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14話 孤独を求める妖人間(1)

 目が覚めたら天井が白かった。

 あまり痛かったのが続かなかったな。まだ楽に死ねた気がする。

 それにしても心穏やかだ。元々あったしがらみや苦痛から開放されたかのように妙に身軽だ。

 そうか……死んでんだ俺……。

 それじゃあここは天国か。いや、その手前みたいなものか?

 どちらにせよこれで嘘吐きな俺のいる世界とはおさらばだ。

 もし転生のようなものが本当にあるのだとしたら、今度はゼラと関わり合わない嘘吐きでもない普通の人にして欲しい。


「あれあれ! やっと起きた!」


 と、思いきや聞き覚えのある幼い声が頭上から聞こえてきて下唇が出る。

 カクシが上から顔を覗き込んでいた。


「なに変顔なんかしてるの?」


 変人を見るような目を向けてきて、俺は腕で顔を覆った。


「いったん落ち着こう。うん、これは天国もしくはその一歩手前くらいの世界だ。

 ここにカクシがいるのは、神様だからだよ! そうだ、そうに違いない。神様が天国にいることになんの不思議もないじゃないか!

 カクシは俺に逢いに来たんだな。なんて可愛い奴だ。よし、死に切る前に生前できなかった意地悪をしよう!

 神様だか紙様だか関係ない! だって、俺は死んでるから苦痛も何も無いわけだしな! あは、あははははは!」

「あれあれ……お兄さん、気持ち悪いよ?」

「知ってるよ!!」


 一気に起き上がり、おののくカクシの肩を掴んで叫んだ。

 あまりにも残念で非道で残忍な行為に対して俺は言い返す、もしくは説教する権利がある。


「お前、俺がどういう気持ちで死を受け入れてたか何も知らないくせに助けてんじゃねえよ!

 いいか! 俺は死にたかったんだ! 俺を殺すやつに殺して欲しかったんだよ!

 なのになんで勝手に助けてそんな可愛い顔をしてんだ!? かわい子ちゃんですかコノヤロウ!!」

「なんか言ってること無茶苦茶……」

「うっせえ! そこに直りやがれロリ神が! ロリ神様めg……!!」


 強烈なアッパーが鮮烈に俺の顎に決まった。

 白い世界で宙を舞うと、全てが白いから上下左右が判らない。

 しかし、ジェットコースター以上に空中で回転しながら地べたに叩き落とされた。


「ぐへ……」


 まだ話の途中だったのに……。


「お兄さん……ボクは怒っているんだよ? お兄さんは――いいやここは言い直す!」


 言い直しちゃうんですね……。

 俺は、2次元内の3D人間ばりに関節を犯し体を丸めながら彼女のキメ顔を見た。


「ロリコン変態野郎は!」

「おい、ちょっと待てロリガキ。俺はロリコンじゃあないんだぜ?」

「そんな格好で言われても全くカッコよくないのに、カッコつけるなんていさぎがいいね……」

「やる気がないんだこっちは!」

「今の襲いかかってきた勢いはどうしたの……」


 完全無垢そうな少女に呆れられているようだけれど、別にどうでもいい。

 力という力が抜けきって、何もする気がない。


「…………元気してたか?」

「なにその好きな子に中々声かけられないんだけど、久しぶりに話す機会ができて嬉しいんだけど何を話していいか判らない時に切り出す話題みたいな問は……」

「ここって家賃タダだよな。俺ここに引っ越すわ」

「せめてちゃんとお願いして!」

「もっと甘えさせてくれ……俺は今、心が傷付いて鬱になっているんだ。せめてその体で…………くっ……ロリかよ……!!」

「なんでそんなに残念そうなの!? ロリコンなんだからそこら辺は我慢しなさい!」

「てことは、いいのか!?」

「だからせめてちゃんとお願いして!」


 俺のこのだらけた体勢に対してあまりよく思っていないようだ。

 だがしかし、俺はこの体勢のままいかせてもらう。なぜなら、顎をやられたことをすっごく根に持っているからだ!


「ねえねえ……さっき死のうとしてたって言ってたけど――」

「何も訊くな」


 言葉を遮るように俺は会話を中断させる。

 だが、神様は無情にも再び蒸し返そうと更に距離を縮めてきた。


「ロリコンお兄さん! あれあれ? 聞いてますか、ロリコンお兄さん?」

「……なんだよロリコンと別称するロリ神様よ」

「ボクは怒っているんだよロリコンお兄さん」


 なんども言うな。怒っている、という単語を聞くだけでイラついてしまうんだ今の俺は。


「ロリコンお兄さんは、なんで何の抵抗もせず彼女に殺されようとしていたのか。ロリコンお兄さんはボクに説明する義務があると思うの」


 またプリプリと踊るように舞っている。

 楽しむというよりイラつかせようとしている気がするのは、気せいじゃないだろう。


「義務だの権利だの。俺は世界のルールに縛られるのは、もう飽きたんだよ。

 放っておいてくれないか。せめてこの世界の端っこにでも俺をおいておいてくれ」

「ロリコンお兄さんはニートなの?」

「んなわけねえだろ……」


 こいつはどんだけ俺をロリコンにしたいんだ?

 もしかしてこいつは俺に気が合って、自分がロリっ子だから俺をロリコンにして自分を好きになって貰おうとかそういうことなのか?

 ロリコンロリコンとなんども俺を呼び掛ける二人称に付けられて、それくらいの考えをしても仕方が無いとは思わないか。


「あれあれ? でもロリコンお兄さんは、働いていないんだしニートじゃないって言えるのかな?」

「そんなことどうでもいいだろ。論点がそこに行くのは、どうでもいいことでも流石にイラッとするからやめてくれ」


 あざとく人差し指を下唇にあてる仕草が妙にムカついて素っ気ない態度をとってしまった。


「ロリコンお兄さんは自殺がしたいの?」


 急に核心をついてきた。それまでのイラつく仕草はなく、神妙な表情だった。

 だからだろう体はすっと起き上がり、俺の口は自然と動いた。


「自殺はやだな、そんな度胸は俺には無い」

「じゃあボクが殺してあげるよ、って言ったら――死ぬの?」

「難しい質問だな。まぁ……どっちかって言ったら嫌かな」

「あれあれ? 死にたいのに、殺されたくないのはなんで? 彼女には殺されてもいいって思ったのに、ボクに殺されたくないのはなんで?」


 カクシの無表情は怖かった。妖怪であり神である威厳がここにあった。


「――お前に人を殺させたくないからだよ」

「…………ずるい答えだね」

「嘘じゃない。お前が例え妖怪でも神様でも、小さくて可愛い女の子が人を殺すなんて物騒な事はさせたくないんだよ」

「一人よがりで、傲慢な考えだよそれは。お兄さんはボクのことなんて何も知らないくせに」

「知らねえよ。けど、自分の理想を突き進めない男はそれまでだって俺は思ってる」

「――だから、お兄さんは死のうとしたの?」


 図星だった。

 いや、図星に思えた。

 そうだと意識してこなかったが、言われるとそうかもしれないと思った。

 なげやりになっていない、と言えば嘘だ。

 しかし、もはや嘘という要因に対して拒絶することさえおっくうである。

 図星なら図星でもいい。なげやりならなげやりでもいい。今の俺にはどっちでも変わりないという事実しかない。

 そう思って、俺はまた肩を落とした。


「お兄さんは、自分の思い通りにならないから逃げて来たの? 逃げようとしたの?

 それって結局、自分の理想を突き進めなかったってことなんじゃないの? 理想と現実がかけ離れていたから逃げたんじゃないの?」


 こいつは知っていたのだ。

 俺とゼラにあったこと。もしかしたらゼラが話した前世のことも知っている。


「お前、見てたのか……。全部見ていて、傍観して、それでもって俺を助けたのか」

「どうでもいいことで逃げ出すんだって最初は失望した。だからボクは怒ってた、イラついてた……。

 逃げ出すことになんの意味があるの? 悪かった人生を終わらせることになんの意味があるの?

 意味は、生きていないと見出せないものなんだよ?」

「お前、なんで俺を助けた? 知り合いが死にそうになったから仕方なく、もしくは気まぐれで助けてくれたのか?

 神様は偉いよな。自由になったからってなんでもできると思ってやがる。

 俺なんかにお前が判らないように、お前なんかに俺のことなんか判らないだろ。神様でも、おれのことなんか知りようがないだろ。

 だってお前は俺じゃない。俺はお前じゃないんだ。どっちの考え方も、生き方も、理解できるはずもねえよ……」

「………そうだよね……。うん、お兄さんに勝手に期待したボクが馬鹿だったって話だよね」


 これでいい。俺は、独りが当然なんだ。独り善がりが自然体なんだ。

 どうせ……嘘吐きな俺は独り……。


「ん〰〰ん――……」


 どこからか子供の声が聞こえてきた。

 寝起きのようなその声にカクシは憂鬱そうにも誘われる。

 俺も気になりチラリと顔を上げた。


「ごめんね……声が大きかったね」


 彼女の柔らかな声は母親のような母性を感じた。

 カクシが行くそこには籠があった。真新しいけれど、竹でできているようで様式は古い。

 それを見て、ふと思い出す。

 俺は、カクシに麒麟のものと思われる卵を取ってやった。

 もしかして、それなのか……?

 俺の足は興味本意に籠の元へと歩き出す。

 カクシは、籠の中から小さな赤ん坊を抱いて見せた。

 どことなく見覚えがあるようなパッとしない顔だった。

 目が細く切れ長であり、黒髪。どこにでもいる少年だった。


「誰かに似ていると思わない?」

「……知らね」


 内心心当たりはあったが知らないフリをした。

 カクシの抱きかかえる少年は、まるで幼い俺にそっくりだったのだ。


「麒麟はね、幼少時に自分を見つけてくれた者の姿形を真似るの。この子を見つけたのは、お兄さんだったから……」

「珍しい生き物なんだな」


 麒麟というくらいだ、そりゃあそうだろうけれど。


「お兄さんを見ていたのは、けして九尾だけじゃないんだよ。ボクも、そしてこの子だって……。

 お兄さんは、何が不満で――…………」


 俺を説得しようとしているのが判り、俺はそれ以上の一切に耳を塞ぐ。それに気付いたようでカクシも口籠った。

 これ以上は、今の考えを曲げるような気がする。こんな可愛い子供を見せられちゃ、まるで……ゼラと俺とクウみたいだ。

 くそ……またゼラのことを思い出しちまった……。


「俺は行く。もう俺には関わるな」

「お兄さんは、なんでそんなに頑なにも事実を否定しようとするの? 理想と現実が違ったって、あるのは現実だけだよ……」


 苦しそうに訊ねられた。

 心苦しくは思ったが、俺にはその問に対する答えはない。


 項垂れているうちに俺は夜道に戻っていた。しかし、俺は何も思わずただただ足を前へと進ませる。

 欲しかったものが見つかったと思ったけれど、目を凝らしたらそれは紛い物だったから。

 いや、違う。ゼラが見ていたのが俺じゃなくて、その奥にあるんだろう別人だったからだ。

 事実を否定しようとしているんじゃない。事実を受け止めた上で苦しんでいるんだ。

 俺の中には何も無いのに、信じたかった奴がそれを見つけようとしているから飽きちまったんだよ。

 それほどにゼラという存在に俺は期待していた――。

 たったそれだけなはずなのに、それだけに感じられないんだ。

 俺にとっては、それが一番重要だったんだよ…………!!

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