6話 薄幸を煽る妖魔の手(1)
俺とハクは、再び国の西側に位置するギルドへと赴いた。
ハクは、耳や尻尾を隠している。
光学迷彩のような妖術だというが……まったく気にならないものの、これではただの美人だ。人間味が出るとあまり可愛く思えないのは俺のひねくれた性格からか。
服装も羽衣では目立つ為、適当な服を見繕った。ゼラのコーディネートだから動きやすい上にまあまあ悪くない見立てらしい(本人曰く)。
俺から見れば、被り物をしていない乗馬をするお嬢様って感じだが。そう思わせるのは、しっかりめの生地でできた白い長袖の上着があるからだろう。
しかし、それがより一層綺麗な白い髪を映えさせている気がする。ハクは全体的に白いから白地はどれも似合うんだろう。
別に、戦う時に役に立てばなんでもいいか。
昨日あんなことがあったのに、ギルドは特にザワザワした様子は無い。冒険者なだけあって、全体的に図太いのだろうか。
人の数も昨日と変わりないし、カウンター奥にいる数人の受付嬢も落ち着いている。
冒険者にとって、昨日の出来事は日常茶飯事と考えるみたいだな。人を操るというだけで大騒ぎするとおもってたけど。
昨日と同じように俺は掲示板の方へと足を進めた。
すると、待っていたかのようにチームガンツの面々が揃い踏みで俺たちを歓迎してくれる。
「ようレッド! 昨日ぶりだな!」
元気はあるようだな。昨日ゼラがぶっとばして少し後ろめたさがあったが、気にしない方がよさそうだ。冗談くらいでいいだろう。
「なんだ、昨日あんな目に遭ったってのに随分元気だなハンバーグ」
「そりゃあ冒険者だからな! 休業なんて以ての外だ!」
ゼラの狐火がクリーンヒットして一撃だったからな。けど、そこまで外傷はないようだ。
同じく気絶させたキンもアーチも無事なようで良かった。
「あの時はありがとだべ。でも、助けて貰ったのに敵の手に落ちて不甲斐ないべ……」
「気にすんなよ、相手も結構な手練だったからな。不意をつかれてはどうしようもなかった」
て、いうことにしておこう。実際は戦わずして勝ったのだが、逃げられたことになっているからな……。
間接的に褒められたハクは、うんうんと頷いていた。
お前、反省してんのか!? あとそのにまけた顔を晒すなよな……バレるじゃないか。
「それよかレッド。後ろに連れている姉ちゃんは誰だ? 昨日連れてた妹はいねえようだが」
ゲッとハクは虚をつかれたように緊張し始めた。よそよそしく視線を外して俺からみても怪しい。
しかし、俺の口には造作もない。
「ああ、昔世話になった――ホワイトさんだ。親がいなくなってすぐに色々と面倒を見てくれたんだよ」
安易だが、ゼラがブルーより判りやすいだろう。ハクは、冒険者としてはホワイトで通しておくか。
ただ偽名つけといて忘れるなんてことがないよう気を付けないとな。
「そういうことならば、アンタにも感謝しなくてはいけないな。レッドを救ってくれたおかげで俺たちも救われた。感謝する!」
驚くことにハンバーグは深いお辞儀までして感謝を述べた。
礼儀正しいというか、なんというか。こういう所がハンバーグのいい部分なんだろうな。
俺にはできないが尊敬する。
ハクは、愛想笑いして流した。
お前はそうやって突っ立っていろよ、多分嘘なら俺のが上手だ。
素直だから扱いやすいと思っていたが、嘘をついている時は弱点にもなり得るな。
「ホワイトさんはこっちに商人の手伝いで訪れたみたいなんだけど、出逢った時から魔法も使えてたし強いしで冒険者になったらどうかなって勧めたんだ」
「レッドさんが言うなら間違いないですね!」
「それは是非腕を見てみたいものだわ」
ハクを見るミアの目が少し怖い。
スタイルに似た部分があるからライバル視しているのだろうか。
でも、化け狐と比べちゃ自分が可哀想だぞ。見た目もハクの方が若いし……。
「ホワイトは、今日冒険者登録をして行くのか?」
冒険者登録か。そういえばそんなのがあったけな。
俺は国王のおかげでそこら辺は有耶無耶にできてたんだっけ……。流石にハクのもってのは図々しすぎるし、城へ行くのは面倒だ。
俺がやる訳じゃないから、適当に済ませるか。
「ああ。どうせ直ぐに済むと思うし、その間俺は依頼でも漁ろうかなって思っているよ」
「それなら、午後からならわたしたちと合流できるんじゃないですか? レッドさんは頼りになりますし、一緒にいてくれると心強いですけど!」
随分懐かれたみたいだな……。
アーチが期待の眼差しを向けてきてたじろいだ。
ここのギルドにはあまり若年層がいないからな。俺やアーチみたいなのは稀有なのかもしれない。
確かに結婚式とか葬式とか、同じくらいの歳の人を見つけて話すことがあったかもな。
俺は、そういうのわからんくて家族の影に隠れる派だったけども。
「レッド殿のがいれば安心安全だべ!」
「そうね……皆が病み上がりだし、少し人がいた方が安心と言えば安心かしら。レッドの実力なら昨日見せてもらったし、わたしたちのレベルにも合っていると思うわ」
また一緒に行く流れか。
まだダンジョンのことは知らないし、先導してくれるならありがたい、か……。
「どうだレッド? 今日も共に行かないか?
どっちにしろ今日はそこまで大変そうな所には行かないもりだが、ホワイトに冒険者業に触れさせる為にも俺たちと行くのは勉強になると思うぞ」
「ホワイトが冒険者登録を終えてからでいいなら、断る理由はないよ」
「やった!」
アーチは本当に喜んでくれている。跳ねてまで喜びを表現してくれるのは、こちらとしては照れてしまうところだ。
嘘吐きとバレていない間は平和だな……。
「ホワイトもいいか?」
ハンバーグの問にホワイトはコクンと頷いた。
人見知りするように俺の後ろに隠れているので恰好がつかないけれど、話を合わせてくれたのは助かる。
「感謝する! では、俺たちは一度、適当に魔物を相手にして帰ってくることにしよう!」
「もしそちらが早く終わったら待っていてください。早く戻るようにしますので!」
「へーい」
とりあえず今日の予定は埋まった感じだな。
四人は俺たちに別れを告げた後、こちらに手を振りながらギルドを出ていった。
すると、ハクが事情を説明しろ、と眼で訴えてきたのが判った。一応俺が主人だから言葉を出して頼むというのは避けているのかもしれない。
適当に合わせて貰ったしな……無理もないか。
「ハクには、ギルドじゃホワイトって名乗って貰うからな。さっきの会話でも出ていたと思うけど、俺もレッドと名乗って本名は隠している。
元は俺の名前が目立つからだったけど、今後の為にもハクも隠すことにした。あくまで一応の為だし、嫌なら別にハクって名乗って貰って構わないぞ」
ハクじゃ白山坊かどうかは判らないだろうしな。
「そういうことでしたか。それに対しての抵抗ありませんが……そのことより、冒険者登録とはどういうことですか!? 何も聞いていませんでしたけど!」
「俺も忘れてたんだ。俺とゼラはそういうのはやらなかったしな。
受付で聞いてみるか……。ハクも付いてこいよ、お前が受けるんだからな」
「人間の組織に入るということですか……。あまり気乗りしませんね」
「心細いなら手でも繋いでやろうか?」
茶化すように言うと、ハクはまた頬を膨らませていた。
どうやらやる気になったらしい。自ら受付の方へと足を進めていく。
やっぱり扱いやすくて助かるね。
冒険者登録には力試しみたいなのがあるって聞いたし、ゼラにも言われたようにちゃんと使えるのか、お前の力を見せてもらうぞハク。




