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9話 妖と築く未来(2)

 俺たちは、粛々と受勲式へと参加した。

 「俺たち」というのはチームガンツは勿論のこと、俺やゼラ、ハクもだ。

 王子が国の乗っ取りを企てていた、なんていう名目は隠蔽することとなったが。

 民衆に気付かれる前に事を収められたということもあって都合が良く、王の頼みを受けこれを承諾した形だ。

 王子がそんな事をしていたと周知されるのは、民衆にも周辺諸国にも顔が立たなくなってしまう。その為、これを隠せる段階で手を打てたのは王様も胸を撫で下ろす気持ちだっただろう。


 式が終わると、城の広い庭で王族も参加する食事会をすることになった。おそらくお詫びの意味もあるんだろう。

 この為に日を合わせたかのような快晴の下、催されたパーティには様々な人達が参加しているようだった。ギルド長もその一人である。

 セルフォート・アイゼンベルク。この国のギルドを取り締まるギルド長にして、過去には冒険者としてこの国随一の強さを誇っていたという。

 その威厳は今も健在なようで、怖いほど強い眼圧を持つセルフォートにハンバーグほどの男でさえもたじたじなようだ。

 ハンバーグよりはガタイがないというのに不思議と強そうに思える。

 リオネルもリルルも参加し、真先に俺の所に集まってきた。


「アカヒトさん!」

「アカヒト様!」


 流石は双子だな、息の合った呼び掛けだ。

 二人に話し掛けられたところで、ゼラは邪魔をしないようにとハクの方へと行ってしまった。


「この度はお世話になってばかりで、本当にありがとうございました!」


 リオネルはかなり生き生きとしている。兄の愚行を止められたことをまずは喜んでいるように見えた。


「いいえ、俺も助けるのが遅くなってしまいました。もっと早く行くべきだったのを、待たせてしまい申し訳ございません」

「アカヒト様、そのような丁寧な言葉はいりませんと言いました。ですので、普段通りで構いません!

 アカヒト様は、わたしたちにとって家族を救ってくれた英雄様なのですから!」


 穏やかな表情のリルル。しかし、少し疲れているようにも見えた。

 兄のことで心労が増えたのかもな。こうやって表に出てこれたくらいには回復したようで良かったけれど、あまり無理しないで欲しいものだ。


「リルルもリオネルも優しいな」

「そんな! 私たちが褒められる道理はありませんよ!」

「アカヒト様こそ、わたしたちを想ってくれるその心がお優しいです」


 こんなに小さいのに本当にしっかりとしている。

 でも、だからこそ、ということがあるんだろう。それがあの事件を引き起こしたきっかけだったんだ……。

 リーテベルクもこの子達のように母が倒れて、しっかりしなければと思ったはずだ。そこに余裕がなく、隙間を作って妖怪に入られてしまった。

 二人には、そうなって欲しくない。女王様のこと、俺もどうにか調べたいな。


「アカヒトさん?」


 少し考え事をして固まってしまった。二人に心配を掛けてしまったらしい。


「よし! 二人共、今日はいっぱい食べよう!」

「「――はい!」」


 この子達は獣耳がないけど、すっごく可愛いと思える。まるで親戚みたいに愛着が湧いてしまうな。


「先程ぶりですねリオネル王子、リルル王女」


 リオネルとリルルの無垢さに穏やかな日常を感じていると、後ろから声が掛かった。すると、二人は俺の影から手を振った。

 二人に用があるようだから俺は退けようかと思った。


「貴方が冒険者レッド、ですか?」


 しかし、この女性の声は、まだここに来て日が浅い俺までも知っているみたいだった。

 振り返ると、そこに立っていたのは黒いドレスに身を包んだ容姿端麗な少女。淡藤あわぶじ色の燦然さんぜんな長い髪を風に靡かせ、不敵な笑みを浮かべながら俺を見ていた。

 睫毛が長く、目元には黒子があって艶めかしく感じた。しかし、それ以上に自負心の強そうな表情に警戒させられる。

 後ろの侍女らしい女性に日傘をさしてもらっているところ見ても、高貴な家柄だというのは判る。けれど、そんな知り合いは俺にはいない。


「失礼ですが、どなたですか?」


 情報がなく、どんな対応をすればいいかわからない。

 このような場に来る以上、ただならぬ人物であるのは想像に難くない。粗相をしてはいけない、と気持ちを入れ替えた。

 歳は俺に近いと思うが、だからといって身分の高い人物に声を掛けられるほどの理由にはならない。


「これは申し遅れました。わたくし、公爵家の長女――アリシア・エルミス・フィールドと申します」


 友好の証とでも言うように笑みを綻ばせた。

 公爵家、だと…………!? どのくらい位が高いかは判らないけれど、偉そう……!


「あ、えっと――冒険者のレッド、です……」


 愛想笑いを振舞いながら気まづい雰囲気になってしまった。

 リオネルにはアカヒトと名乗り、公爵家長女にはレッドと名乗った。あまり深く訊かれると答えにくいが、もし聞かれたらファミリーネームとでも嘯くか。

 しかし、公爵家の長女が俺に何の用だ? とてもただ声を掛けただけには見えない。


「リオネル王子、リルル王女、暫くレッド様をお借りしてもよろしいでしょうか?」


 やっぱり何か声を掛けた理由があったのか。しかも、少なくともこの二人には聞かれたくないことが。


「ええ、構いませんよ。ですが、ちゃんと返してくださいね!」

「はい、勿論です」


 なんだその含みのある言い方は……。

 リルルの言葉に呆れていると、アリシアは俺の腕に一瞬だけ触れた。俺に自分を見るように視線を誘導するような接触だった。


「こちらです」

「お、あ、はい……」


 アリシアは食事会の開かれている庭から離れるように移動し始めた。

 後ろを見ると、ゼラとハクが付いて来ていた。物陰に隠れるようにしてストーキングしている。


「あなたはリオネル王子、そしてリルル王女とはどのような関係なのでしょうか」


 終始淡い笑みを浮かべていて敵意は感じられないが、何を考えているのかが読めない。


「どんな関係……?」


 そう聞かれてもな……特に例えられるような関係じゃないんだが。


「依頼人と旅人のような関係ですよ。この国へ来る過程で雇われたんです」

「それであれほど仲睦まじいとは、人柄の良さが窺えますね」


 なんだ? 俺が王子たちに接触していることに対してよく思っていないってことか? それにしてはあまり棘を感じないが……。


「こちらです」


 庭の中にあった一組のテーブルセットへと誘導された。

 薔薇模様があしらわれた白いテーブルと椅子だ。

 椅子は三つ用意されており、アリシアには座る椅子を指定されるように手で指された。

 アリシアが自分が座る椅子へと移動し始めてふと思い、急いでその椅子の下へと移動する。

 貴族的には、身分の高いもしくは女性相手には椅子を引いてあげるのがマナーではないかと考えた。


「ふふっ、感謝します」


 鼻で笑われたような気がして、少し恥ずかしくなった。

 間違っていたのか……?

 悶々と反省と自己肯定をしながら俺も自分の席につく。

 すると、予め用意していたかのようにティーセットが運ばれてきた。

 この人も公爵家の者なんだろうか、とメイド姿をしたお茶を運んでくれた女性を見る。


「この場は、殿下に頼んでお貸して頂きました。お茶の方は、わたくしが持参したものです」

「それは楽しみですね」

「……高貴な出ではないというのに、丁寧な言葉遣いがてきるのですね」


 妙な点に興味を持つんだな。そんなの人によると思うんだが。

 もしかしてこっちの民衆はあまりマナーを学ばないのか?


「昔、将来役に立つと母に教わったんです」

「よい母親なのですね、羨ましい限りです」

「アリシア様のお母様は違うんですか?」

「いえ、よい母であったと聞いております。生前はお父様のお手伝いをよくしていたのだとか。

 わたくしを産んで間もなくこの世を去り、わたくしは逢ったこともないのですが」

「失礼なことを訊いてしまいました。アリシア様も私たちと同じだとは……」

「貴方も、なのですか?」

「はい。私は妹と共に旅をしているのですが、そのキッカケとなったのは賊に両親を殺されたからなんです」


 この嘘は統一させる。王族や貴族相手に矛盾を生じさせるのは危険だ。


「それは……わたくしよりも大変な経験をなされてきたのですね」


 ムードが沈んでしまった。

 こんな話をするつもりはなかったけれど…………この人はどんなつもりで俺を呼びつけたんだ?


「話がかなり脱線してしまいましたね、申し訳ありません。本題に入りましょう」


 そう言うと、一度茶に口をつけてからアリシアは真面目な雰囲気を醸し出してきた。

 凛とした佇まいは流石ご令嬢というほどで、俺は唾を飲み込む。


「後で正式に話があると思いますが、この度の事で貴方に貴族位を与えることを検討しています」

「貴族位!? 何故ですか? 俺は、元貴族でもなんでもありませんよ!?」


 いきなりのことで驚嘆した。何故そんな話になるのか考えられなかった。


「本来なら冒険者として何かしらの成果を上げた者を、というのが通常の成り行きになります。ですが、今回は王族の危機を救った、ということですので特例条項にあたります」


 この人は、今回の件がリーテベルクが起こしたことを知っているのか……?

 でも……確かにそんなものがあってもおかしくはないのか。あらゆる面で実力のある者をそれ相応の職や地位に就かせるのが、国としてより利のあることなんだろう。


「ですが、私はまだ17です。貴族位を与えられるのには少し若くはないですか?」

「いえ、そんなことはありません。確かにその歳で貴族に栄進えいしんするのは稀有ですが、全くない例ではありませんよ。

 しかし、ただの栄進とは違ってこの度は王族が関わったもの。特例ですので、どのくらい階級が与えられるかはわたくしにも判りませんわ」


 お茶を啜る様はまさにお嬢様のそれ。

 俺のことだからあまり関心がないのかもしれないが、重要なことを話す割にはマイペースというか、もう少しこちらの気を遣って欲しいと思う。

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