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14話 孤独を求める妖人間(3)

 七瀬の脚を見ると、ストッキングが裂けて血が出ているのが見える。

 他にも肩や腕もそれほどの傷ではないものの奴が言う通り攻撃が被弾していた。

 睨み付けると、男は嘲笑し始める。


「しかし――あまりにも意外だった。まさかテメーが他人を庇うなんてなあ!

 てっきり俺様と同類かと思ったが、思い違いだったか? 他人に価値なんかないことはテメーも判っているはずだろ!

 そんななんの魅力もねえガキ臭い尼なんか捨てとけよ!」


 七瀬は、自分が足手纏いであることを悟り、目を逸らした。

 俺に捨てられても仕方が無い、と諦めたような顔だ。

 静かに震える唇は、死を連想しているようだった。


「俺様と同じとか稀だ。そいつを殺し俺様と組むと約束すんなら、生かしてやるが――どうする?」


 生きるか、殺すかを選べと言われた。

 七瀬は、クラスメイトでもあまり話したことのない奴だ。

 俺は嫌われ者で、七瀬は寡黙な女子生徒。そりゃあお互い話す機会もなければ、話す気にならないモブ同士だ。

 だけど、だからこそ――


「こいつだけは殺さねえ……!! 殺させねえッ!!」


 痛みが、痛覚が、ギシギシというのを押し切って立ち上がった。

 なんとしても立ち上がらなければならない、と俺の全てが鳴いていた。


「お前が七瀬をどう見ているのか知らねえ! でも、俺から見たら随分魅力的だね!!

 少なくとも、クラスで俺を嫌悪して見てくる奴等とは全然違う! 七瀬の目は、俺を蔑むものじゃなかった! 真直ぐにこんな俺を見てくれた! 礼を言ってくれた!

 七瀬の心は綺麗で、見た目もこんなにも美しいじゃないか!

 お前みたいな奴が七瀬を理解できるはずがねえ! 勝手なこと言って俺たちを見下そうとしても、七瀬の魅力は落ちないぞ!!

 こいつは、俺を頼ってくれた。生きる為に俺が必要だと考えたのが判った。

 だったら、まだ俺には戦う理由はある! それにお前みたいな奴の言う事なんて聞いてたまっかよ!!

 お前は、他全部を下に見てやがる! お前みたいな奴は俺は大嫌いだ!!」

「降魔くん……」


 七瀬の目に光が宿り、頬を仄かに赤らめる。見捨てられないと思って期待するような目だ。

 うちは父親しかいなくて、俺はむしろ家族では足手纏いだ。だから俺はまだ死んでもいい。

 けど、俺以外の奴がこっちで死ぬのなんて絶対にダメだ! 俺の命を懸けて、七瀬を守る!!


「はっ! 生きてる奴なんざ使ってやるくらいが丁度いいんだよ!

 テメーは何も判ってねェ。その力は、俺等みたいのに残された唯一の道にしてを手駒にできる道具なんだぞ!

 こいつを使ってやる意味を何一つ理解しちゃいねえ……。俺様が教えてやるよ、その体、その魂にな……!!」


 勘違いじゃなかった。男の体から湧きたつ黒い影のようなものがうごめきだし、俺たちへと伸びてきた。

 影は、蔦のように細長く自由自在に伸び縮みするようだ。


 俺は再び七瀬を抱えて逃げた。

 言いたいことは言った! 言ってやった! あとは逃げるだけだ!

 あいつのアレは妖気だ。しかし、普通の妖怪と違って気配が弱い。

 口ぶりからして俺と同じで人間の体に妖気を宿す者。しかも俺の中の妖気にも勘付いてるようだ。


「どうするつもりなんですか降魔くん!?」

「んなもん決まってる、逃げるしかねえだろ!」


 見た感じは中距離で距離を取りながら戦うことのできる万能型。対して俺は近距離の接近戦型。

 不利を押し切ってまで七瀬を抱えながらなんて戦えない! ここは逃げの一択しかないんだよ!


「わかりました、お手伝いします!」


 その言葉に俺は少し期待をしてしまった。

 しかし、そうしている間にも男は後ろから追って来ていた。

 妖気でどれくらいの距離かはだいたい判る。

 にしても、早い……!

 ふと振り返ると、男は体から出している影で木の枝を掴み、まるでターザンのように追って来ていた。


「くそ……ターザンかよ!!」

「少しだけ気を逸らせませんか?」

「ッ――どれくらいもつか判らないが、いいか?」


 考えている暇はない。逃げられるのであれば、さっさとやるっきゃないだろ!


「逃げられないって言っただろア〰〰カヒトクン!」


 男が頭上から降ってくる。

 その一瞬の隙を俺はつくことにした。

 距離感は掴んだ――ここだろ!


「《毒霧どくきり》!!」


 振り返り様に掌から毒霧を噴射した。黒紫色の霧が放射状に広がっていく。

 虚を突かれたような顔が霧に埋もれたのを見送り、一気に置き去りにした。

 すぐさま駆け出し、全力で距離を離すことだけを考えた。


「こんな物で……!!」


 しかし、それでも黒い妖力で霧を払いのけ、また追おうとしてきた。

 くそ……やっぱりダメか!


「まだです!」


 霧から出てきた男目掛けて空から8羽の鳥が急降下して行った。


「な、なんだこいつら……!!」


 男の顔に鳥達が突進していく。

 仰け反る男に対し、流れる連携で鳥達が顔目掛けて攻撃していた。

 

「あれは……」

「わたしの友達です! 今の内に!!」

「言われなくても!」


 更に速度を上げ、森を突っ切る勢いでひた走った。

 あの男の気配が遠のいていくのが判り、巻くことができたようだった。


「……逃がしちまったか…………。

 しかし、あんな奴が本当に脅威になるのかね。ぬらりひょんの言っていることは実際眉唾物だよな。

 まあ逃がしちまったもんはしゃあねえな。このまま計画を進める上で、あいつにも次のまつりごとには参加してもらえばいい。

 その前に、あっちを片付けるか。狐は、今の内に叩いた方が楽だって話だからな。

 お楽しみはまだまだ残っているぜアカヒトクン」



◇◇◇



 おやつの時間帯になってやっとヴァルファロスト王国へとたどり着いた。

 終始止まぬ悪寒が背中を突き刺し、急ぎ足で来た。

 形容しがたい焦りが何故か体をざわつかせている。さっきの男のことは気掛かりだけれど、それも含めて何かに追われている感じが止まない。

 全てが怪しく見えてしまう。街行く人や孤高に佇むあの城にも悪いイメージを掻き立てられる。

 あの男と話したことで絡新婦の時の事が脳裏にチラついた。

 空も掻き曇り、怪しい雰囲気が国全体に広がりつつある。勝手な妄想だと判っていても、感覚がおかしくなっている気がするんだ。


「どうしました?」


 もう隣にいることが定着してしまった七瀬が首を傾げている。不安に煽られている俺の顔色を気に掛けてくれているらしい。

 今頃気付いたけれど、同級生が隣にいるというこの状況は珍しい。偶に月紫がちょっかいをかけてくることはあったが、これほど長い間近くにいられるのは久しぶりだ。

 つい頼りたくなってしまうこの衝動はどうにかしないといけないな。心細さから他人に縋るのは俺らしくない。

 いや、近頃はゼラがいるから、とあいつにおんぶで抱っこになっていたから最近じゃ普通のことだったのか。


「なんでもない。一応金は少し持っているし、宿をとるぞ。

 勿論部屋は別だ、安心していいが――お前は明日からのことを考えておけ。他の奴等を探さないといけないだろ」

「え……そ、そうですが…………降魔くんは……」


 気まずそうに訊ねられる。なんとなく答えは判っているんだろう。


「俺は、探さねえよ。戻っても俺のことは言うな、適当にそこら辺の旅人に助けてもらったとでも言っておけ」


 俺はこのまま死んだことにしてもらおう。変に気を遣われては面倒だ。

 俺に気を遣う奴なんざ数えるほどもいるかどうか判らないけどな。


「や、やっぱり……お部屋一緒でいいです!」


 立ち止まってどうしたかと思えば、無理をするように言い放った。

 顔を赤くしているところ見ると、恥ずかしい気持ちはあるようだ。


「お金を払ってもらうわけですし、二部屋も取って貰っては流石に申し訳ないですから……」

「バーカ、女が金なんか気にすんなよ!」

「うっ……」


 俺は、再び七瀬の額にデコピンをした。

 これ以上こいつと関わり合ってはいけない。

 俺の下には不思議と敵がやってくる。だから、その巻き添えを食らわせてはダメだ。


「それに俺、一人じゃないと眠れないしな」


 頭痛が生じるのがうるさい。

 これくらい嘘でも本当でもどっちでもいいだろうが……。


「じゃあせめて時間をくれませんか? そうです! 夕食は一緒に食べましょう!」


 そう言うと、七瀬の腹が「ぐー」と音を立てた。

 なんとも丁度良く鳴る腹の虫だ……。

 七瀬は顔を羞恥に染め、誤魔化すように早口で続けた。


「ほ、ほら! ご飯は誰かと食べた方がおいしいですし、降魔くんが今まで何をしていたのか知りたいですし!

 なんならわたし料理しますよ? すぐそこに八百屋さんのようなお店がありそうです! あ、あそこに行きたいな~なんて……。

 あ、ダメですよね!? すみません我儘ばかりで!

 うち家族が多いので、母の手伝いとかよくやっていました! 帰りが遅い時とかしょっちゅうで、弟や妹達の分まで作っていましたから何人分でも作れますよ!

 得意料理はチャーハンで、パラパラで美味しいですから是非食べてもらいたいです! あれ、でもこっちにチャーハン作れそうな具材とかあるんですかね?」


 無理させるのは男として沽券に関わる、か。


「それは宿の後だな。俺も疲れちまったし、先に寝床を確保しておきたい」

「そ、そうですよね! わかりました、じゃあ宿を探しましょう!」

「いや、宿の場所は判っているからあんまりはしゃぐな」

「す、すみません……」


 やっと大人しくなった。自分がはしゃいでいたことに気付いて肩を落としている。

 こいつ、こんなに表情をころころ変える奴だったんだな。

 学校じゃあお高くとまっているだの、秀才の考えることはわからないだの。周りから色んな声を聞いていたが――箱を開けてみれば、か。

 案外見ようとしないと判らないことって多いのかもしれないな。

 いや……俺には過ぎた話か。

 箱を開けてくれる人を待っているが、その実開けてくれる奴がいるのはほんの一部で、運の悪い奴はずっと箱の中でくすぶっている。

 人によっちゃ空の箱に入っていく奴もいて、鍵をかけるのに開けてくれる奴がいる。

 俺は、箱の中で更に箱に入っちまった。箱を開けてくれる奴がいても、もう気付いて貰えないんだろうな。


「やあ、久しぶりだね――レッドくん!」


 横から声を掛けられて振り向いた。

 手を振って呼びかけてきたのは、オットーだった。

 彼の捕らえ何処の無い笑みは忘れもしない。相変わらず何を考えているのかわからない奴だ。


「なんだオットーか」

「なんだはご挨拶だね……」

「降魔くんの知り合いですか?」


 オットーが俺のことをレッドと呼ぶのを気にしないでくれるようだ。

 空気を読んでくれて助かる。


「こいつはオットー。冒険者として仕事をしている時にこいつの依頼を受けたんだよ。

 こっちはナナだ。同郷の奴で、今はちょっとだけ手伝ってやっている」


 七瀬には悪いが、略称を偽名として使わせてもらう。

 こいつはグレーゾーン。敵か味方か、まだわからないからな。


「今日は違う女の子を連れているんだね」

「変な言い方するなよな……。俺は別にとっかえひっかえしてるチャラ男じゃないぞ」

「へえ? まあいいや、後でちょっと話せないかな? 男同士で」

「いや、悪いが時間がないんだ。ちょっと面倒事に関わっちまってな、余裕がない」


 こいつと二人きりとか嫌な予感しかしない。断固却下したい。


「え~? その子が手料理を作る間くらいいいじゃない!」


 聞いてやがったのかよ……。

 相変わらず胡散臭い奴だ。


「はぁ……少しだけだぞ……」


 溜息を吐いて嫌な雰囲気を出しているにも関わらず、オットーは嬉しそうにニヤケている。

 これだから妖怪は嫌いなんだ……!

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