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6話 薄幸を煽る妖魔の手(4)

 木立が終わりそうな森の出口付近に来て、急にハクが足を止めた。

 何かあるのか、と振り返ると俺の足元付近を呆然とした表情で見ていた。

 なんだよ……アホみたいな面して。

 と思ったけれど、俺も何だか右脚あたりがそわそわしてきた。ズボンを下げられているような感覚だ。

 見てみると、薄紅色の髪が俺の脚にしがみ付いていた。


「…………?」

「?」


 ピンク頭を指差し、ハクに「なんだこれ」とジェスチャーする。しかし、ハクも顔を顰めて小首を傾げた。


「……誰?」


 恐る恐る訊ねると、やっとのこと顔が見えた。

 目じりの下がった目は眠そうに思えるが、とても可愛らしい容姿をしている。和ませてくれるような印象を受けた。

 それに加え、起こした顔によって見えた獣耳はハクやゼラと同じようだ。透明感があり、もちもちとした肌は思わず触ってしまいたくなる。

 キラキラと大きく輝く瞳は俺の顔を覗いていた。

 しかし、見つめ返してくれるだけで問には答えてくれない。暫く待っていても口を開いてくれないので、俺は再びハクと眼を合わせた。


「……子供がいたんですか?」

「……怒るぞ。ていうか、こいつも妖怪なんじゃないのか? お前等と同じく上に獣耳が生えてるぞ」

「本当ですね……。

 …………まさか九尾様と」

「いい加減にしろ」


 顔を顰めると、ピンク頭の子はゼラのように服の袖を引っ張ってきた。


「なんだ? てか、いい加減なんとか言えよな……」


 ピンク頭は、俺の言葉に耳を貸さないようにどこかを指差した。

 王国とは反対の方角だ。俺たちがさっき力試しをしていた場所の方向……。


「そっちに何かあるのか?」

「レッド様、あちらの方向に何か嫌な感じがします」

「嫌な感じ? てことは、こいつはその嫌な感じの場所に俺たちを連れて行こうとしてるってことか?」

「いえ……そこまでは判りませんが、少なくともあまり気は進みませんね」


 そんな感じには見えないが……。

 ピンク頭と眼を合わせると、石のような無表情の中で瞳だけが澄んでいた。

 俺は、他人を信じない。この小さな子もそれは例外じゃない。

 自分のこともさらけ出さないで俺に信じろと訴えているところも気に入らない。


「危険な場所ならいけない。ゼラもいないのに、そんなことに首を突っ込むことはできない。

 悪いが、行きたいなら一人で行ってくれ」

「……言い方はどうかと思いますが、わたしも賛成ですね。

 わたしたちは、準備も半端。このような状態で戦地に赴くのは肯定しかねる問題です」


 改めてゼラがいないと何もできないと思い知らされるな。

 しかし、俺たちはこれでいい。これが弱者の生きる道だ。

 ピンク頭は、悲し気な顔になってしまった。項垂れて涙を潤ませている。

 その表情は儚げで罪悪感にかられた。

 卑怯だぞ……。



 ――パパ……。



 頭の中に直接ピンク頭の声が聞こえた気がした。


「……行こう」

「え……? どうしたんですか。今断ったじゃないですか」

「わかんねえよ……。でも、こいつが悲しい顔をしているのを放っておけないんだ!」

「……先程も言いましたけど、危険かもしれないんですよ!?」

「ああ……それでもだ。付き合ってくれるかハク」

「……わたしは、貴方の従者ですから。貴方が行くところに付いて行かなくてはならないことになっています。

 しかし、勘違いしないでください。わたくしが貴方に付いて行くのは、あくまで九尾様にそうしろ、と命じられているからですから」

「なんでもいい、行くぞ!」


 自分でもなんで急に心変わりしたのか判っていない。

 けれど、ただ一つ言えるのは、なんとしてもこの子を守らなければと思ってしまったんだ。まるで自分の意志とは関係がないみたいに不思議と。



◇◇◇



 ピンク頭をおんぶしながら走った。彼女の指示通り指差す方へと駆けていくと、直ぐに目的の場所へと到着したようだった。

 途中から道から逸れて林の中へと入った。お陰で自分たちがどこにいるのか判断が難しくなっていたが、木々の開かれた先にあった。

 ――既に事は起こっていた。


「一定距離を保ちながら奴を気絶させるんだ!」

「無茶言わないで! わたしたちには、レッドみたいにできないわ!」

「んだども、あれに触れられたらおしまいだべ!」


 チームガンツが何者かと争っているようだ。殺伐とした雰囲気が声から伝わってくる。

 ハンバーグ、ミアラージュ、キン、アーチの四人共が敵一人に対して距離を取りながら警戒した構えをとっていた。

 相手は人間で男性だった。冒険者の装いだが、意識がなさそうな顔をして右手には何かの骨をあしらったような剣を持っている。

 その動きは、昨日ハクが操っていた人と同じように酔っぱらったようにフラフラとしていた。


「おい……ハク、お前……」

「わ、わたしは何もしていません……! それに妖力も感じませんよ?」


 昨日と同じ現場を見たこともあって、俺は一番にハクを疑った。しかし、彼を操るのにメリットが無さすぎる。

 だとすれば、あいつが持っている骨剣の方が怪しい。


「とにかく、アレを無力化しよう。ハクは援護してくれるか」

「承知しました!」

「お前はここで待ってろ、危ないからな」


 自然と俺の手はピンク頭を撫でていた。

 あれ……どうしてだ? 俺、こんなことする奴じゃないのに……。

 彼女を撫でた事に疑問を持ったが、ハクによって現実に引き戻される。


「何をしているのですか、行きますよ」

「……うん」


 骨剣を持った男は、アーチへ向かって移動し始めていた。それまでのフラフラとした紙のような動きから一変して鋭く距離を詰めていく。


「アーチ殿!」

「くっ……アーチ!」


 緩急をつけられた動きに皆は直ぐに対応できないようだった。

 ミアラージュは魔法を飛ばそうとしていたが――


「ダメ……アーチちゃんが近すぎる……!!」


 魔法の効果範囲に既に潜り込まれており、アーチに当たる危険性があった。


「アーチ――――!!」


 ハンバーグの叫びも届かず、もう目の前に敵が迫っているというのに、アーチは驚きと恐怖によって動けていない。

 呆然と立ち尽くし、剣先が首元へと振るわれるのを待っている。


「――《黒衣武装こくいぶそう》」


 剣が触れるかどうかの刹那、俺はアーチの体をさらった。

 軽々と片手で持ち運べられたのは右手に妖気を纏わせ、能力向上をしていたから。

 お陰でギリギリのところで間に合った。


「…………レッド、さん!」


 息を吹き返すように俺の名前を呼んだかと思えば、過呼吸のように息を早くしていく。死に際だったことをやっと意識できたみたいだ。


「レッド……助かった。だが、何故ここに?」

「話は後だ。今は目の前のことを処理しよう!」


 相手は、一度標的を見失って動きを止めていた。

 しかし、直ぐに俺を見つけるとジリジリとまた泥酔足でにじり寄ってくる。

 顔色が悪い。痩せ細ってどんどん骸骨のような面相になっている気がする。生気でも吸われているみたいだ。


「あれは呪具だろう。二週間ほど前に城の倉庫から無くなっていた物と類似した点が多い。

 その名も骨剣・ジャブラザード――触れた者の生気を奪い威力を向上させる。

 知っていると思うが、呪具を使う者は代償を必要とする。あの剣の代償は、使用者本人からも生気を奪ってしまうことだ」


 知らなかったけど、そういうことか。どっちにしろ剣なんて危ない物に触れたくはないね。


「しかし、できれば殺したくはない。見知らぬ奴だが、なぜジャブラザードを持っているのか聞きだしたい! というわけで、昨日のように気絶させることはできないだろうか」


 無茶なことを言ってくれる。

 ハクは、ゼラのようには狐火の調節ができないからあの打撃攻撃ができない。だからといってそのまま狐火を飛ばそうとすれば、そのまま燃えてしまって最悪殺しちまうだろう。


「悪い…………ここに来るまで試し撃ちし過ぎて、魔法を撃てるほどの魔力が残っていないんだ……」


 ドジっちまったみたいになったが、今思いつく嘘はこのくらいしかない。

 面倒につく嘘のせいで頭が重くなった。

 その一瞬をつくように男の足取りが軽くなり、一気に距離を詰めてきた。


「レッド!」


 警戒を促すミアラージュの声が響く。すると、急に足が竦んだ。

 あれ……?

 まるで泥沼にでも足が埋もれてしまったように動き出すことができなくなってしまう。

 なんだよ、さっきはこんなことにはならなかったのに!

 相手が持っているのは、正真正銘斬れる剣だ。木剣や劇で使うような作り物じゃないし、相手も俺たちを殺そうとして来ている。

 ゼラがいない。ゆえに、安全も保障されていない。

 度重なる不安の種がミアラージュの声によって花開いてしまった気がした。

 くそ……おい、嘘だろ? 魔法も何も使われてないのに、さっきのアーチと同じ……!!?

 骨剣が振り上げられ、俺は腰が沈みながら倒れていくのを感じる。

 斬られる……!


「――《狐火きつねび》」


 俺の頭へと刃が振り下ろされる瞬間、男の背中が蒼く光った。

 すると――巻き起こる爆風に煽られ、呪具を手放しながら俺の頭上を通って吹き飛ばされた。

 今のは……。

 光が起こった先を見ると、ハクが狐火を放ったように掌をこちらへと向けていた。

 あいつ……俺を助けたのか? そんな行儀のいいやつとは思わなかったが。


 吹き飛んだ男の方は、キンによって押さえつけられていた。抵抗する様子はなく、気絶したかのように身体はだらんとしている。


「大丈夫かレッド? すまない。お前ならばすぐに対応できるだろうと見守ったのだが、あの呪具には威圧の効果もあったのか……。

 末恐ろしい武器だ。何故あんなものが外に出ているのか、調査を依頼する必要があるな」


 今のは、そんな生易しいもんじゃなかった。

 俺自身が恐れて身動きがとれなくなってしまったんだ。俺を本気で殺しに来ていたあの目……まだ震えが止まっていない。


「まるで子猫のようでしたよ」

「ハク……」


 バカにしにきたらしい。不敵な笑みを浮かべながら言われ、ムッとする。


「貴方は強くないのですから、考え無しに走らないでください。尻を拭うのが大変だと、申したではありませんか」

「う、うるさい……行かなきゃと思っちまったんだから仕方ないだろ。

 あのままだったらアーチがやられてたし、回復担当がやられたらそれを回復させられる奴がいないだろうが」

「わたしは九尾様から貴方を任せられています。貴方の身勝手でわたしが信用を失ったらどうしてくれるんですか!」


 従者のくせに叱咤しったしてきた。

 結局自分の為なんだろうが、俺も反省した。関わるなら、最後まで自分でやるべきだった。

 能力を得ても、俺はただの日本人。戦争でさえ経験のない凡人だ。いきなり戦地に赴いて、急に戦えるようになんてなれない。

 目先の事だけを見すぎて、その後を考えていなかった。真剣相手に俺が怖がらないわけがなかったんだ。

 ゼラと一緒にいなかったことをこんなに後悔するとは思わなかった……。

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