表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/125

9話 妖と築く未来(4)

 ――これで決まったな。

 俺は、再び立ち上がるとヴァルファロスト王と向き合った。


「先程のお話、ありがたく受けさせて頂きます。私を買って貴族位を与えて頂けるというのであれば、私は家族と友人たちの為に全力を尽くします!」

「それは、こちらとしても大変嬉しいことだ。

 今回は、貴族位に関しての返事として受け取っておく。リーテベルクの件は後日また改めて話すとしよう」

「はい」

「アリシア嬢、彼ともう少し話をしてあげて欲しい。栄進するにあたって不安なこともあるだろう。私に変わって色々と教えてやってくれ」

「承知しました」

「私は、他にも話をしに行かなければならない。今回の式でアリシア嬢の父君も来ているのでね。

 すまないが、なにか訊きたいことがあればアリシア嬢に訊いてほしい」

「いえ、ありがとうございました」



 俺たちは、パーティの会場へと戻っていくヴァルファロスト王の後ろ姿を見送った。

 逞しさと王の器を垣間見た気がした。あの人が王であることに不満を抱いた第一王子は目が節穴だったと言わざるを得ない。


「妹がいたのですね」

「はい……」


 ゼラに視線を移すと、ニヤニヤして表情に花が咲いていた。


「おい妹……」

「はっ! な、なんじゃ偉そうに! わ、儂はなんとも思っておらんわ愚者め!」


 愚者……?

 かと思えば、顔を赤らめながらもムキになって威嚇してきた。


「何言ってんだお前……」

「お爺さんみたいな話し方をするんですのね……」


 あ、と思った時にはもう遅く、アリシアにゼラの口調を知られてしまった。

 興味深そうにまじまじと見ているので、怪しいと思っている訳ではないと思う。だが、一応のフォローはしておこうか。


「父さんに似たんです、よ……」

「結構な御歳だったのですね」


 関心するように相槌を打ってくれるが、俺の方は苦笑しながらも嘘をついて頭が痛くなっている。

 誤魔化すのも大変だ。


「こっちに来いよ、お前も一緒に話を聞こう」

「う、うむ……」


 俺が席に座ると、ゼラは俺の膝の上に座った。

 ここかよ……!?


「あ、えと……そちらの席に座っても構いませのよ?

 殿下が座っていたとはいえ、そこが指定された席という訳ではありませんから」

「構うわぬでよい、儂の席はここと決まっておる!」

「そ、そうですか……失礼しました……」


 図々しくも公爵令嬢相手に偉ぶっているが、図太さでは右に出る者はいないな。

 これ……元の世界なら厨二病って思われるんだろうな……。


「して、この者に貴族位を与えると、そういうことでよいかの?」


 お前が仕切るのかい!?


「え、ええ……そういう方向で進めます。レッド様……今はアカヒト様とお呼びした方がよろしいですか?」

「そうですね……」

「アカヒト様は、珍しい名前にお見受けしますが遠方から来られたのですか?」

「まあ、そうなりますかね。とはいえ、もう街の名前も覚えていないんですけど……」

「…………それは、嘘なんでしょう?」

「っ……!?」


 ゼラが警戒したのが判った。アリシアに図星をつかれ、前がかりになっている。


「これは一本取り返されてしまいましたね」


 しかし俺は、ポーカーフェイスを崩さなかった。更にはゼラを宥めるように頭を撫でた。

 相手の土俵で勝負をしてはいけない。もしかしたらさっきの仕返しの可能性もある。


「ええ、そうですね。ですが、貴方を驚かせられはしませんでした」


 そう言う割には余裕が感じられるな。微笑んで目を離してくれない。


「何故判ったのですか? 矛盾点は無いはずですが」

「貴方の嘘を見抜くのは骨が要りました。ですが、やっと捕まえることができた。

 わたくしの左目は、魔眼なのです。嘘を見抜く能力ちからではなく、本質を見抜く能力です。

 最初から貴方がどういう人なのかは見ていました。式が始まる以前からここに至るまでに」


 この能力があるから王はアリシアに頼んだのだろうか。


「貴方の本質は秘めることです。自分を偽り、本当の自分を隠そうとしていますね。

 ですが、全てではありません。貴方と妹さんとの会話で垣間見えたのが本当の貴方なのでしょう」


 まるで占い師のように胡散臭いけれど、嘘の言葉は何一つなかった。


「アリシア様は本質を見抜かれたということですが、それは嘘を見抜いた理由にはなり得ませんよ?」

「その通り。貴方の嘘は、真実の中に紛れている。だからこそ嘘の殆どを信じてしまう。

 わたくしも魔眼がなければ貴方の歪さには気付けなかったでしょう」

「では、どうやって?」


 ここは一旦乗ろう。読心術の方法を聞き出す方が利になる。

 だけど、この人は教えてくれないだろうな。


「歪だからこそ、嘘はきっとある。

 ――賭けたのです。引き出した棚の中にある物が紛い物であると」

「……では……」

「ええ、嘘と言った時の反応を見るつもりだったのです。

 そしたら簡単に認めてしまうから、ここまでやる必要があったかどうか判りませんね」


 これは一本どころか三本以上取られていたみたいだな。

 嘘が直ぐにバレる癖がついて、あっさり認めてしまったというわけか。


「だからといって貴方の栄進を止めるつもりは全くありません。今のやり取りの本質は、先程のお返しですから」


 本当に、悔しかったみたいだな。

 満足気な笑みや佇まいが楚々(そそ)としていて、思わず可愛いと思ってしまった。

 不覚……。

 顔に熱が上がってきたので、俺は口元を隠しながら視線を逸らした。



◇◇◇



 ここは、セーリジュリア公国。街は騒然と賑わっていて、商業が発展している、らしい。

 わたしたちは、この国へとやって来るなり情報収集に勤しんでいた。

 一人では危険だからと幾つかのグループを作り、各々この世界から出る方法と生きていく為に必要な知識を探していた。


「あ! ねえねえシュリ、皆集まってきよ!」

「そうね」


 日が沈みそうになり、わたしたちは事前に決めた場所に集まった。

 誰かは判らないけれど、公国には目立った偉人の像がある。自由の女神ほどではないとおもうけれど、この国の象徴とも言えるほど高く聳え立っていた。

 聡明そうな女性で、遠くからみるほど凛々しく強そうに見えた。近くから見ると、強そうという印象よりも綺麗で羨ましく思った。

 集合場所にした理由としては、ここが国のほぼ中央に位置していて、集まりやすい場所だと考えた結果だった。

 グループで別れる前に地図で確認したから迷わずに済んだみたい。グループが幾つか合流しながら帰ってくる。


畠中はたなかさん、南側は全員いた。そっちはどうかな?」


 学級委員長の三井義隆みついよしたかくん。責任感が強く、元々の役職もあって主に男子をまとめている一人。

 成績も良く頭もキレるけれど、時に責任感が強すぎるあまり悩みが零れることがある。


「こっちはまだよ。あと一グループだけなんだけど……」

「誰がいるグループだい?」

「篠崎さんと昭島てらしまさんと雨宮さんと梶谷やんと七瀬さんね」

「全員女子の班か……」

「街の中だからって気を抜いちゃってたけど、知らない所なんだし駄目よね」

「道中は偶に魔物に襲われたからね」

「魔物? あの凶暴な動物のこと?」

「うん。また後で話すけど、こっちには冒険者ギルドという場所があってね。あの化け物のことも少しだけど知ることができたよ」

「そう……有益な情報源を見つけられたのはプラスね」


 そうは言ったけれど、表情は陰鬱になってしまっている。

 もうこちらへ来て約一週間が経ち、わたしの方もかなり疲れていた。

 これが終わったら早いところお風呂に入ろう。あ、でも……ちゃんとツクシもお風呂に入れないと。


「あ……戻ってきたみたいだね」


 三井くんの言うように梶谷さんたちが戻ってきた。

 しかし、その様子はどこかよそよそしく、表情は曇っている。


「一人、足りない……。一人足りない!?」

「え、嘘……」


 驚嘆しながら立ち上がって確認をする。

 すると、確かに一人足りないことが判った。ツクシと密かに話しの場を設けた七瀬さんがいない。


「梶ヶ谷さん! 七瀬さんは……?」


 わたしは四人に駆け寄り、焦りながら訊ねた。


「いなくなっていたのよ……ちょっと目を離した隙にね」

「もしかして……誘拐……?」


 背筋がゾッとして膝からは力が抜けた。


「誘拐!? ちょ、ちょっと待ってくれよ……僕たちには誘拐されても払えるお金なんて持っていないよ!!?」


 三井くんが大声を出したせいで皆にも知れ渡ってしまった。


「なんだなんだ?」

「誘拐って聞こえたぞ?」

「畠中、どうした?」


 武蔵野くんたちが切迫したような面持ちで駆けつけてきた。

 わたしたちの様子から嫌な予感がしたのだろう。それ以上訊いてこなかった。


「どうしたじゃないよ……! 七瀬さんが……誘拐されたかもしれないんだよ!!」


 とりみだした三井くんが放った言葉で動揺が走った。


「で、でもまだわからなくて……ただの迷子かもしれないの!」


 梶ヶ谷さん……それは安易な考えよ。

 もし迷子だったとしても、七瀬さんは自分の地図を持っているはず。それに、この場所が判らないなんてことないわ。


「なんだよ……まだわかんないんだってさ!」

「でも急いで探さないと!」

「そ、そうだな!」

「皆、一人にはなっちゃダメだ! 必ず複数人で行動すること! これは絶対に守ってくれ!」


 けど、まだここに到着していない、向かっている途中だということも考えられるわ。


「残る人も必要よ、まだここに来る可能性だってあるから!」

「そうだね、じゃあ畠中さんはここで指示を出してくれ。男子を中心に探してくるから――」

「俺もここに残るぜ。迷子の世話なんてごめんだね」

「基山くん!!?」


 素っ気ない返事をしたのは基山くんだった。

 一人だけどこかで買い込んだのだろう軽装の鎧を見に纏って、飽き飽きしたような表情を浮かべている。


「俺たちゃもう高校生だぜ? ガキじゃねえんだ。なんでそんなガキみたいなことをしている奴の子守しなきゃなんねえんだよ!?

 足手纏いなんてとっとと切り捨てようぜ?」

「こういう時は助け合いでしょ!?」

「助け合い? 俺はぁ、あんな陰気な野郎に助けてもらったことなんてないけどな!」

「これだから男ってのは!! もういい! わたしも行って来るから!

 行くよツクシ!」

「あ、う、うん! 早く見つけないと、野垂れ死んじゃうしね!!」


 基山くんの嘲笑う顔にムカついた。だからわたしは話しを終わらせ、ツクシを連れて行く。

 やっぱり始めに化物に向かっていかなかった男子たちはただの腰抜けだわ! 降魔くんの方が百億倍マシね!



 その後、数時間の捜索も見つからず、七瀬さん以外の皆だけで憂鬱に宿へと戻ることになった――。

 彼女は、一体どこへ行ってしまったんだろうか。

 ただ一つ気掛かりだったのは、国を東に抜けていく馬車にローブを深く被って顔の見えない怪しげな者が乗って行ったという情報があったこと。

 それが七瀬さんだったらいいな、と思うほかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ