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5話 輪の仲の怪錯(1)

 とても懐かしいような不思議な気持ちになる片田舎の風景が目の前に広がっていた。

 しかし、矛盾するんだけれど――見覚えはまったくない。

 出身は、まあ山の中ではあるが、ここまで田んぼや畦道が続いているようなド田舎という訳ではない。

 祖父祖母の家は田舎だけど、それとはまた感じが違う。どこか昔に戻ったような、そんな気にさせられるのは気のせいだろうか。


「――・――・――」


 誰かに何かを言われたような気がして隣を見た。

 そこには麦わら帽子で顔が見えない少女がいた。服装は、夏祭りに行くのか半袖の浴衣のようだ。

 でも、この子だけは妙に見覚えがある。いや、つい最近まで見ていたような……。

 麦わら帽子で彼女の顔が見えたわけじゃない。なのに、何故か少女が笑った気がした。

 知ってるんだ……俺、見覚えがないのに、知っている……。



「――キミは、誰?」



 目が覚めた。俺は、寝言を言っていたらしい。


「お目覚めですか?」


 俺が寝ていたベッドに腰掛けしている白山坊が目覚めにしてはいい笑顔で出迎えてきた。

 後光が射していて、白い髪が輝いているように見える。


「なんだお前、まだいたのか」

「酷い言いようですね。わたしの妖力を貰っておいて、少しは感謝して欲しいくらいなのですが」


 へそを曲げてしまったらしい。頬を膨らませてタコみたいになっている。


「……ところでお前、ちゃんと着替えたんだろうな? まだ今日もここで寝るんだけど?」

「な……!!? あなたという人は……そういう人だったんですね! 失望しました!

 ちゃんと着替えているに決まっているじゃないですか! これでも白山坊。着替えなど朝飯前ですっ!

 それより、昨日の醜態はその頭から消してくれますか!」


 妖怪は皆自慢したがるのか……?

 得意気に胸を張る様はゼラとそう変わらなかった。


「ゼラは?」

「ゼラ? 九尾様のことですか?

 おとら狐さんと逢ってくると言っていましたが」


 あいつ、俺に白山坊残して昨日の報酬受け取りに行きやがったのか……。


「で、なんでお前はまだここにいるんだ? もう用はないはずだけど」

「九尾様に窺ったのですが、あなたから霊力を頂くことができればまた妖術がちゃんと機能することができるそうですので、暫く行動を共にすることにしました」

「…………は?」


 何を考えているんだこいつは!?


「……ゼラは? あいつは許したのか?」

「……条件付きで…………」

「なんだそれ?」

「あなたの従者になるのなら、ということでした」


 小恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 ゼラも何を考えているんだ? なんだこんな危なっかしい奴を俺の従者とか……。


「で、お前はそれに同意したってことか?」

「……はい」

「そんなにあの力を使いたいのか? お前の妖力なら別にあれがなくても困らないと思うが。

 もしかして、まだお前――」

「もう人間を操って殺しをすることはしませんよ。元々は、妖怪になった時の記憶もなく、あんな事をしようともしていませんでしたから……」


 物憂げに言い零す表情から、過去を悔いている気持ちを感じた。

 確かに昨日初めて逢った時と少し様子が違う。最初は、冷静だけどそれだけで強者というか冷たい怖さを感じた。

 だけど、今はまったく違う。おしとやかな普通の女性みたいだ。


「お前、昨日も思い出したって言ってたけど、それって何が発端だったんだ?」

「――え? …………判りません……急に……」


 白山坊は、思い出すようにして答えた。

 なんだその適当な感じは……。

 やっぱあまり信じられないな。こんなに突発性な衝動、何を起こされるかわかったもんじゃない。


「本当に俺たちに付いて来るつもりなら、今後一切殺しなんてさせないからそう思え!」

「……随分と上から目線ですね。あなたなんかの下に就くのは本意ではありませんが、九尾様の下にいるのは光栄過ぎることですので、利用させて頂きます!」

「お前……俺の従者になるつもり、ないだろ……」

「……」


 喧嘩腰かと思いきや明後日の方を向いて図星のようだ。

 否定の言葉は出てこなかった。


「別に構わないけど、あまり面倒事を起こすなよ……」

「勿論です。わたくしが問題を持ってくることなど、ありはしません!」


 どうだかな……お前事態が問題かもしれないぞ。



◇◇◇



 降魔ごうまくんが死――…………いなくなってから、早三日が経った。

 ツクシは、からげんきを出していて少し見ているのが辛い。

 苦しい環境に来てしまって落ち込んでいる人達を元気づけようとしてくれているんだけど、夜に一人で泣いていた時もあった。

 二日目に森の散策をした。男子を中心とした少人数のグループを編成し、降魔赤人くんを探すのも含めて帰り道を探しに出た。

 ツクシも彼を探す為に同行したけれど、行けども行けども木立しか見られなかったらしい。

 だから、わたし達はこの城に留まることを余儀なくされてしまった。おかげでクラスの意見が二分することに……。

 先生達大人が迎えに来るまでこの城で待つ意見。城を出て、周辺の地形を確認しながら出口を探す意見。

 女子は主に前者。男子は主に後者という別れ方をした。けれど、初日の出来事が影響してやや前者の方の意見に賛成が傾きつつある。


 わたし達が来てしまったこの城は、リーフレット城というらしい。内装は、本物の城のようで空の甲冑だったり、物々しい武器なんかもあった。

 倉庫のような場所を調べると、レストランとかで使われているくらいの大きさがある冷凍庫があった。

 コンセントがないから電気で動いているわけじゃないらしいけれど、とりあえず冷凍庫として機能しているので使わせてもらうことに。おかげで食糧問題は解決。

 寝泊まりも部屋が多いおかげでなんとかなっている。

 ただ、気掛かりなのは全員の精神状態だ。もう三日もここに滞在してしまっているから、限界を迎えている者も少なくない。

 そろそろ男子側の意見を尊重する女子が出てきてもおかしくないかもしれない。


 ――そんな折、発見があった。


「わあ……」

「ね? すごいでしょ?」


 フロアで何人かが集まっているのを見かけた。珍しく和気あいあいとしているようで、皆の注目が集まっていく。

 唖然する男子達の中心に自慢するようにしているツクシがいた。

 ただの話題のネタとでも思っていたんでしょう。だけど、これがわたし達の道を大きく変えることになる。


 ツクシが見せたのは、ステータスと呼ばれる謎のディスプレイ。本人が言うには、降魔赤人くんに教わったらしい。

 彼の置き土産は、男子達に希望と共に無謀の賭けを止める者達への抑止力を手にするきっかけとなってしまった。


「待てよ……俺達って本当は強いのか?」

「そういえば、最近体が軽いような気がしてたけど……それってこれのおかげなのか?」


 わたしの嫌な予感は、直ぐに一人の男子が現実とした。


「これなら怖いもんなんてないな! 森だろうが、どこだろうが、死ぬことなんてねえ!

 この前の狼が出てきてもぶっ飛ばせばいい! 俺達は、初めからこんな所でくすぶっている必要なんてなかったんだよ!!」


 基山一きやまはじめくん。こちらに来てから横暴な態度がどんどん増してきたとは思っていたけれど、彼に逆らえる者はそう多くない。


「待ってよ! そんなものが出てきたってことは、ここがウチ等がいた世界とは別の世界ってことが本当だってことなんだよ!?」

「だからなんだってんだよ!? 別の世界だったら、死ぬのを待つってのか!?

 ここが異世界ってことが本当なら、もう他人の助けが絶望的ってことだろうが! だからこそ、自分達で生きていく道を探さなくちゃいけねえんだよ!!」


 今までは正論が強かった為に身を潜めていたのだ。だから、それを止めることはわたし達にはできなかった。

 別世界という事実が皆の思考にもやをかけ、強い言葉に流されてしまった。次の日、旅の準備を整えた上で全員で城を出ていくことになったのだ。

 男子達は、早速と言わんばかりに魔法やスキルを試してみようと外へ出た。


「皆、ごめん……」


 ツクシは、自分がキッカケを作ってしまったことを申し訳なさそうに謝った。


「ううん……きっといずれ気付いたことよ。ツクシが謝ることじゃないわ。

 それに、たぶんわたしたちには必要な力なのよ。ここに留まることが正解だなんて、わたしたちには判らないもの」

「ウチもいずれこうなると思ってたから……仕方ないよ。男子はバカだからさ」


 さっき基山くんを止めようとしてくれた梶谷来流かじやくるさん。

 金髪に染めているし、制服の着方はだらしないし、言葉遣いが好きになれないからあまりいい印象は持っていなかったけれど、最近は女子達を鼓舞してくれたりと面倒見のいい面を持っていることが判った。

 暫く女子の主張が強くできていたのは、彼女の貢献による部分が大きい。

 でも、もうそれも終わったこと。この先、わたしたちはどうなるのかしら……。



◇◇◇



 その日の夜――。



 城の廊下で誰かとツクシが話している声が聞こえて足を止めた。

 和やかじゃない雰囲気な気がして出ていくことはしなかった。

 わたしが盗み聞きなんて……前はこんなことしなかったのに……。だけど、今は少しでも皆のことを知っておきたい。

 修学旅行実行委員としても、クラス副委員長としても、わたしがすべきことをしないと。

 窓から月光が射していて、相手が誰なのかが判った。

 腰まで伸びた長い黒髪で蝶の髪留めをしたのが印象的の七瀬月ななせるなさん。

 寡黙な子だけど、多数決の時には確か手を挙げてくれていた。

 森を探索するという時、最初は否定な意見に賛成みたいだったけれど、降魔くんを探すというのが目的に追加された後は探索に賛成していた。

 あまり人と話す感じじゃないはずだけど、ツクシは話しやすい子だし何か困ったことでもあるのかしら……。


舞島まいじまさん……」

「ん? どうしたのルナちゃん」

降魔ごうまさんがどういった経緯で姿を消したのか、もう一度話してくれませんか」


 彼の話? でも、あの事ならツクシが目覚めた時にしたはず。あそこには七瀬さんもいたからちゃんと話は聞いていたはずだけど。


「昼間、すてーたすの事について降魔さんから教わったと言っていました。それほどの時間があなたと降魔さんにはあったということですよね?」


 あ……確かに。

 ツクシは説明下手だったし、結構大まかな内容だったからそんなに細かい話はしていなかったわね。

 だけど、ツクシも話をしている時は落ち込んでいた様子だったし、あまり思い出したくないことなんじゃないかしら。


「うん……あったよ」


 ツクシは……寂しそうね。

 思い出したくはないけど、無理をして笑顔を振舞っている奥底で惜しんでいるように見える。

 わたしは、あまりあの男が好かなかったけれど、ツクシにとっては腐れ縁だったみたいだから……。


「座って話しませんか? 今の時間なら下の広間が空いているはずですから」

「いいよ」


 二人は、無言のまま階段の方へと足を進めていった。

 わたしも付いて行こう。七瀬さんがどう動くのか知っておきたい。

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