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4話 妖怪の激しい譫妄(5)

 結局、一時間半かけて七並べからババ抜きとジジ抜きまでやった。

 三人になったおかげでゲームはそれなりに形になり、またテンポの良さがはまりにはまった。

 オットーは、最初の不気味さを消し去るように馴染み一喜一憂を共にした。

 性格が悪いというからズルでもしてくるのかと思ったが、彼が纏う妖気以外はただのゲームを楽しむ青年だ。


「いや~楽しかった!」

「儂もじゃ! これほど楽しいことを知っている我が下僕を褒め称えなくてはいかんのう!」


 喜んでくれたなら、まあいいや……。

 それにしてもパーティの連中は遅いな。結構長いこと遊んでしまった。


「そういえば、キミの名前を聞いていなかったね」

「ああ……」

「こやつはレッド。儂を封印から解いた人間じゃ」

「へえ……あの【無之間むのま】に行けたなんてね。ありえない事だけど……キミにしかできなかったことだ」


 ゼラも完全には信じきっていないのか。俺の名前を偽っているのは、そういうことなのかもしれない。

 無之間…………ゼラと初めて逢った場所のことか。


「なんか勝手に行っちまっただけさ」

「オットー……じゃったな。聞くがお主、まさか人間に取り憑いてよからぬ事をしておらんだろうな?」

「取り憑く!?」


 ゼラが『おとら狐』って言っていた……。つまり、こいつは妖怪。今回の騒動の元凶かもしれないってことか!?


「していたら、どうするつもりだい?」

「…………どうもせんわ。ただし、儂と儂の下僕に危害が及ばなければの話じゃが」


 泰然としたゼラの言葉にオットーはほくそ笑んだ。


「安心していいよ。僕は、今回の件の犯人じゃあない。

 僕は、この件を調査しにきたのさ。妖怪としてね」

「妖怪として調査ぁ〰〰?」


 ゼラは、表情を崩して驚嘆する。

 ゼラにとってオットーの言い放ったことはそれほどに驚くべきことなんだろうか……。


「あまり大きな声で話さないでほしいね……」

「ほう……? 大きくなったものだな、おとら狐よ。

 拾ってあげた時のあの弱弱しかった奴から出る言葉とは思えんな」


 へえ……? ゼラにもそんな善人じみた時があったのか。


「あれから幾年経ったと思っているのか……。

 しかし、これは事実だよ。僕は、妖怪がこちらの世界で悪行を働いているという事件を聞きつけては調査し、時には妖怪退治に力を貸しているんだ」

「妖怪退治? 他にも仲間が残っておるのか?」

「妖怪のほとんどはもうこちらの世界に入って来ていてね。今では仕事の無い日の方が少ないくらいだよ、はは……」

「――【狐都きつねみやこ】は……残っておるか?」


 真剣な顔になり、恐る恐る訊ねるゼラ。

 すると、オットーは懐かしむような表情で答えた。


「いや……狐都は五百年以上前に滅んだよ。

 懐かしいね、あの頃は楽しかった……」

「……そうか……」


 残念そうに項垂れる様は可哀想に思えた。

 俺には想像もできないほどの歳月が経っていて、戻ったら誰もいない。浦島太郎のような出来事が妖怪にとっては鬼気として訪れる。

 もしかしたら……もし俺が元の世界に戻ることができた時、俺の知っている人はいないかもしれない。


「――そう残念な顔をする必要はないよ。

 狐都は滅んでしまったけれど、新しく狐村きつねむらというのができたんだ。あの頃のメンバーが再結成してね。

 でも、再結成が成されたのはここ百年の話でそこまで多くの妖怪は集まっていないらしい。まだまだ発展途上ってところだね」

「それは真か!?」

「皆、九尾の帰還を聞いたら飛んで喜ぶよ。なんせ彼等は、あなたを心の底から慕う者達だからね」


 ゼラの表情が明るくなった。諦めかけていた望が繋がってパァッと花開いていった。


「よかったなゼラ」

「うむ! お主も喜べ! 儂の仲間にあわせてやるからのう!」


 本当に嬉しそうだ。俺の服の袖をブンブンと引っ張り、椅子の上で弾んでいる。


「これで俺たちのこれからの進むべき道が決まったな」

「オットー! して、その狐村というのはどこにあるのじゃ?」


 そう訊ねるゼラにオットーはにんまりと何か意図のあるような顔をした。

 ゼラは眉を顰める。その顔には見覚えがあるようで、溜息を付いた


「なんじゃ? どうせろくでもないことを頼もうと言うんじゃろう」

「正解! 今回の一件、キミたちにも手伝ってほしいんだ!」

「どうせそんなことじゃろうと思ったわ。

 仕方がないのう……。しかし、後始末は全てお主に投げるから覚悟しておけよ」

「勿論さ!」


 あまりにも自信満々に答えるところが怪しいが、これは俺も手伝わなければいけないってことだよな……?



 暫くしてハンバーグたちが戻ってきた。

 憂鬱な顔をしているかと思えば、こちらの人数が増えていることに疑問符を生じさせる。


「レッド、誰だそいつは? 見ない顔だが……」

「初めまして、チームガンツの皆さん。僕はオットー、この度依頼を出させて頂いた者です」

「お、おお! ギルド長が言っていた御仁だったか!」


 どうやら既に話は通っているらしい。


「こやつ……儂らはオマケか」


 ゼラは、へそを曲げて冷たい視線を向けていた。


「やだなぁ……そんなことないよ。九尾がいるだけでかなりの戦力アップを見込めるというだけで……」


 苦笑いで誤魔化そうとしているが、さてはゼラに断られてもいいように事前に先回りしていたな。

 しかし、それだけこの件にゼラを巻き込みたいみたいだ。


「依頼主のオットーさんは、レッドさんのお知り合いなんですか?」


 小首を傾げながらアーチが訪ねてきた。

 俺たちが会話しているように見えたのだから仕方がない。だが、俺も今知り合ったばかりだ。


「昔、世話になってね。少し話していたんだ。

 まさかこれから皆と仕事をするとは思っていなかったよ」

「そうなんですね……。

 でも良かったです! 今回の件は色々と謎なことが多くて、それで急に依頼人が現れたって言うからどんな人なのか心配だったんですけど。レッドさんのお友達なら気にする必要ないですよね!」


 いや、友達では絶対ない。

 頭痛をもよおしながらも純粋な彼女を労わって愛想笑いした。

 オットーは、俺からすると面倒なんだ。

 俺には、自分の嘘が通用するかどうかなんとなく判る。こいつには通用しそうにない。


「レッド、これからさっき遭った事件現場に向かう。何かあるかもしれんが、付いてくるか?」


 ハンバーグが気難しそうに問いかけてくるので、俺は当然のように「行く」と答えた。

 オットーからの交換条件にサインした以上、俺が断ることはない。


「じゃあわたしから中であったことをまとめて説明しますね」

「そうだな。時間が惜しいということだから歩きながら話せ。

 ミアラージュは、衛兵隊と合流してから付いてくるようにな」

「わかってるわ。皆、くれぐれも気をつけなさい」

「はーい」


 激励に答えたのは、冗談紛いに手を挙げたオットーだった。


「オットー殿も付いてくるだべか!?」

「うん。これでも冒険者をやっていた時期があるから、自分の身は自分で守れるよ」

「……まあいいだろう。俺たちからあまり離れないようにしてくれよ」


 オットーは、楽しそうにうんうんと頷いた。

 この人の行動は読めない。一応ゼラの知り合いなんだろうけど、警戒しておいて損はないだろう。



◇◇◇



 道中アーチからギルドであったことの説明を受けた。

 目を覚まさせたゴイスの方はギルド長と副長、そしてハンバーグが。ラッセルの方はギルドの補佐官と共に皆で事情聴取のようなことをやったらしい。

 ゴイスには事件の記憶がなく、ギルドで受けた魔物討伐の依頼の最中に急に眠気がきたことしか覚えていなかったそうだ。

 ラッセルはというと、いつの間にかパーティの何気ない会話に参加しなくなったゴイスに疑問を持った頃、いきなり仲間が剣で切りつけられたと言っていたらしい。

 二人が倒れて動けなくなったのを見て、直ぐに逃げ出したようだ。

 他にもそれらを踏まえての会議があったんだとか。とはいえ、こうして現場に向かう上での編成だったり、対応だったり。

 そのひとつが国の衛兵を連れてくることらしく、ミアはそちらに回されたというわけだ。


 現場に到着すると、目も当てられない惨状になっていた。

 斬られた腕が転がって、何度も刺したあとの残る二つの遺体。地面が血に染まっていて、俺は吐きそうになった。

 ひどいな……。


「なんだべ……これ……」

「これを全部、ゴイスがやったというのか!?」


 騒然そうぜんとしながらも、遺体の様子を確認しに行くハンバーグとキン。

 その中でもアーチはまだ慣れていないようで、口を押さえながら立ち尽くしている。


「オットーよ……」

「ええ……ここがより一層、妖気の残痕が強い」

「やはり、絡新婦とは別口じゃな。この妖気はもっと刺々しい」


 絡新婦とは違う妖怪の仕業……。

 人間を使って人間を殺そうとしているんだ。そうとうタチの悪い相手だな。


「レッドくん、だったよね?」

「え、ああ……」


 急にオットーに呼び掛けられるので警戒するように返事をした。

 なんだ、俺になんか話しかけて……。悪いが、俺は役に立てない代表だぞ。


「キミはこれをどう見ているんだい?

 犯人が妖怪アレだとして、目的や何を意図しての行動なのか……キミなりの意見が聞きたいな」


 俺を試そうというのかこの狐野郎は!? この使えない代表の俺を?


「どうなんだい?」


 俺の動揺を見透かすように催促してくる。

 今やっと判った。こいつ……本当に苦手だ……。


「……狙いがなんなのかはお前等の方が判ってんだろ。人間側こっちからしたら理解のできない趣向だ。

 ただ……人間を操って同じ人間を殺すというやり方は、人間を弄んでいるように思える。そうすることで、自分の欲求不満を解消しているみたいな……」


 考えながら吐き出した答えが笑われた。その含み笑いするオットーの顔に俺はイラついた。

 なんだよ……お前が言えって言ったんだろ!?


「ごめんごめん……あまりにも真面目に答えてくれるものだからついね。

 しかし、キミのような知己ちきが彼女にできたことはこれから先、あらゆる面で有意義なことになるだろう」

「あまり褒められているようには思えないんだけどな」

「酷いなぁ。これでも僕は褒める時は素直に褒めるんだよ?」


 あ~はいはい、嘘ね。こんなチンケな嘘にまで俺の頭は反応するんだよ。


「それで、そっちはどうなんだよ? もう居場所の目ぼしくらいはついたんじゃないのか? お前らは、鼻がいいんだろ」


 絡新婦を見つけた時、ゼラは結構離れていても相手の居場所を特定できていた。どれくらいの距離までが許容範囲かは判らないが、狐の鼻は存外悪くない。


「うむ、この先にいるな」

「こちらを警戒して木陰に身を潜めているようだ。いや……狙っているらしい」


 二人の警戒が上乗せされ、不安に掻き立てられた。

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