いつつも、クウがむすっという怒りの面持ちを崩さないので言い返せなかった。


「これより被告、降魔赤人かっこ人間かっこ笑かっこちくしょう魔かっこ閉じの裁判を始めるわ!!」


 なんだこの茶番……。


「被告側の弁護は、このわたくし篠崎狐しのざききつねことシノンが勤めさせて頂きます」


 お前がやるの……? てかこれ続けんの!?


「ではシノン、どこか被告に弁解の余地はあるのかしら? この裏切者で、子も顧みない人間の中のゲスに何か――」

「ありません!」


 食いつきがすごい! つかお前弁護する気ないだろ! 弁護士という演技をしたいだけだろ!!


「まず彼は空狐様という愛娘がいながら、容姿が同体型であるスイレン氏を自室に連れ込みました。これは許しがたい事実であり、もはや愛娘のことなど眼中にないロリコンという変態には重い刑が必要かと!」

「お前、弁護って意味わかってるか!? それは弁護士じゃなくて、原告側の言い分だろうが!

 ――じゃなくて、俺の部屋で変な遊び始めるな!」

「その通りね。空狐様にはまだ一度も贈り物をしていないにも関わらず、他の幼い妖怪に衣服をあげるとはフトドキセンバンよ!」

「ええ、そういうことならまず空狐様やわたくし達に与えるべきもの。オシャレというのは人間だけでなく、妖怪にも興味がある者が多いと聞きますから!」

「と・く・に、空狐様のような可憐なお方にこそ多大な贈り物があってしかるべきなのよ! しかし被告はそれを蔑ろにし、あまつさえ濡れた少女を部屋へと連れ込んだ。これはこの後、無防備な彼女に色々と…………許せないわ!!」

「何を想像してんだエロツン子! 俺がんなことするわけねーだろうが!!」

「空狐様、被告は全く反省していないように思えるわ。これはきつ〰〰い罰が必要と思われます! 何卒、皆の納得のいくご決断を!!」

「ん、ユーザイ」

「な……クウ……。待ってくれ、俺は彼女に手を出してはいな――…………」

「…………」


 なんで俺乗っかってんだ……。


「空狐様! わたしの演技どうでした? 結構上手かったと思うのですが!」

「ん、悪くない」

「わたくしも鋭い指摘だったと思われます。その分、加点が入るかと」

「ん、シノンにプラス十点」

「なんだコレ……」


 茶番の間、観客席でハクとスイレンが拍手をしていた。

 強制的なお飯事に付き合わされたわけだが、リコやシノンに散々言われたことで疲れてしまった。

 嗚呼……俺の孤独な日常が遠い過去の記憶に……。

 ま、それも最近は悪くないんだけどな。

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