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15話 現実と夢の間で画策される妖しさ(2)

 遠近法の使われた絵画のように遠くにつれて狭まる木立の並ぶ道。

 その先に見えるのは、絵には収まらない程の魔物の束だ。

 その中に一際大きな魔物がいた。

 いや、俺には魔物には見えなかった。あれは妖怪だ。

 デカい顔が地面を弾んでやってくる。のんべえを模した上下さかさまでも顔に見える不気味な顔だ。

 その顔が禍々しいどす黒い妖気に包まれ、妖怪であると俺に仄めかしているかのようだ。

 しかし、その妖怪の存在さえ霞んでしまった。

 俺の目に焼き付けられたのは、その妖怪の上で仁王立ちしているあの男だ。

 耳にはピアス、少しだけある顎髭、一人称は俺様で二人称はテメー。外見、口調全てが俺の嫌悪の対象だ。

 何が一番嫌なのか、それはあいつの力の根源が俺と同じ妖怪が発端であると判っているからだ。


「――なんでお前がここにいる!!?」

「やあやあやあ…………また逢ったなァ、ア〰〰カヒ〰〰トク〰〰ン!

 アハ! アハ! アハハハハ!!」


 不気味な笑い声は俺の不安を駆り立てる。

 今度は七瀬を背負っている訳じゃない。戦える、けど――…………


「なんだ……人間がいるぞ!」

「まさか、この魔物たちを呼び寄せたのって……」

「ええい! 考えるのは後にせい! もうすぐそこまで来ているんじゃ!!」


 三人が狼狽えるのも無理はない。

 魔物を操っている者がいるということは、この魔物たちに頭脳が付くようなもの。

 魔物を次々と倒せばいいというだけでなく、あいつが何をしでかすのかいちいち気にしなければならない。

 脳裏にあの男の顔がチラついてしまう。


「今度は逃げんなよ? 俺様と遊ぼうぜェ……アカヒトクン!!」


 男が妖怪から跳んで向かって来た。


「く、来る……!!」

「――お前ら、離れろ!!」


 近場にいたヤツカバを突き飛ばし、警告した。

 こいつの相手は俺がする……!


「アハハハハ!!!」


 防御の姿勢で迎えれば、突進してきた男の推進力は強く共に運ばれてしまう。


「ぐぅ……!」

「レッド!!」

「今は奴に構っている暇はない! わしらは魔物どもを駆除するのじゃ!」


 ヤツカバの指示が聞こえ、安堵する。

 俺がいなくなったところで何かが変わるわけじゃないからだ。

 俺を車以上の速度で運ぶ男は、笑っていた。

 どこまでこうしているのか、投げ出す様子はなくどんどん背後のヴァルファロスト王国が迫ってくる。

 こいつ……まさかまた王国で何かしでかす為に来たのか!!?


「いつまでやってんだ!!」


 膝を曲げて蹴り出せば、それを避けるようにして男は離れていく。


「やっぱりここにいたんだな、アカヒトクン」


 背中から落下する俺に反し、男は優雅に両手をポケットに入れて降り立った。

 かっこつけが……!


「お前、いったい何者なにもんなんだよ!? ここに何しに来た!?」

「だいたい想像できてんじゃねェのか? 今回俺が用があるのはテメーじゃあねえ」


 この言葉に嘘はない。てことは――


「じゃあ王国か。まだ王国で何かしでかそうって気なのか?」

「さあな」


 ……余裕があって真相を訊きだすまではできないか。


「んなことより、テメーがここにいるってのが面白い。ツキがあるようだあから……少しの間遊んでやるよ。

 魔物や妖怪を持ってきておいてよかった。俺様にゃあ隠れて殺すなんて所業は、似合ってないからなあ!」

「誰かを殺すつもりなのか!?」

「いんや……そんな後のことより、今の自分のことを心配したらどうなんだよ!!」


 男の妖気がざわつき始める。身の毛もよだつ禍々しい妖気だ。

 すると――以前のように体から触手のような黒い影が現れだした。


「そういや名乗ってなかったなァ……俺様だけテメーの名を知っているなんざ不公平だろう?

 俺様は、ライブレイン。いつかこの世を頂く半妖だ!」


 言い終わるのを皮切りにライブレインは再び襲い掛かってきた。

 今度は、ただ逃げるだけじゃない!


「《黒衣武装こくいぶそう》」


 突き出してくる拳を後退りしながら躱すが、ライブレインの気迫のようなものに気後れしていた。

 まるで彼の一歩が俺にとっては二歩に感じるほど。迫りくるだけで恐ろしい。


「アハハハハ!」


 ゆえに、回し蹴りが来た時には反応できなかった。

 直撃を受けるが、倒れて転がり距離を取った。


「おら、まだまだだぜェ! アカヒトクン!」


 『アカヒトクン』が別称のように聞こえ、焦燥感に煽られる。


「――うるせえッ!!」


 俺は、威嚇するように妖気を高めた。

 命を燃やすように吐き出し、睨み付ける。


「アハ、アハ、アハハハハ! いいねえ……それがテメーの妖力か!!」

「だいたい下手な事を言ってるよお前……。遊ぶだの、殺すだの……他人に期待しないとか言っている割には、矛盾している。

 期待してないなら、遊ばなくていいだろ。殺すなんてことする必要無いだろ!」

「何か勘違いしちゃあいねえか? 俺ァ自分の楽しいことにしか興味がねえんだよ!!

 楽しいから遊ぶのさ! 楽しいから殺すのさ!

 世界は俺様中心に回っている! 俺様は世界を回すためにいる!! だぁから、気まぐれにテメーの世界を回してやろってんだろうがよ!!」


 背中からまた黒い四本の影が現れる。更には、その先端を警告するように向けてきた。


「お前は大嫌いだ! だからお前の好き勝手になんかさせるかよ!!」


 ゼラの妖力を纏えば、反射能力が向上してあの触手みたいのが来ても対応できると思った。

 走り出して右拳を振りかぶった瞬間、その俺の右肩に風穴が空いた。

 素早く突き出された黒い触手にドリルのように穿たれ、吹き飛ばされた。


「がああああ゛!!」


 腕が……俺の腕が……!!

 この前七瀬に取り憑いた邪魅にやられた時のことを思い返した。

 あの時は死ぬことも仕方ないと思ってどうでもいいように思っていた。でも、今回のは比較にならないほど痛い。

 肩に風が入る度に激痛が走り、血が抜ける度に右半身が引っ張られるみたいだ。


「考えが足りねえなあアカヒトクンよお……。

 これでもテメーを買ってたんだぜ? 俺様と同じ半妖怪半人間という稀有な存在でありながら、身に宿す妖力を自在に操ることができる。そうそういやしない天才の部類だってな。

 だが――箱を開けてしまえば、ただのガキが身に合わない力を持ってしまっただけだったとはな。

 ガッカリだぜ……せっかくテメーの妖力の供給元である狐を殺してきたってのに、苦労沙汰だったな……!」


 全身に寒気がよぎった。

 ゼラが死んだ……? 何言ってやがる……!


「お前なんかにゼラが殺されてたまるかよ……お前なんかがゼラを殺せるわけがねえッ!!」

「啖呵切んのは構わねえけどよ、事実をみなきゃなあ!

 俺様が何も知らずに九尾と事を構えるとでも思ってたのか? こっちは既にリサーチ済みだったんだよ!

 九尾は復活して間もなく、妖力が完全に完治しちゃあいない! ただの狐も同然だってのがな!

 しかし、テメーがいるせいで全盛期とそう変わらない力を出すことができた! だからテメーが勝手に消えてくれたのは、俺たちからしたら好機だったんだぜ!?

 テメーがいなくなるだけで、奴は妖怪としてゴミ同然だからなあ!!」


 ゼラは……俺が、霊力の摂取源が無ければ、本気になることはできない。

 くそ……クソ!! なんで俺の頭はこんな時だけ頭痛を起こさないんだよ!!


「最後の言葉を教えてやろうか?」


 ライブレインは、嘲笑いながら静寂の中で言い放った。



「――テメーがここにいなくてよかった、だとよ」



 身体が、肺が、骨が、俺の中にある全てが強ばった。

 まるで目の前の男を絶対に許すなと鳴いているかのように。

 右腕を覆っていた妖気は激しさを増して炎のように燃え盛る。

 黒変した部位は腕だけでは収まらなかった。穿たれた肩の穴も塞いでほぼ右半身全てを黒に変えていった。


「お前は、地獄行き決定だ……!」


 怒りが俺を突き動かした。

 身体が考えるより先に動いていた。ライブレインの顔面を歪なものに変形させながら殴り飛ばす。


「ぐっ……!!?」

「簡単に死ねると思うなよ!!!」

「アハ! アハアハアハ! アハハハハハ!!!

 なに一発入れただけで調子づいてんだよ三下ァ!!」


 不気味かつ嫌悪を覚える顔に再び拳を振るって黙らせる。

 続けざまに右膝裏を蹴って体勢を沈ませ、そこに丁度よく先程のお返しとばかりに回し蹴りで顎を押し出した。

 ボクシングのKO負けが目に浮かぶ飛ばされ方と口から出す血しぶきを見た。

 しかし、ライブレインは宙で後転して着地し、楽しそうな笑みを向けてきた。

 口から出る血を拭い払い、吐き捨てる。


「遊びは無しだ、コロシアオウゼ!!」


 恐怖心がドクンと俺の胸打つ刹那、ライブレインは地面に触手を突き刺して自分をパチンコの玉のようにして弾きだした。

 奴の右膝に額を打たれた。

 重心が後退していくのを逃すまいと、ライブレインは足を地面に付くと同時に加速してきた。

 そこに合わせるように左脚で蹴り上げるが、受け止められた。

 くそ……戦闘経験じゃ圧倒的に劣る。身体能力で五分五分なら、勝ち目はない……!

 俺の体を軽々と回し始め、投げ飛ばした。

 俺と同様に妖力を発揮している最中は強靭的なまでの力を持つようになるんだ。


「アハハハハハハハハハ――――ッ!!」


 狂気じみた笑い声が遠くなったり、近づいてきたり、着地点を気にする余裕を失くしてしまう。

 あれだけのクリーンヒットだったのに、ぴんぴんしている。ふざけた耐久力だ。

 背後に王国の外壁が見える。もうこんな所まで戻ってきてしまったのか。

 背後を一瞥したその時、まだ距離があったはずのライブレインから黒い触手が一本迫って来ていた。


「ッッ……!!」


 なんとか体を捻り躱そうとするも、完全に避けることはできなかった。

 横腹に突き刺さり、そのまま王国へと叩き落された。

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