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6話 薄幸を煽る妖魔の手(5)

「――やっと見つけたわよ空狐くうこ様!」

「御一人でどこかへ行ってしまっては困りますよ」


 森の中を歩いていると二人の女性が迎えてきた。まるでここで待っていたかのように佇んでいた。

 その二人に対し、満足気な顔からつまらなそうな顔へと変えていく。

 それまでの幸福がまた憂鬱な人生へと塗り替えられたかのように思えた。


「ああ! 空狐様、耳出してる!」

「空狐様、まさかその姿で人間に見られてはいないでしょうね!?」


 女性の一人が叱咤してきた。なので、へそを曲げるようにしてそっぽを向いて歩き始めた。

 一人で出歩くことが許されない。それが嫌になっている。


「はぁ……空狐様は何をお考えなのか……」

「だけど、空狐様に間違いはないんだし、このままでいいんじゃない?」

「……」


 二人は、追いかけるようにして後を付いてきた。



◇◇◇



 骨剣も慎重に縄で縛って持ち帰ることになった。

 触れると生気を奪われる上に意識を持っていかれる呪いの剣を素手で触ることはできない。それゆえの応急処置だ。

 ハンバーグたちも骨剣を持った男に心当たりはないらしく、冒険者とは違うらしい。

 おそらく賊だろうというのが納得できる仮説だった。

 皆、疲れた様子でギルドへと踵を返そうという時、騎兵隊がやってきた。

 ぞろぞろと馬に乗り、戦争でもするのか全員が鉄の甲冑に身を包んでいる。


「騎兵隊だべ! 丁度えかった。詳細話すついでにこの男運ぶの手伝ってもらうべ!」

「そうだな。仔細しさいを聞かれるだろうが、国所有の兵達だ。むしろ彼らに任せる方がいいだろう」

「貴様ら! 一体ここで何をやっている!」


 こちらに到着するや矢継ぎ早に騎兵隊を先導していた男が恫喝してきた。まるで脅すような口調に俺たちは尻込みする。

 自衛隊かなんかかよ……声がデカいっての。

 いや、自衛隊ならこんなに市民を悪者みたいに見ないか。


「隊長! あれを見てください。城から無くなったとされるジャブラザードと酷似しています!」

「なに!?」

「そうなのです、今先程……」

「貴様ら、冒険者だな。よもや盗みを働き、ましてやよからぬ事をこの森で企てていたようだな!」

「は?」


 ハンバーグもこじつけられたような騎兵隊の戯言ざれごとに疑問符を生じさせていた。

 こいつら、糞みたいな嘘をついてやがる……! 頭痛が酷い。本当に痛いやつだ……!

 嘘だと判って言っているんだ!


「やはり情報は真だったようだな!」


 待て待て……なにを勝手に話を進めてんだ!?


「お待ちください騎兵隊隊長殿! 我々は今しがたこの者に襲われ――」

「貴様ら既に民衆に危害を加えていたのか!! 許せぬ愚行……全員をひっ捕らえよ!」


 騎兵隊隊長の命令のままに兵達は動いた。馬より降りて、俺たちを拘束するつもりらしい。


「お、お待ちください! 隊長殿、話を! 我々の話をお聞きください!」

「問答無用だ!!」


 ハンバーグの叫びは騎兵隊の耳には入らず、何が起こっているのか判らないままに地面に押さえつけられる。


「お前ら! ふざけんなよ!?

 冤罪えんざいだ! 俺は判っているぞ、お前は嘘を付いている! 嘘と知ってて言っているだろうが!!」


 反抗した途端、背中に鈍器のような物で打ち付けられる衝撃があった。

 頭痛もまだ止まず、至る所に刺激があって倒れ込む。


「レッドさん! どうして……こんなの酷いじゃないですか。わたしたちは何もしていないじゃないですか!」


 手首を縄で縛られる中、アーチは騎兵隊に訴えかけようとする。だが、殺気を放つような怖い目付きで睨み返されるだけだった。


「アーチちゃん……抵抗してはダメよ……」


 ミアは、頭を地面に押さえつけられながらもアーチを諭している。

 なんでこんな事になってんだよ……!


「くっ……あの力さえあれば……」

「黙れ犯罪者が!」


 ハクも悔しげにそんなことを零していたが、騎兵隊の怒りを買うだけだった。

 こんなの間違ってる……!! お前ら、全員を――


「かハッ!」


 俺は妖力を使って全員をなぎ倒そうとした。

 しかし、騎兵隊の隊長はそれを見透かすようにみぞおちを的確に蹴ってきた。

 俺は、息のできないまま皆と一緒に連れていかれることになってしまった。

 お前等……いい加減にしやがれッ!! 嘘だって言ってんだろうが!!



◇◇◇



 お母様が病に倒れたのは――およそ三年前のこと。

 城の花壇に水をあげている時、急に倒れ込んでしまったのを私は今でも覚えている。

 首筋には針で刺されたような痕があり、何者かが命を狙った可能性があるとのことだった。

 幸せな時間がいきなり地獄に叩き落されたような、そんな感じだった。

 あの日から私の中に淀みが生まれた。私がしっかりしなければ王国は衰退していってしまう想いが日に日に強くなっていったのだ。

 その使命感から他国との交流を深める為に尽力し、また政治にも関わるようになった。

 しかし、焦りは増すばかりだった。まるで背後から誰かにずっと追われているような感覚だった。

 言い知れぬ不安が私をどんどんおかしくしていった――。



「これで……これでこの国は、私の掌の上だ!」



 私の眼下には、父のあられもない無残な姿があった。

 カーテンによって日差しを遮った玉座の間。光がなく、薄暗い中で事は起こっていた。

 王は、きわめて細く長い蜘蛛の糸に絡み取られ、人形のように力なく宙にぶら下がっている。

 私たちは、国王を排除し絶対的な権力を手に入れたのだ。


「もう誰にも邪魔はさせない! 国を治められるのは、この私だけだ!!」

「よかったなあリーテベルク」


 感動を共有すべく白く美しい女性が囁いた。

 このような場に相応しくない和やかな笑みをしているが、私にとってはそれも喜ばしいことだった。


「ああ、シモ様のお陰だ!」

「くふふ。お前が望むのであれば、わっちはそれを叶えよう。

 さあ、自分の国で今度は何をする? 元老院も貴族も、もはやお前の意のままだ」

「まずは私の戴冠式たいかんしきだ。国王に即位したことを大々的に公言し、他国にも私が王となったことを知らしめる!

 次には入国する者に対して税を課し、犯罪者の寄り付きにくい国を作ろう。

 そして、国内で腕に自信のある者を集め騎兵隊の再編成を行ったのち、冒険者ギルドを取り締まり無謀な魔物狩りをいさめよう。

 他にも公務で忙しくなるだろう。私が他国とのパイプ役となり交易を活性化させることで我が国の発展を遂げてみせる!」


 二年でこの国を唯一無二の大国にする!

 将来の予想図を基にシモ様に今後の予定を綴っていると、玉座の間の扉が開くのが判った。


「お兄様……な、なにを……」


 リオネルが扉を開けるなり、元国王の無様な光景を見て顔を驚愕の色に染めていた。

 こいつだ……こいつが、いつもいつもこの私をイラつかせる。人の気も知らず、お母様のことを今でも気遣い嘆いて煩わしい。

 治りもしないアレが治ることを信じて止まず、何の言伝も無しに先日も他国へ行って治療法の手掛かりを探しに行っていた。

 国王の兄弟にしては似つかわしくない愚弟だ。

 だからこそ、外泊しているうちに賊にでも殺させようとしたのに、邪魔が入った。私の企てを知る前にあの世へ行った方がこいつにとっては良かっただろうに。


「リオネル、何の用だ? ここは玉座の間だぞ?」

「そ、そんなことより、お父様に何をしたのですか!」


 察しはいいらしい。ふてぶてしくも私たちを睨み付けて正義の味方ぶっている。

 華奢で幼い貴様に私の考えは理解できないだろうリオネル。呪うのであれば、貴様自身の性を呪うがいい。


「シモ様、この愚弟を排除願います」

「よいのか? お前の実弟なのだろう」

「私に愚かな兄弟は必要ありません。むしろ王となった今、ただの足手纏いにしかならないことが目に見えます」

「お兄様……何を……」

「この国を治めるには、相応しい人格というものがある。貴様は、王族には相応しくないのだリオネル」


 シモ様は、足元から出す何匹もの蜘蛛をリオネルへと向かわせた。


「お兄様! お兄様!!」

「その呼び名もうんざりだ。私は王――この国の正統なる支配者なのだ……!!」


 リオネルは、蜘蛛の大群に押し流されるように扉から出て行った。

 弟の叫びが未だ遠くから聞こえてくるも、私は煩わしいくらいにしか思わない。


「酷い人」

「……私がこんなことをするのは、弟が愚かで賢くないからだ」

「わっちは好きだぞ。お前のような酷い人は」

「これからシモ様に面白いものを見せてみせよう。私のことを理解してくれるのはあなただけなのだから」

「嬉しいことを言ってくれるのだな。なら、最後まで付き合わせてもらおう。

 お前の果てを見届けるのがわっちの役目だ」


 怪しげに笑う彼女の笑みが我々の未来を明るく照らしてくれる、私はそう信じていた。

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