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14話 孤独を求める妖人間(5)

 リコは、さんさんとしながらも帰って行ってしまった。

 微かに残った千切れた糸を辿る者が未だいることは素直に嬉しかった。

 しかし、俺はもう残りカスのように右も左も暗闇になっている。どこへ進んだらいいか判らないんだ。

 部屋の窓辺に溜息をついてたそがれる俺を七瀬が見つけにきた。ノックも無しに部屋に入ってきた。

 俺の起こしに来たのだろうか。悪いが今は構う気力がない。


「……降魔くん、今日はどうしますか?」


 朝だからなのか、俺を気遣ってなのか静かに訊ねてくる。


「昨日言っただろ……お前はあいつ等の情報を探せよ。俺、今日はこのままここにいるから」

「何を言っているんですか……。降魔くんも学校がないからってぐうたらする気なんですか?」


 そういえば七瀬はあいつ等と少しの間は一緒にいたんだっけか。

 暇つぶしにあっちの話を訊いてみようか。


「俺がいなくなってからあいつ等どうしていたんだ?」

「中に入っても?」

「ああ……」


 これもただの気まぐれだ。

 俺はずっと探しているのかもしれない。何かへのきっかけってヤツを……。


 七瀬は、椅子に座って姿勢正しく話し始めた。


「暫くは皆さん困惑した様子でした。訳も判らない場所へ来て、外には危険があって……。

 幸い城には食料も広い部屋もありましたので、旅行と思えば気が楽だったかもしれません」

「俺、月紫にステータスについてチラっと言ってたと思うんだけど、魔法を使ってみようってヤツはいなかったのか?」

「それが舞島さんも気付いたのが遅く、三日ほど経ってから発覚しました。しかし、それが城を出ていく起点となり、またクラスの方向性にも歪ができてしまいました……」


 なんか意味深っていうか、思う所がありそうだ。


「その時から男子の数人が水を得た魚のように力を誇示し始めました。

 魔法が使えると判ると、どんどん魔物を相手にするようになって……逆に所謂弱者は話しもできなくなっていました。

 クラス内で歴然とした力の格差社会ができたようなものです。わたしを含め戦いに参加しない人は端へと追いやられ、あの輪に居づらくなってしまいました。

 そんな中、わたしは空気の薄いあの輪を嫌になるように意識が薄らいでしまい、気づいたら降魔くんの近くにいたというわけです」

「そうか…………」


 一応魔法が使えるということは判っているみたいだし、そっちに関しては俺よりも詳しそうだ。

 ひとまず男子たちが強そうってことだから、月紫たちも大丈夫だろう。

 それじゃ……後は七瀬をどうやってあいつ等の下に返すか、だけど……。


「わたしたち、このまま帰れないのかな……」


 頭の片隅にはあったけれど、ずっと考えないようにしていた事を突きつけられた。

 元の世界への帰り道――それはなんとなく目ぼしがついている。その芽を俺は自ら詰んでいるかもしれないが。


「さあな……」


 七瀬たちにとって、それは大きな問題となるだろう。こちらの世界にいる間ずっと課題としてつきまとうことになる。

 なんで俺は不安にさせるようなことを言ったんだ……。

 そんなことはないっていつもみたいに嘘をつけばよかったのに……。


「降魔くんは、こちらで何をしていたんですか?

 知り合いはいるみたいですけど、一人でどうしていたのかずっと気になっていました」

「俺は…………とある奴に拾われて、ペットみたいにずっと一緒にいたんだ」


 時間が経つにつれてそれがさも当然のような感じで。


「そいつは強くて、俺のことを守ってくれて」


 お茶目で可愛くて……。


「頼りになって、なんでも俺の為に……」


 くそ……逢いたいよ、ちくしょう……!!

 ゼラの顔が思い浮かび、近くにいないことが恨めしく思った。

 あんなに俺のことを想ってくれていた奴なんて他にいなかった……。


「凄く良い人に出逢えたんですね。ひとまず安心しました!」

「ああ……そうだな……。

 ――俺もそう思うよ」


 俺の真意は誰の内にも届かない。

 それがわかっているこその寂しさを罪の意識の如く浸らせられる。

 どんな罪も自分のせいなのだから仕方がない、と受け止めるしかない。

 それでも尚、人は求めてしまう。現状からの再興の手段と、温もりを。

 俺には、それに縋り付く勇気も度胸もない。とっくの昔に諦めてしまったのだから。



「降魔くんは、戦いが好きですか?」



 唐突な質問だったが、当然のように吐き捨てる。


「嫌いだね。

 だけど、この世界じゃ戦わない奴はあっさり死んじまうのを見てきた。

 力のない者が力を得ようとして奮闘している姿をこの目で見た。

 魔法とか使えると思って興奮した時もあったけれど、開けてみればこれほど残酷な世界はないと痛感した。俺たちにとって、この世界は思っていた以上に過酷なんだよ……」

「降魔くんは、色んな経験をしてきたんですね。わたしたちよりもずっと……」

「邪魅に操られていたお前ほどじゃないけどな……」


 七瀬は首を傾げた。

 邪魅がなんなのか判らないのか。操られていたというよりも、記憶が飛んだくらいにしか思っていないのかもしれないな。


「わたし、今日は街を見て回るつもりです。降魔くんばかりに任せきりではいられませんし、皆の情報も集めてみようと思います。

 それで…………降魔くんは、どう……するんですか?」


 さっき言ったのにまた訊いてくるということは、付いて来て欲しいのか。

 操られていない間、七瀬はクラスの奴らと一緒だったんだろうから心細いのか。

 自分からそう言えないのが七瀬らしいけど。

 でも――


「俺は、冒険者ギルドに行くよ。あいつらの情報も判るかもしれないからできたら探してきてやるから」

「そう……ですか……」


 残念そうな顔をされた。

 まだ高校生だけど、だからこそ自立心は持たないといけない。

 ちょっとは冒険しないとな。

 て――誰目線だって話なんだけどさ。



◇◇◇



 ギルドへ行くと、イツメンが集まっていた。

 チームガンツのいつものメンバーでイツメンだ。

 しかし、今日はアーチはいないようだった。

 代わりに前回いなかった男が一人。大人しそうな若い青年で、年で言えば大学生以上だろうか。


「おうレッド! 久しいじゃないか!」


 ハンバーグは、いつも通り昼間から酒でも飲んでいるのかという元気ぶり。

 俺もその元気さに触発されて微笑んでしまった。

 ハンバーグにお呼ばれして、俺はチームガンツの囲うテーブルへと立ち寄る。


「なんだレッド……妹ちゃんは今日一緒じゃないのか?」

「あ、ああ……ハク……じゃなくてホワイトが実家に帰省するって言うから付いて行ったんだよ」

「そうなのか! それは残念だ」

「そうね……アーチちゃんもいないし、今日は女の子が一人だけだものね」

「女の子って言うには歳が……」


 ハンバーグが零すのを聞き逃さなかったミアラージュが怒りの形相へと変貌する。

 次の瞬間にはハンバーグの後頭部が床に叩きつけられていた。

 魔法師なのに力強いよな……。


「レッド殿はカンに逢うんは初めてだべ? 紹介するべさ!

 うちらで一番の攻撃役、カンパネルラ・リィ・コーネリアだべ。

 この前は怪我でいなかったけんど、一昨日やっと治ってまた参加できるようになったんど!」

「俺は、レッド・アカヒトだ。この前、ちょっと皆と一緒に仕事をさせてもらった者だ」

「ど、ども……」


 愛想がないが、たぶん人見知りの激しいタイプなんだな。

 俺としてはこういう人の方が楽かもしれない。


「カンには話していたんだけんど、人見知りでな……。

 んだども、戦闘の時は人が変わったように逞しくなるんだべ!」

「アーチちゃんが学院に戻る頃合で復帰してくれたのはちょうど良かったけど、まだ治ったばかりらしいから、レッドにもこっちを手伝って欲しいんだけど……どう?」


 アーチは学校か……。そういやあいつ魔法学院に通ってるって話だったな。


「ダンジョンに行くのか?」

「ええ、そうよ。何度も誘ったことがあるけれど、いつも行けずじまいだったわよね」

「そうだったな……。そういえば、お前等からその誘いが来るとまた何かが起こりそうで嫌だな」

「ふふっ、思えばそうかもしれないわね。でも、こちらからしたらあなた自身が不幸の種ってことになるわね」


 珍しく笑みを零しながら冗談を言われた。

 だが、俺にとってその言葉は図星なほどに心に刺さった。

 俺は――周りを巻き込んでいるのか?

 不幸の種に俺はなっているのかもしれない。それが例え偶然に思えても、絶対に違うとは言いきれない。


「どうかした? 顔色が悪いようだけれど……」


 しまった……思わず黙り込んでしまった。ミアラージュが怪訝けげんそうに見てきている。


「なんでもない。悪いけど、今日は他にやることがあるんだ……また後日誘ってくれ」

「……そう」


 俺は、お茶を濁すようにしてその場を立ち去った。

 今日は魔物狩りなんて気分じゃないし、情報収集だけしたら帰ろう。

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