表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/125

4話 妖怪の激しい譫妄(2)

「よーし行くぞお前等! 申請してきた!」


 申請にはそれほど時間が掛からないらしい。

 すぐに戻ってきたハンバーグが俺たちを呼び掛けるので、皆して席を立つ。


「ぐへへ……」

「あ、あぶな――」


 その瞬間、下卑た小さい笑い声と共にミアラージュの背後に如何わしい手が伸びた。

 俺は、反射的にその手を払った。


「な……! なんじゃ貴様!?」

 

 その手の主は近くの席でこちらの様子を、というよりミアラージュの様子を窺っていた如何にも変態そうな爺さんだった。

 生え際の後退した白髪頭に皴が幾重にも重なった老体。


「すごいべ。ヤツガバの爺さんの手を弾くなんて」


 ヤツガバの爺さん? それがこのジジイの名前か?

 だが、今のはどう見てもミアラージュのケツを触ろうとしていた。ここはギルドだろ? てことは冒険者……ただのエロジジイじゃないのか?

 冒険者らしい装備を身に付けているあたりは冒険者らしい。


「このクソジジイ! またわたしのお尻を狙っていたわね! 何度蹴られれば気が済むの!!」

「あ、ああ! 女子に足蹴にされておる! 快感じゃあ!」


 俺の活躍が霞むほどにミアラージュは脂下やにさがったエロジジイを足蹴にし始める。

 しかし、どことなく爺さんが嬉しそうなのはどういうことなんだろうか……。


「あはは……いつもミアさんを狙っているみたいで、気付かれないように席を取っているみたいなんです……。

 毎日じゃなく忘れた頃にやってくるのでたちが悪いんですが、それに気付くなんてすごいですねレッドさん!」


 どうやら常習犯らしい。ここが日本なら痴漢罪であんな顔していられなくなるだろうけどな……。


「アーチもやられたことがあるのか?」


 顔を赤らめもじもじするアーチは答えづらそうにしていた。

 要らぬことを訊いてしまっか!?

 そう思っていると、代わって応えてくれたのは爺さんと同じ席に座っている見知らぬ青年だった。


「ヤツガバの好みは熟女だ。ガンツの姪には一度も手を出したことがないんだな、これが」


 壮年そうな青髪を立てた男性で筋肉がすごい。まるで見せつけるように開かれた外套から覗き見える筋肉はゴリマッチョだ。

 ハンバーグとは比較できないが、背丈や体格を見て元の世界に近しい常識的なマッチョだ。

 横には大きな鞘に納まったおそらく剣だろう武器が立てかけてある。

 強そうな人だな……。


「あなたのお爺さんなんですか?」

「ん? ……いや、俺はパーティを組んでいるだけだ。

 昔は身よりがあったらしいが、今じゃあその影も見えねえな。家族がいるのかどうかは俺にもわからん」


 少し驚かれたような顔をされた。

 そんなに深く訊いたつもりはなかったのに結構話してくれたな。


「さてはお前、冒険者成り立てだな?」


 また気付かれた……。そんなに判りやすい顔つきをしているんだろうか。


「まっ、せいぜい頑張れや。ここは王国お抱えのギルドだから他より快適だし、仕事もしやすいだろう。

 だが、それに甘えたんじゃあ冒険者失格ってもんだ。いずれは他国に行ったり、旅をすることも考えておけよ!」


 おまけに助言ときたもんだ。

 確かに俺は若い。もしかして冒険者になるには年齢基準みたいなものがあるのか?


「さっ、行くわよアンタたち!」


 爺さんを痛み付け終わったミアラージュは清々しい顔をしていた。



 ハンバーグは、ギルドの外で待っていたらしい。

 さっきは爺さんの手が出るのに気付いていたようだけど、ミアラージュのアレが始まってからは外に出ていたようだ。

 巻き添えを食らいたくなかったようだな。逃げ足の速い男だ。


「終わったのか?」

「ええ……。あ、忘れていたけど――レッド、だったかしら?」


 名前を忘れていました、みたいな言い方だな。そんなに俺のことを嫌っていたのか。


「ありがとう……助かったわ」


 少し恥ずかし気で笑えるが、素直に礼を言えたところは見直してやるか。


「ああ言った視線には慣れているんだ。気にする必要はねえよ」

「ふん! 素直じゃない小僧だこと!」


 その歳でツンデレは需要ないから止めたほうがいいぞ、というのは無粋だろうな。

 だが、せめてもう少し大人びた態度をとった方がいいとは心底思っているけどな。


「んしかし、レッド殿のあの反射能力は素晴らしいかったべ! まるで最初から判っていたみたいだっただ」


 アレを察知できたのは……ちょっと嫌な予感というか、あんなことに収まらなそうな事態になりそうな気がしたんだよな……。


「これからの戦闘でも頼りにしてますねレッドさん!」


 あ、いや……そんな期待されても困るんだがな。俺自身はそれほど強くないし。


「それでは森へ向かい、レッドの実力を見せてもらうとしようか」

「おう! 任せろ!」


 まぁでも、ゼラがいるしなんとかなるだろう。

 ゼラと少し話をした方がいいな。最後尾に位置しようか。



◇◇◇



 王国を出た先にあるヴァルファロストの森――。



 天気に恵まれ、森の中には涼やかな風が吹き抜けていた。

 俺たちの進行も滞りなく、俺への質問で話題が欠くこともなかった。そうして思っていた以上に和やかに森の中を歩いていた。

 しかし、それに反してゼラは機嫌が判らないくらいに無表情で俺の後を付いて来た。

 パーティの並びは、ハンバーグを先頭に俺とゼラ、そしてキンが続いて最後尾にミアラージュとアーチ。

 ミアラージュとアーチはゼラを心配しているようだったが、むしろ心配して欲しいのは俺の方だ。この化け狐に心配されるような要素はない。

 森へ入って間もなく、茂みの先にいる猪型の魔物を発見した。


「ヴァルファロストボアだな。この辺にしかいない魔物で、貴重性が高い為に換金率が高い」


 緑色のたてがみに牙が大きく少々丸みを帯びている猪。

 この辺にしかいないということは、確かに貴重なんだろう。魔物ってやっぱ食べるとか衣類への応用が効くのかな?


「何より上手いんだべ! できるだけ傷を付けたくないところだな」

「行けるかレッド?」


 だってゼラ。

 視線をゼラに移すが、ゼラは細い目で見てきた。あのくらい自分でやれ、ということなんだろう。

 さっきも話したが、それほど危ない相手でなければ俺が自分でやらなくちゃいけない。ということは、この猪はそこまで危なくないとの判断だ。

 仕方ない、やるか。

 俺は、無言で猪へと歩み寄る。


「ぜ――ブルーを頼む」


 俺ができることと言えば、ゼラの妖気を使ったぶん殴りだけだけど――戦う上でこれを隠し通すことなんてできないからな。

 できれば隠したかったけれど、出し惜しみして武器もない俺が勝てるとは思えないからな。

 ――仕方ない。

 右腕から禍々しくも赤黒い妖気が漂う。


「なんだあれは……? 魔法、なのか?」

「身体強化系じゃあねえか? だけんども、あの色の魔力……闇属性ともどこか違うようだけんど……」


 後ろから妖気に対しての疑問が聞こえてきたが、俺は猪の方に集中することを強いられる。

 ヴァルファロストボアが俺に気付いて威嚇を始めていた。

 妖気に勘付いたというよりかは危険察知能力という方が適当か。

 あまり傷を付けず、か。無理難題かどうかも判らないけれど、とりあえずやってみるか!


 一歩。それだけで猪目前へと素早く移動する。


「速い!」

「全然見えなかったよ!?」


 あまりの速さに俺の方が驚いてしまう事態。妖気を使うと、全身がその力の恩恵を受けるせいで普段との差異に開きがありすぎる!

 運動神経のない俺にはこれに対処するのに時間が掛かった。

 俺は、狼狽えつつも突進をしようとする猪から距離をとった。猪から右へと位置取り、拳を構える。

 猪は、俺が何処へ行ったのか判らないようだ。

 最初からこうすれば良かった。いや、移動方法には後で練習が必要と判っただけでも収獲と思うか。

 猪の突進を待ち受け、反撃するつもりだ。

 そうだ。この拳の名前、何か決めた方がいいかな? なんかカッコイイ名前がいい。中二的でも、他の奴等がいないから構う必要はないだろう。

 黒い腕……黒い拳……黒いパンチ……全然思いつかない。

 猪が俺を見つけて突進してきた。

 もう余裕がねえ……名前は後にするか。


「レッドさん、迎え撃つみたいですよ!?」

「あのバカ……ヴァルファロストボアの突進を正面から受け止めるつもりなの!?」


 急に怖くなってきた。普通なら、猪の突進に素手で挑むなんて自殺行為。

 ゼラの妖気はあっても、俺なんかに魔物の相手ができるんだろうか。ブラックウルフならもう慣れたと思うが、このヴァルファロストボアのことは全然知らない。

 考えている間もなく、猪はやってきた。

 ゼラが動かないんだ、なるようになれ!


「やめて!」


 怖気づいて反対的な言葉を漏らすも、俺は拳を前に突いた。

 目を瞑ってしまって最後にどうなったのかは判らないが、ドシンという大きな音で瞼を開いた。

 噴き出したゼラの笑い顔が目に留まる。

 なんだよ……わかってるよ、かっこ悪かったんだろ……。


「まさか……ヴァルファロストボアをこうもあっさり倒すなんて……」

「俺の見立ては間違っていなかったようだな!」

「す、すごい……」

「圧巻だべ!」


 四人は絶句している様子だ。顔が驚きに染まっている。

 猪は、向こうの木にぶつかったようで伸びている。どうやら一発で倒せたらしい。

 俺は安堵の息を漏らし、警戒を解いた。


「今の……やめ、なんたらという技は凄まじいな! 素晴らしい突きだったぞ!」

「そ、そうなんだよ! やめ……夜瞑拳やめいけんって言ってな! 俺が重宝している技の一つなんだ!」


 口から出まかせ。勝手に回る口はいらぬというのに頭突きを生じさせる。


「カッコいい技だべ。闇魔法を応用しているんだべか?」

「え? よく気が付いたな!

 そうなんだよ。闇属性の魔法はあまり見せたくなかったんだが、お前等に見せないのは礼儀を欠くと思ったんでな!」


 次から次へと回る口だ。

 俺の意志に関係なく強がるこの口には、さっさとチャックをつけたいところだ。なんたって連続的に叩かれるような頭痛がするからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ