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15話 現実と夢の間で画策される妖しさ(6)

 ゼラはまだ俺の事を……!!


「何してんだよ……俺のことなんてどうでもいいだろ!! 今はぬらりひょんの好き勝手させる方がダメなんだろ!!」

「ちょっと……キミ、いい加減に――」


 首筋に刃で押されるが、俺は話しにくくても吐き出すのを止めなかった。


「ッ――……ぬらりひょんがお前にとってどれだけの相手かさっき聞いた! だったら、俺なんか捨てとけよ!!

 俺はもうお前にとって嫌われててもいい存在なんだろうが!! 俺を生かす理由なんて、もうないだろ!!」


 俺なら今の俺を殺し、次の輪廻の時に再開してまた初めからやり直すことを考える。

 もしゼラが俺のことを……俺の魂を好いてくれているのだとしたら、そうすべきだ。そうした方が効率的で、合理的だ。


「お前にはもう俺以外に仲間がいる! そいつ等を守る為に今何をすべきか、答えはもうでているはずだ!!」


 死んでもいい……一時でも俺を見ていてくれたゼラの為なら、俺は死んでもいいから。

 ぬらりひょんがまだ封印されたままで、復活を目論んでいたとしても、なんとかできる。

 ゼラならライブレインとオットーが相手でも難しくないはずだ。オットーならぬらりひょんがどこにいるのか判るはずだし、またライブレインのような奴を生み出させないようにすることも可能なはず。

 俺が死を受け入れれば、ゼラに降りかかる火の粉を一つ減らすことができる!


「俺を殺して未来さきへ行け! ゼラ!!!」


 しかし、ゼラは葛藤する素振りすら見せずに瞼を閉じた。

 なんでだよ……俺なんか、何の価値も無いただの嘘吐きなんだよ。こんな俺一人助けるよりも、やることがたくさんあるだろうが……!!


「――無理だよ。

 キミと九尾がこれまで何をし、どれだけの記憶おもいでがあるのかキミはまだ知らないだろうけど、彼女にとってキミという存在はこの世で生きる意味の全てなのさ」

「クソッ!!!」


 項垂れていく俺を嘲笑うかのように頭上から光が射した。

 何かと顔を上げると――空間に穴が穿たれていた。

 何もない空中を切り裂いたかのように開かれた穴の奥が眩い光を放っていた。


「おい、勝手に俺様が逃げるだのなんだのぬかしているみたいだが、俺様が逃げる訳ねえだろうが!!

 新参が俺様の行動を制御できると思うなよ!!?」


 ライブレインは、殺気を剥きだしにしてオットーを見やっていた。

 そうだ、こいつの性格なら逃げるなんて選択肢は選ばない。きっと俺やゼラの息の根を止めようと向かってくるはずだ。

 そうしたら――まだ好機チャンスはある!!


「ダメだよライブレイン。キミもキミで言うこと聞いて貰わないと、僕が無能に思われてしまうでしょ」


 妖しい瞳が開かれたかと思うと、殺気立ったライブレインが静止した。

 思考全てが抜かれてしまったかのようにその目はどこも見ていない。

 こいつ……何をしやがった……!!?


「さよならだ――アカヒトクン」


 後ろから囁かれた言葉は重く、手に何かが乗せられた。

 それに意識を向けている間にライブレインの体が空中にできた穴へと吸い寄せられていく。


「オットー、覚えておれよ……儂の言葉に二言がないことは判っておるじゃろう……!」

「九尾――僕を敵にしている事実を重く受け止めた方がいい。時代が変わったことは既に自覚しているはずだよね」


 飄々としていて、ゼラの威嚇をさらりと避けるような言い回し。

 いや、むしろ挑発しているのかもしれない。

 そんな俺の思考もオットーという男の前では、計算済みかのように不敵に笑われた。

 オットーの体も穴の中へと吸い寄せられ始めた。それと同時に俺は背中を蹴られ、ゼラへと向けて倒された。

 ゼラは、慌てながらも俺を支え共に倒れてくれた。


「ここは異世界かくりよ――人間だけでなく妖怪ですら理解の及ばない摩訶不思議で退屈しない戦場フィールド

 異世界ココを楽しみ、飲み込んだ者が真の勝者おうじゃなのさ!」


 そんな捨て台詞を残しながらも光の中に消えていくオットーに俺は困惑していた。

 俺の手に置いて行かれたのは、この前預けた妖玉だったから。









 敵はオットーを含めてどこかへと消えていなくなった。

 まだ数十分かそこらしか経っていないが、それももう過去のことのように俺には既に実感がなかった。

 ゼラとは口が利けていない。

 色々訊きたいことはある。けれど、だからといって俺とゼラのあの別れまでもが幻だったわけじゃない。

 気まずさが消えてなくなった訳ではないのだ。


 そんな俺たちの微妙な雰囲気を晴らすかのように、続々と今までの作戦に参加していた者達が集まってきた。


「申し訳ございません!!」


 ゼラに一番に頭を垂れに行ったのは、愚直なハクだった。

 申し訳なさを全面に押し出したかのような綺麗なお辞儀には感服させられる。

 しかし、それと同時に元気にやっているのを見れて安心できた。あいつはあれくらいが通常状態なのだ。


「まさか相手にも協力者がいたとは頭にありませんでした! わたしの配置ミスです!」

「お主が謝る必要など微塵もない。今回の失敗は、全て儂の責任じゃ」


 ゼラが素直に自分のミスだとさらけ出すのは珍しい。

 オットーに裏切られた事が、あいつにとってもただ事では済まされていないんだろう。


 他にも二人――きっと魔物や妖怪の軍勢を倒すのに奮闘したのはこいつ等なんだろう。

 狐村で俺を殺そうとしてきた狐二人。確かスミレとビオラと言っていた。

 戦闘狂のような服装や顔が魔物たちの血で汚れているというのに、クウ以上に何を考えているか判らない無表情ぶりだ。

 元はゼラの従者だったみたいだし、今回ゼラに加担したのは不思議じゃないだろうが――俺が会いたくないナンバー2とナンバー3が揃って出てきているとは計算外もいいところだ。

 今でも俺を警戒してか俺をガン見してきているし、事が終わったはずなのに心休まらない。


 今回は奴等の企みを知れたことと、それを阻止できたんだから悪くはないだろう。

 だが――一番は俺を見捨ててライブレインを倒すこともできたのは言わずもがな。


 ――いや、そうじゃない…………!

 自分のミスを他人に押し付けるな!

 俺は後悔をしている。あれは自分でなんとかできたはずなんだ!

 警戒を解いていなければ、俺ならオットーが近づいていることに気付けたんだ。それを怠って、挙句の果てに人質にされた!

 人質になった時も、自分で死ぬこともできたのにしなかった! そんなこと考えもしなかった……もしかしたら生きていられるかもしれないって思っちまったから!

 捕まっても、そこから抜け出せる術があったかもしれないのに俺は持っていなかった! 力があれば反抗できたかもしれなかった! 妖力がずばぬけていれば! 魔法が使えたら! 力があったなら……!!!

 もしもなんていくらでも思いつく。俺は、弱いゆえに人質という役割に身を置かれたんだ。

 ――力が……欲しい……!!!

 妖怪? ぬらりひょん? どうだっていい!! どんな相手にも負けない、隙を見せない、自分だけの力が欲しい!!

 俺が、俺を変える……! 今がその岐路わかれみちだ!!


 平謝りするハクを他所に俺はゼラの前へと出た。

 影で俺が来たことが判ったのだろう。頭を下げたままハクは言葉を出すのを止めた。


「――ゼラ……」


 目は合わせられなかった。

 これまでのしがらみが顔を合わせることを拒絶させた。

 だけど、俺が悪いから……俺のせいでゼラの作戦を台無しにしてしまったから、それを償えないと俺はただの嘘吐きのままだから。

 俺は絡新婦のであろう妖玉を出すと、口の中へと押し込んだ。

 喉につっかえるほどに大きなそれを飲み込んだ。

 そして、息を整えるように息をする。


「末端の末端のそれまた末端で構わない。魔法だって妖術だって構わない。剣だって体術だって構わない。

 俺を強くして欲しい! 今回作戦を台無しにした罪は俺にある! だから、俺に……」


 ――いや、嘘をつくな。

 ゼラの前で、今のゼラの前で嘘をつくな。自分を偽るな。

 俺が俺である証明は嘘でなければできないという常識を非常識へと塗り替えろ。

 嘘吐きであるのはいい。だが、男が決意を語る時に予防線のように嘘でコーティングなんて邪道、行っていい訳がない!!


「俺は、力が欲しい! ライブレインを倒したいんだ!!」


 せっかく何もしなくても嘘じゃない自分をさらけ出せるのだから。

 それに甘えることが悪いことだと錯覚しないうちに、己を見せろ。


「――俺は、ずっとゼラと一緒にいたい!!」


 これは本心かどうか定かじゃない。

 だが、きっとそうなんだろうと素直じゃない俺の心を読んで言い放った。

 俺が欲しいのは力だけじゃなかった。

 それ以上にずっと欲しいって判っていたんだから。

 俺が欲しいのは――ずっとゼラからの愛情こころだった!


 ゼラの口が微かに動き始める。

 狼狽えるかのような震えと共に、言いたい言葉が何か探すかのように、自分の想いを決めている最中かのように、短くも長く開け閉めされた。

 そしてようやくゼラの声が乗った。

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