4話 妖怪の激しい譫妄(4)
「そういえば、レッドさんあんなにすごい魔法が使えたんですね。あれなら近くでも遠くで攻撃できるじゃないですか!」
アーチが思い出すように話題を出してきた。
さっきの驚き様を見ると、あの大きさの炎はすごいらしい。
「でも、変な魔法だったわよね。蒼い色の炎だし、そもそも火属性系統じゃなかったのかしら? 燃えなかったし……」
「……えーと……あまり教えたくないんだ。ただ一つだけ言うと、通常の火属性系統魔法じゃないのだけは確かだよ」
あまり知らない概念で嘘をつくとバレるのが早くなる。それはこれまでの人生で培った。
「気になるけれど、詳細を秘密にしようとするのはわかるわ。あまり広まっていない技術を見せびらかすと、真似しようとする人が出てきて嫌だものね」
「あまりできている人はいないですが、七賢人の【青巒】がやっていたことから近接戦闘を織り込んだ回復役が五年前くらいに流行りましたよね」
「あれね~。回復担当ってどうしても耐久力がないから難しいんだけど、できたら回復役を守らなくて済むからパーティとしては楽なのよね。
あ、でもアーチちゃんを守るのが面倒とか思っている訳じゃないから安心してね」
「大丈夫ですよ。そこはわたしも課題として受け止めているので!」
話の流れ的に出た言葉がアーチを傷付ける結果になってしまったようだ。
話題を振ったのはアーチだし、アーチ自身も気にしている感じはない。むしろ気にさせてしまって申し訳なさそうだ。
回復役が攻撃ね…………ゲームだと確かに回復も攻撃もできるキャラって多いよな。
「なんで回復役は耐久力がないんだ?」
「なんでと訊かれましても……そういうものだとしか……」
随分いい加減だな。魔法が発達している世界だから、物理的な考えとか科学的な根拠を求めることはしないということか。
「回復魔法を使える人って本当に少ないのよ。だから誰でも回復魔法が使えるわけじゃないから、パーティに一人もいないというのは普通なんだけど。
人族の造り上、何かの能力が高いと別の能力が低いっていうのがよくある話じゃない。わたしみたいに魔法はできてもガンツみたいな近接戦は苦手だし、なんでもできる人はいないわ。
それと同じように回復魔法を使える人は回復魔法が使える分、防御力や攻撃力が弱いというのが特徴なのよ。それでわたしたち攻撃や防御担当は少なくとも一人は回復役をしてくれるアーチちゃんみたいな子を守るの。
回復があるからこそ、わたしたちは臆せずに戦うことができるんだからね」
こっちの世界も役割については同じってことか。
勉強ができる奴もいれば、スポーツができる奴がいる。偶にどちらもできるエリートみたいな奴もいるけど、それは一握りでほとんどが人それぞれの長所を伸ばそうと躍起になっているんだ。
俺の長所は、諸刃の剣であるが――嘘、というわけだな。
だけど、それだけじゃあ直ぐに死んでしまうからゼラのように俺を守ってくれる奴が必要。要はそういうことなんだろう。
「ミアラージュ……さん、の話は為になりますね」
「ミアでいいわよ」
「え?」
いいのか? さっきはかなり凶暴になったのに……。
「冒険者はね、互いに使えると判っているからパーティを組んで協力するの。それは対等の関係。だからどちらかが下手になって謙るなんてことはしない。
そんなことをしていたら、舐められるわよ?」
ああ……そういうことだったのか。
だからギルドで話していた男は、俺が話した時に驚いていたんだな。てか、それで俺が初心者ってのが判ったのか。
どうりで……。
「じゃあミア。ギルドに戻るってことは、今日はもうダンジョンには行かない感じになるのか?」
「そうね。こんなことは初めてだし、長くなるかもしれないわ。
ガンツはギルド長と話すと思うし、もしかしたらこの森の中の調査を依頼されるかも……」
「このパーティはギルド内でもトップクラスと評判ですからね。危険な依頼であれば、依頼されるのは当然かもしれません」
そんなに凄いのか。
いや、確かに魔物と戦っていた時は余裕があったし、戦闘経験は長そうだ。
だけど、アーチだって学生でいつもいる訳じゃないんだろうし……たった四人のパーティでトップクラスっていうのはどうなんだ?
「あなたも今日は手伝ってくれるんでしょう? だったら、また来ることになるかもしれないわ。危険だし、妹さんはギルドで待たせてたら?」
「あそこは風紀的に信用ならないからな。さっきのジジイのこともあるし、それにブルーは弱くないから心配いらないよ」
ミアが「この子が?」とゼラを見た。
傍から見ても幼い少女だから疑問に思って当然だが、事実なのだから仕方が無い。むしろ助けてもらっているのはいつも俺の方だからな。
◇◇◇
ハンバーグたちがギルド長と話すということで、俺とゼラはギルドのパーティテーブルに残った。
昼近くということもあってか、ギルドは疎らな出入りだった。
ゼラはというと、暇だし油揚げがないしでやる気ゼロ。テーブルに顎つけて全身の力が抜け落ちた抜け殻のようになっている。
「暇じゃあ~」
「俺は安全に帰れてほっとしているんだけど」
「そうそう危険なことなどないじゃろう。儂がいるんじゃからな~」
ホント、えらい自信だよな……。
「まあそうだけど…………殺伐としてんのは、やっぱ嫌いだよ。怖いし」
「それが魔物相手にごっついパンチぶちかました奴のセリフかのう……」
普通に呆れられた。少しフォロー的な何かを期待した俺が馬鹿だったな。
「せめて紙とペンでもあれば、トランプでも作れるのにな……」
「トランプ?」
興味を惹いたらしく、ゼラの視線が俺へと向いた。
「トランプとな? なんじゃその意味ありげなものは!?」
まるで油揚げを前にしてる時と一緒だな。そういやこいつ、退屈で妖術を鍛え上げたって言っていたし、娯楽に飢えているのかもな。
「つっても、そんな大したものじゃないぞ?」
そう言って、俺はトランプのルールを説明してあげた。
説明をしている間にゼラの表情は生気を取り戻したかのように生き生きと目を輝かせ、途中で聞くのをやめにしてしまうほどだった。
「もうやるのじゃトランプ! 紙とペンだったか? そのくらい儂が創ってやるわ!」
「お前なあ……ちゃんとルール聞けよな!」
「当たり前じゃ! 娯楽にルールはあって当然のもの!
しかし、儂は覚えるのが苦手なのじゃ。やりながら説明せい!」
猫に小判と思っていたが、これは意外だったな……。
仕方ない。ギルド長との話は長引くかもしれないと言っていたし、付き合ってやるか。
ゼラは、周囲を気にしながらも懐で妖術を使った。
赤黒いオーラのようなものが掌から現れたかと思うと、一瞬にして両掌の間から長い紙が出てきた。
ゼラの手は四次元にでも繋がっているのかな……?
苦笑いも束の間にゼラは紙とペンを創造した。
「ほれ! これで作るがよい!
儂が直々に遊んでやろうではないか! ククククク!」
「あ、そうですか……じゃあお言葉に甘えて作らせて頂きます」
ゼラの王様じみたノリに適当に合わせながらも、俺は地味な作業を始めた。
紙に折り目を付け、千切り、適当な大きさに合わせて紙製のトランプを作った。
ジョーカーを入れて53枚。多少造りは甘いし、ペンだから透けてしまっているが、やりようを考えればなんとかなるだろう。
「よし、できたぞ」
「おお! これがそうか!
なんかいっぱいあるのう……して、どうやるのじゃ?」
そうだなあ……ゼラは初心者、というか子供脳だしな。
「じゃあ七並べにするか」
「シチナラベ? 五目並べではないのか?」
「うん、全然違う」
そう言いながら俺は例としてトランプを並べて見せた。
五目並べ……? 聞いたことあるけど、どんなのか知らないな。五目御飯……食べたないなあ、なんつって。
「四種類の絵柄がそれぞれ十三枚ずつあるだろ?」
「ふむふむ、確かにのう。絵柄というのは、このマークのことじゃな! じゃが――この変な……ゾンビか? これだけどれとも絵柄が違うのじゃ」
「それはジョーカーだ。他のゲームでは使うことがあるんだが、今回は二人でやるだけだし、使わないルールでやろう」
てかピエロをイメージしたんだけど……。
「お主が言うのであれば、わかった!」
二人での七並べはすぐ終わる。とりあえずはトランプというものの有用性について語ってやるか。
「そこでだ。この十三枚の数字を順番に並べていく、ていう感じだな!
てか……お前数字判る?」
「バカにするでない! 儂とて日本にいたことがあるのじゃ。数字くらいどうということはないわ!
ほら、やるぞ!」
やる気に満ち溢れたゼラは、直ぐに終わるというのに「もう一度」と幾度も七並べを行った。
何がおもしろいのか壊れたように笑う様は賭けに溺れているかのようである。
「ぐへへ……なんとも爽快感のある遊びじゃ!」
爽快感……そんなものがあるのか? 俺はお前が気味悪すぎて恐怖しか感じないんだが……。
「面白いことをやっているねえ……」
ゼラの後ろに飄々とした青年が一人立ってこちらを覗き見ていた。
俺たちの背筋に凍えるような悪寒が走った。
遊びに夢中だったとはいえ、ゼラはともかく俺は周囲に気を配っていたつもりだった。しかし、こうもあっさりと間合いに入られたことに警戒を露わにする。
こいつ……どこから現れやがった!?
すぐにどうこうするつもりはなく、相手の出方を見るように殺気をひた隠す。
ゼラが完全に後ろを取られている。もし何かしようとすれば、俺がやるしかない。たとえ、ギルド内で騒ぎが起きようとも……!
「これは、新しい遊びなのかな? ねえ……白面金毛九尾狐」
「っ――!!?」
俺は、直ぐにこの男を殴り飛ばして逃げようとした。
その為に席を立つ刹那、男は俺の肩を掴んで立つのを止める。
「僕にも教えてよ……この新しい遊び」
耳元で囁かれる声からは性格の悪さが窺える。まるで「殺せるけど、殺さない」とでも言わんばかりだ。
こっちの頭ん中は全部お見通しかよ……!
「その辺にしておけ――おとら狐」
「――は?」
ゼラが知り合いのように話すので呆気にとられる。
こいつ、お前の知り合いなのかよ!?
聞きたかったが、さっきの今で生きた心地がしなく、声が出なくて口をパクパクした。
「落ち着け。こやつは性格は悪いが、儂の所有物に手を出すほど愚かではないはずじゃ」
「性格が悪いとは、ご機嫌だね……。そんなにそれが面白いのかい?」
二十代くらいに見える青髪の好青年。
しかし、どこか嘘くさい笑みに未だ警戒心を解くことはできない。
「そうじゃな……お主もやるか? 儂の下僕が言うには、多人数の方が面白いらしいのじゃ」
「下僕っておい……こいつ本当に大丈夫なのか?」
「いいのかい? なら是非やらせてほしいな!」
ゼラは普通に話している。それまでの狂い笑いが止んでいるのは気掛かりだが、ここからならゼラが一人でなんとかするだろう。
「ほれ、惚けていないでさっさとおとら狐にも教えてやるのじゃ。お主しかルールを知らないのじゃからな!」
本当にこいつと遊ぶ気かよ……何気にやる気取り戻してるし……。
「おとら狐なんて古い名前はよしてよ。今はオットーって名乗っているんだ」
「……かぶれたものじゃな」
「そこら辺はほら! 時代ってやつだよ」
「時代……か……」
ゼラは千年あそこに閉じ込められていた。その弊害が彼女の瞳に靄を作ったようだ。
ゼラが黙り込んで静かになってしまい、俺はその間に「じゃあルールを……」と説明を切り出した。




