表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/125

5話 輪の仲の怪錯(2)

 光は、月光のみ。だけど、ガラス窓が多いからそれだけでも十分だった。

 皆で集まっていた時も広いと思ったけれど、二人だけだから更に広く思える城の大広間。そこに射す光は多く、むしろ趣のある光景があった。

 衝撃を吸収してくれそうな赤い花模様のマットは歩いていて心地がいい。

 月紫と七瀬さんは、月明かりの当たるソファへと二人で腰を下ろした。なので、わたしは二人に気付かれないよう出入口付近のソファの後ろに隠れる。

 ここなら小声にならない限り十分声が拾えるわ。さて、ツクシの説明で大丈夫かしら……?


「それでは聞かせて頂けますか。あの日、森の中で一体何があったのかを……」

「カヒトを追いかけていって、黒くて大きな狼をバーッて蹴飛ばしたんだけど……」

「け、蹴飛ばしたんですか!?」


 七瀬さんもわたしもその発言には驚きを隠せないようだった。

 蹴飛ばしたの!? ……流石ツクシね……怖いもの知らずだわ……。


「それですてーたすの話をしたりして。そしたら狼に囲まれちゃて……えへへ」


 凄く危険そうなことをいっているわりには気楽な笑みを浮かべている。

 いや、笑い事じゃないわよ!?


「いや、笑い事じゃないですよ!?」


 ありがとう七瀬さん。ナイスツッコミだわ!

 わたしだったら手刀までするけれど。というか説教するけれど!

 まったくあの子は……状況に対して全然危機感がないんだから……。


「それで二人で逃げてね。カヒトはすごく辛そうだったけど、あたしは全然大丈夫だったの。まるで風になったみたいだった! 陸上選手ってあんな感じなのかな?」

「そ、それは判りませんが……」


 蛇足が過ぎるわよツクシ……。

 それにしても七瀬さんて結構話せるのね。普段では気付けない部分だし、ツクシと話してくれたことに少しほっとしてるわ。


「でね! 途中で狼達が追ってこなくなって。え……なんでだろうってなったの!

 そしたら後ろからグワーッて感じの黒い変なのが出て来て、そこにギュイーンって吸い込まれちゃったんだ!」


 ツクシ……擬音でなんでも説明できると思わないで……。


「それで以前言っていた昏い場所に行ってしまったということですね」


 七瀬さんは受け入れていて、なんというか関心するわ。


「そう! で、よく判らないうちにスゥって感じで出てきた誰かに人質にされちゃってね。そこからなんか色々あってカヒトがあたしを救ってくれたの!」

「……」


 七瀬さんの表情筋が固まってしまった。

 うん、わかる。その『色々』が訊きたいんだけど……まぁ無理そうよね……。


「……色々と不明な箇所はありますが……以前の話と合わせて大体の状況は掴めたと思います。ありがとうございました」

「ううん。あたしもナナちゃんとお話できて楽しかった!」

「わたしは特に話という話をしていませんが。

 ですが、やはりこの世界がかなり危険な場所ということがはっきりしました」

「……ごめん。あたしが昼間にアレを見せびらかしたりしなかったらここを出ることは無かったのに……」


 やっぱりまだ引きずっているのね……。

 皆も言ったけれど、あなたのせいじゃないの。ただ、全員がもうこの生活に限界を感じ始めていただけなのよ……。


「いえ、わたしは特にここに留まるべきとは思っていなかったので、どうも思っていません」

「え? そうなの?」

「他の人達とは違って、舞島さんは信じているんですよね? 降魔さんが生きていると」

「……うん。信じてる」

「わたしも信じます。降魔さんがまだこの世で生きていると。

 だから、彼を残して安全地帯に身を潜めるなんてことは御免被るということです」


 嘘……まさかいたというの……?

 あの嘘つき男を信じる人がこのクラスの中に?


「では、明日から宜しくお願いします。わたし、見た目通りの弱者なので」


 そう言って七瀬さんは闇夜の中に姿を消していった。残すことがないように姿勢正しく。

 意外だったわね……あんな嘘つきでも信じてくれる人がいるなんて。

 でも……ツクシを助けてくれたし、案外優しい男子だったのかもしれないわね。

 ――だからといって過去が消えるわけじゃないけれど。



◇◇◇



 ゼラが帰ってこない間、適当に時間を潰そうと白山坊とトランプをした。

 一対一でできる有名どころでスピードをした。黒と赤に山札を分け、場の札二枚と手札四枚を使ってより早く自分の山札及び手札を失くした方が勝つゲーム。

 白山坊はおもしろいくらいにてんぱって俺の一方的な勝利。俺は笑いが止まらず、白山坊は「ぐぬぬ……」と悔しそうな声を漏らした。


「弱いな〰〰白山坊。全然相手にならないぞ?」

「ぐぬぬ……あなたが考えたゲームなのですから最初はこうなって仕方が無いだけです! 次はわたしが勝ちます!」

「じゃあ何か賭けようぜ? このままの勝負じゃお前も燃えないだろ」

「賭け、ですか。あんな野蛮なことをわたしにしろと?」


 どうやら賭け事には否定的なようだ。だが、もう俺はこいつの性格を熟知している。


「へ~? そんなこと言って逃げるのか。さっきの威勢はただの強がりだったわけだ?」

「ふ、ふふ……そ、そんな口車にわたしが……」


 挑発するようにまくしたてるが、多少効いているらしい。顔が引きつっているし、あと一押しというところか。


「もしお前が勝ったら、俺の権限でお前の力を返してやってもいいぞ?」

「乗りました! 漢に二言は許しませんよ!?」

「白山坊こそこれが賭けということを忘れるな? 俺が勝ったら、今日の荷物持ちは全面的にお前だ!!」

「い、いいでしょう……! いざ勝負!!」


 ふっ、掛かったな……。



 勝負が終わると、十枚差で俺の勝ちになった。

 白山坊は燃え尽きて灰になっているようだった。自分が敗北したことが信じられないように目を見開いてトランプをガン見している。

 俺も意地悪が過ぎたな。初心者が勝てるわけがなかった……。

 ――しかし、俺はそれでも容赦しない!


「これで今日お前は荷物持ちだ! ハハハハハ!!」

「ぐぅ……なにゆえわたしはこの者の安い挑発に乗ってしまったのですか……!!」


 すごい後悔しているな。罪を償うとでも思って精一杯働け化け狐。


「アカヒト様……」

「ん?」


 白山坊が瞳を潤ませて上目遣いで見てきた。

 負けたままでは終われないということなんだろう。せめて俺から力を取り戻そうという腹積もりか。

 確かに元が綺麗だから可愛いかどうかと訊かれると答えづらいが、そのくらいの誘惑で落ちるほど安くはない!


「ふん、そんなことをしても無駄だ! 返してほしかったら俺にトランプで勝つんだな白山坊!」

「むぅ……ケチですね」


 白山坊も俺のことが判ってきたみたいだな。早々に諦めて唇を尖らせている。

 ざまあ……!


「仕方ありません。でしたら、わたしの名前だけでも改めてはくれませんか?

 白山坊というのは妖怪名義ですし、普段呼ばれるのは違う方が色々とやりやすいでしょう」

「ん? ああ……確かに毎回白山坊とか呼ぶのは人の名前フルネームで呼ぶみたいで面倒だとは思ってたな。割とゴロが良かったから呼んでたけど……。

 じゃあお前は今からハクだな。おとら狐がオットーだったし、そんな感じでいいだろ」

「て、適当……」


 嫌そうに眉を顰めた。

 しかし俺にネーミングセンスはないし、別に悪いって感じじゃないからいいだろう。


「なんだ文句あるのか? 結構かっこいいじゃないかハクって。呼んでてちょっと羨ましく思ってたのに」

「本当ですか!? そ、それなら……その名前で結構です! かっこいいのであれば、他に言う事はありません!」


 こいつチョロいな……。

 ハクは照れて頬を薄紅色にしている。化け狐にしては素直で判りやすい奴だ。


「まっ、俺が主人なんだからお前に拒絶する権利はないんだけどな」

「…………あなたはいちいち余計な一言を挟んできますね!」

「これも全部お前を真当な道へ戻す為なんだよ。わかってくれ……」

「あ……そうだったんですね。言葉の意図を読み取れず、申し訳ございません」

「ハク……お前もっと人を疑ってかかった方がいいぞ……」


 あまりにも適当な嘘で頭痛を引き起こしてしまったことに後悔するも、素直に受け入れるハクには呆れてしまった。

 そんな時、部屋の扉が開いた。


「帰ったのじゃ愚民共!」


 ゼラが豪快に扉を開けて入ってきた。


「おう、大丈夫だったのか?」

「ん? 勿論じゃ! 儂に限って何かあるわけがなかろう!」


 妙に上機嫌だな。ない胸を張って腕組みまでしているところ相当だ。

 どうやら目的の情報は得られたみたいだな。


「んで、今日は予定通りにまたギルドへ行っていいのか? それとも、何か情報を貰ったのならそれを優先するか?」

「そうじゃなあ…………うむ、白山坊と共に冒険者として依頼を受けてくるのじゃ。儂は別の用事を済ませて来る!」

「え、ゼラ一人でか? 大丈夫なのか?」


 あんまり歳のいかない女の子を一人で外に出すのは気が引けるんだけどな。親がいないのかとか思われたりしないだろうか。


「儂とてやることが多い身じゃ。お主らは儂に気にせず金稼ぎに精を出せばよい!

 白山坊は、こう見えて妖力は強い妖怪じゃ。狐火も使えるゆえ、基本的には戦闘も難しくないはずじゃぞ」

「はい! お任せください!」


 なんだこいつ……ゼラにはいい顔見せるのか?

 やる気のあるようにハキハキと応える様を見て、俺は眉を顰める。


「新しい白山坊コマをどう使うか、お主なりに考えて立ち回るのじゃ。それが今後役に立つことになるじゃろう」

「なんか意味深に言うよな……。まっ、別に……死なない程度に、適当に働いてくるさ」

「ククク……それでよい。お主はそのくらいで丁度よいのじゃ!」


 ふっ……なんだろうな。こいつの言葉ならすんなり入ってくる気がする。


「九尾様……」

「なんじゃ白山坊?」

「わたし、今日から白山坊から名を改めましてハクということになりました。以後、宜しくお願い致します」

「ん? そうか。飼い主に付けてもらったか!」


 へ~ん……。今、俺のことを飼い主って言ったか? ならハクは犬か猫かよ。


「お主もまだ妖怪になりたてじゃ。儂の下僕の下で経験を積むがよい!」

「嗚呼……九尾様のお言葉、心に染みます」


 ハクの奴……俺と全然態度違うじゃねえか。ホントに俺の従者なのか?


「では、夜にまたここで合流しよう!

 ハクよ、くれぐれも儂の下僕が傷付かぬように目を見張っておくのじゃぞ!」

「――はい!」


 元気がいいねえ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ