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4話 妖怪の激しい譫妄(1)

 暫くしてハンバーグたちのパーティが集まった。

 俺とゼラも混じえ、パーティ6人はギルドにある丸テーブルを囲って集う。

 他にも同じようなテーブルと椅子が並べられている。この場所は冒険者パーティの集合場所として定着しているようだ。俺たち以外にもいくらかパーティが同じように座って話をしているようだった。

 全員が集合したのを確認すると、先程伸びていたハンバーグことガンツが仕切りだす。


「今日はゲストがいる。皆、初めての顔合わせになると思うが、この国にやってきたばかりの新米冒険者だ。宜しくやってくれ」


 こいつ、俺が初心者だってことを見抜いていたのか!?


「特にミア、先のことはもう許せよ?」

「何を言っているのかさっぱり」


 明後日の方を向きながら、ミアラージュは答えた。

 俺も既にこの女性には苦手意識が焼き付いてしまった。トラウマにならないといいんだが。

 年増とか言われただけで過剰反応なんだよな……。


「さあ、レッド。名を名乗ってやれい」

「あ、ああ! 俺は、レッドだ。短い間だとは思うけど、よろしく頼む。

 こっちはブルー。俺の妹だ」


 皆から「宜しく」と言葉を受けた。

 だが、なぜだか喜ぶことはできなかった。これは俺の性格が、これまでの人生がそうさせているんだろう。

 俺は、他人を信用することができないのだ。


「わたしは、アーチです。パーティでは回復薬を担当しています」


 急に自己紹介が始まった。

 可愛らしい女性だが、年齢的には俺より上かもしれない。同級生の女子たちよりどこか大人びている。

 革装備の上から白いローブを羽織り、短めの杖を持っていた。

 後方支援系だろうか。杖の長さ的に魔法を唱える時に使う用に見えるしな。


「アーチは俺の姉の娘にあたる。今は休みでこっちで冒険者として手伝ってくれているが、本業は魔法学院の学生だ」


 俺は、へー、と適当な相槌を打った。

 ハンバーグの姪か。どうりで他とは違って若いと思った。

 おっと、口に出したらまたミアラージュが暴れ出してしまう……。


「よろしくお願いしますねレッドさん」


 うん、なぜだろう……。結構可愛いかもしれない。

 いや、騙されるな俺! 女はどいつもこいつも裏で何か陰口を言っているに違いない。

 くっ……そんな澄んだ瞳で見つめないでほしい……!


「は、はい……」

「レッド、お前にはやらんからな?」

「ば、何言ってんだよ!」


 小声で脅してくるハンバーグに俺は羞恥ながらも反抗する素振りを見せる。

 俺にそんな気は断じてない! なにせ俺はもっとパイがデカい方が好みだ! 年増のおばさんは遠慮願うが……。

 そんなことを考えているのを読み切ったようにミアラージュが鋭い視線を放ってきた。

 何も言ってないのに……たぶんナーバスになってるんだろうな。気にしないどこ。

 そういえば、アーチってハンバーグの姪だから……この人もハンバーグなのか? もしそうならややこしいな……覚えやすい名前だと思ったのに。


「んだばっちょ、わしの紹介の番だわな。わいは、タンク兼補助役のキン・センス・ベンテンマ。

 以後、よろしく!」


 少々なまりのある喋り方をする髭のおじさん。

 身長はゼラとほぼ変わらないくらいで小さい。どちらかというと横に長く、なんとも馴染みやすそうな顔の作りをしている。

 ただ、剛毛の顎髭が結ばれているのは物珍しかった。思わず凝視してしまうほどである。

 すげえ……。


「うちで唯一のドワーフ族、というよりなんとこの街にはこのキンしかおらん!

 温厚で優しい上に魔法が多彩でお前も何かと世話になるだろう」

「旦那、そりゃあ言い過ぎでさあ。わいは特段すごいことなんかねえよ。ただのドワーフだあ」


 おお……ドワーフ! こっちの世界に来て間もなく異種族をこの目にできるなんて……。

 でも、小さな爺さんというくらいであまり見た目は変わらないんだな。この街で一人しかいないってことは、俺って結構ついてるのかも!

 俺は、密かに目を輝かせていた。


「挨拶はこれくらいでいいでしょ。それで、今日の標的は?」


 さっきのこともあって機嫌の悪そうなミアラージュが本題に入るべく促した。


「ああ……今日は元々人数が少ない予定だったからな。あまり深く入らないつもりだった。

 しかし、こうやってレッドを迎え入れることができた。だから、一度東森を迂回してらダンジョンへ向かおうと思う! レッドの実力も見ておきたいからな!」


 ダンジョン……興味深い言葉だな。なんたって響きがいい!

 冒険者といえば、ってところもあるし、あるんなら体験してみたかった。まさか三日目にして入ることができるなんてな。


「そうね。この子の実力がどれほどのものか、しっかりこの目に焼き付けないと」


 ミアラージュは脅すように俺を見てきた。

 嫌に根に持つな……それだから男がいないんじゃないか?


「レッドさんは何で戦うんですか? 何も持っていないようですが……」


 アーチが不思議そうに問いかけてきた。

 そういえばあまり考えていなかったな……。

 ゼラと二人で適当に依頼を熟すつもりだったから危ない時はゼラに任せようと思っていたし、無駄な出費をしたくなかったから武器は買っていない。


「えっと……素手、かな?」

「ほう、拳闘士か! 今時珍しい、どこの流派なんだ?」


 何故かハンバーグの興味を惹いたらしい。

 流派と言われても、適当だしそんなものはない。しかし、役立たずとは思われたくないからな。


「少林寺だ」


 昔、友達が習いに行っていた。だが、俺自身習っていた訳ではないから知らない。けど、こっちの世界には無いだろうからこれでいいだろう。

 嘘をついた瞬間、相変わらずスリッパでツッコミを入れられる程度の頭痛がした。


「ショウリンジ……? 聞いたことないが、異国の流派なのか?」

「あ、いや……魔法も織り交ぜる最近できたばかりの流派だ。しかし、少し習っただけだからほとんどが自己流で、俺としては型にはまっていないのが特色だと思っている」


 もちろん魔法はゼラに任せてごまかそうと思っている。

 狐火は、見る限り自分の近くから発する必要はない為、なんとでも言えるからな。


「それは面白そうだ! 是非見てみたい!」

「んだば、早速ダンジョン調査をギルドに申請していくべ!」

「そうだな。もう少しでダンジョン調査に出ようとするパーティが増えて来る時間帯だ。

 森に寄るゆえ、早めに出るほうがいい。じゃあ俺がギルドに申請して来るからお前たちはここで待っていてくれ!」


 そう言ってハンバーグは席を立った。

 少々体も声も大きいが、結構良い人そうだ。俺の嘘に気付きそうにないところは正直者という感じで、パーティをまとめるのに必要な素養そようを併せ持っているというところか。


「レッド殿は、他国から来たんだべ? 妹さん連れて冒険者として働こうとするんは偉いなあ」

「本当そうですよね! わたしの通う学校は貴族ばかりでそういう気概のある人って少ないから尊敬しちゃいます!」


 ハンバーグがいなくなって静まり返るかと思いきや、柔和にゅうわにキンが話題を出してきた。

 アーチは魔法学院なるものに通っているんだったか。こっちにも学校があるとは驚きだ。


「魔法学院って魔法を習う学校なのか?」

「はい、そうですよ! 将来的に国の騎士や魔法師を目指す人たちばかりで、優秀な人が多いんです!

 でも――わたしは、全然優秀じゃないからちょっと焦っちゃってます。えへへ……」


 アーチは、若いだけあって元気で性格的には子供っぽい印象を受ける。

 何か学校の方で思う所があるんだろう。彼女の苦笑いから察するに葛藤のある日々のようだ。


「それでいいのよ」


 さっきまでいらついていたミアラージュが口を開いた。かと思えばアーチを諭すというよりか過去を観るかのように遠くを見ている。


「若いうちに悩んで、悩み続けた方がいいの。今しかそんな時間ないんだから」


 なんだ自虐じぎゃくネタか。

 思わず口から出てしまうのを堪えた。

 更なる暴挙を受けるところだった。気を付けないとな。


「……ありがとうございます。わたし、頑張ってみます!」


 少しはマシな笑顔になった。

 そうやって前向きに考えられるのは羨ましい限りだな。学校なんて、人間の関係を判りやすくしてしまう魔の海域みたいな所だってのに……。

 そんな考えを見透かすかのようにゼラが俺の服の袖を引いてきた。


「その目……」

「目?」

「危うい目をするな。今にも飲み込まれそうじゃったぞ」


 不意を突かれたように唖然する。

 まるで俺のことを全部理解しているようなことを言うな……。


「心配するな。お前以外に飲まれる相手なんかいねーよ」


 小声の会話にいつの間にか注目が集まっていた。

 やば……怪しまれたか……? そんなに大事な話じゃなかったんだが……。


「兄妹仲がいいんですね。通じ合っている感じでした!」

「んだ。兄妹仲がいいのはいいことだ!」

「せいぜい大事にするのね。この仕事をしていて、守りながら戦うのは本当に難しいことよ」


 俺は、愛想笑いをした。

 よかった。疑われたわけじゃなさそうだ。

 こういう場所でのひそひそ話はやめておこう。なんか犯罪を企てているようで目立ちそうだしな。

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