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3話 王国に潜む妖しい影(4)

 さっきの奴はなんだったんだ……? 本当に二人の兄なのか?

 自尊心が高く、他に厳しい上に利己的な考え方。顔はともかく、性格や中身は似ても似つかないな。

 未だ冷めやらない疑問と憤りがあった。永遠と彼のことについて嫌味を反芻はんすうできる勢いだったが、ゼラが袖を引いてきた。

 振り返ると気に掛けた方がよい、と言いたげに指を差す。


「あ……大丈夫、ですか……お二人共」

「…………申し訳ありません」


 心が強いな。

 謝れるくらい気を遣えるのはもう慣れているから、だろうか。


「前は、あんな風ではなかったのですが……」

「今では、まるで別人のようで……私たちも近づきがたく、なってしまいました……」


 リルルが寂し気に俺たちを見ていたのは、こういうことだったのか。

 何も言える気がしなかった。

 俺には別に兄はいないし、家族も父一人だけ。二人がどんな思いなのか、俺には理解できる気がしない。

 だからだろうか、俺の口は勝手に動いた。


「いつか元に戻りますよ。彼は、思春期で気が立っているだけです。反抗期のようなものですよ」

「……お優しいんですね、アカヒト様は」


 物憂げな笑みはおくゆかしく、儚げだった。

 いや……本当の所は何も判らない。ただ適当なことを言っているだけだ。


「そうですよね。お兄様は、本当はお優しい人ですから。

 アカヒトさんにも優しいお兄様と逢って欲しかったです」


 二人共、あの兄に逢ってから大分疲れた様子だ。

 リオネルはからげんきを出している。だが、リルルは汗を掻いて俺にしなだれかかってきた。


「り、リルル……さま?」

「熱じゃな。体温が高まっておる」

「マジかよ……」


 ゼラは、リルルに手も触れずに容態を察したらしい。

 確かに汗を掻き始めて息も少し上がっている。触れる肩から熱めの体温が伝わってきた。

 俺は急いでリルルを横にする。


「リル!」

「申し訳ありませんアカヒト様…………。これはいつものことなので、お気遣いなく」


 息苦しそうに出る声は全然大丈夫じゃなさそうだ。


「んな訳にいくかよ……。

 リオネル、すぐに医者か係りつけの者を呼んできてくれ!」

「は、はい!」


 虚弱と言うくらいだ。誰かしからいるだろう。

 リオネルは、急いで部屋を出た。


「アカヒト様、今日こんにちは、このような事となってしまいなんと申し開けばいいかわかりません」

「口を開かなくていい。無理をしないで寝ていろ」

「お主、この椅子よりベッドに寝かせた方がよいのではないか? もっと女子おなごに気を遣うのじゃ」

「……そうだな」


 俺は、リルルを抱きかかえて大きなベッドへと移動させた。



◇◇◇



 その後、俺たちは別室に案内された。

 元々はヴァルファロスト家と会食をするらしかったが、色々な事情で取りやめとなったらしい。

 俺としては助かったが、その理由がリルルの容態というのだから素直に喜べなかった。

 ゼラは、この城の従者が持ってきてくれた油揚げの山にかぶりつき、機嫌を良くしている最中である。

 しかし、俺としてはやはりあの兄が気掛かりでならなかった。


「なあ、あんな奴があの双子の兄と思えるか?」

「……」


 俺の質問に答えることはせず、ゼラは黙々と油揚げを口に運んでは幸せそうに頬を膨らませている。


「この国も大変だな。あんな奴……リーテベルクなんかが第一王子なんて。

 あれが次期国王なんだろ? 俺が王なら、ぜったいリオネルを選ぶね。あんな自分勝手で理性的でないやつ……ただムカつくだけで見ていられない。

 うちの世界でもああいう政治家がいるんだろうか。少なくとも、今のあれにこの国を任せることはできないと民衆が革命を起こしかねないな」

「お主、彼奴きゃつには近づかぬようにするのじゃ」


 意味深な言葉が引っ掛かり、眉を顰めた。


「なんだお前、何か知ってんのか?」

「彼奴から少しばかり妖気を感じた」

「妖気……あいつ妖怪なのか!? けど、こんな発展したような国に妖怪が出るのか!?」

「そこまでは定かではないわ。第一、発展していようとしていまいと妖怪が関わる可能性に関係はないからのぉ」

「……そう、なのか……」

「触らぬ神に祟りなし。巻き添えを食らわぬうちにこの城から身を引くことを勧める」

「神じゃなくて妖怪だろ」

「妖怪と神はまさに紙一重。妖怪じゃからといって、神ではないとはいいきれん。

 神として祀られながらも、妖怪として恐れられている者もおる。付喪神つくもがみがいい例じゃな」

「そういえば俺、あまり妖怪のこと知らないな……。

 俺って、妖怪なのか? 妖力があるってことは、妖怪じゃないって言いきれないんじゃないか?」

「言い得て妙じゃな! 確かに妖力を分け与えた儂でさえお主が妖怪ではないとは言えん。

 妖怪か人間かの境界が曖昧な微妙な存在としか、今は判らんからのう!」


 上機嫌なこいつに言われると、不思議とムカつく。


「しかし、お主も好かれたものじゃな。双子の姉、あれはお主に気がありそうじゃぞ?」

「……冷やかしか?

 そもそもお前ばかりズルいぞ。寡黙ぶりやがって、猫かぶりが! 狐が猫被って、キメラにでもなるつもりかよ!」

「何を言っておるのじゃ? お主の方が舌が回るゆえ、このような体制をしいておるのじゃろう。

 もし儂に喋れと申すならば、お主に役立たずという烙印らくいんが押されることとなるが――いいのかのう?」


 不敵に笑ったかと思えば、また口に油揚げを入れる。

 先程まで山のようにあった油揚げも今やもう少しで食べ尽くされそうだ。話している間も口をとめることなく頬張り続けていたらしい。

 食いしん坊キャラなのかよ……。俺なら好きなものでも流石に飽きるけどな。


「お前、これからどうするつもりなんだよ? 成り行きでここまで来ちまったけど、本来お前の目的地はどこにあるんだ?」

「お主も儂も、この時代この世界の地理にはうといからのう。どこ、という答えに対しては確かな答えを持っておらぬ。

 なにせこの世界にも活火山は存在するゆえ、数百年程度で地形はがらりと変わる。もはや儂の知っている場所など存在しないやもしれん。

 じゃから……儂の行きたい場所も存在するかどうか、わからんという他ない」

「行きたい場所はあるんだな。なら、そこへ行こう。どんな場所なんだ?」


 急に興味が湧いた。

 こいつが行く場所にどうせ俺も付いて行くことになる。せめて、俺にとっても利のある所だと嬉しい。


「妖怪の街じゃ」

「妖怪の街か……。

 少し興味があるな。妖怪の街ってのはどんな所なんだ? やっぱ、妖怪が一杯いるのか?」

「……もうよいじゃろう」


 何故か不機嫌になった。気付くと、ゼラの前にはもう油揚げがなかった。

 油揚げがなくなったから不機嫌になったのか……?

 呆れ果てる前に、ゼラに部屋の外へつまみ出された。幼気な容姿からは考えらない力持ちだった。


「な、何すんだよ!」

「儂がお主と同じ寝床で寝ると思うたか? もうこりごりじゃわ!」


 バンッと朝の鬱憤うっぷんを晴らすように扉を閉められる。


「ちょ…………マジ、ですか……。

 あのー……せめて部屋に入れて欲しいんですけど」

「ぐー……」


 寝たフリをかますあたりは聞いているのが分かる


「油揚げ頼んでやっただろ? 感謝もないのかお前は!」

「ぐー」


 それで返事するなよな……。


「なあ、朝のことはもう謝っただろ? 許してくれよ……」


 てか、俺はなんで不倫した夫みたいなこと言ってんだ? 恥ずかしくなってきたじゃないか。


「ぐー」

「はん、そうかよ! それなら俺はリオネルの所にでも行ってくるよ!

 まったく、とんだ妖怪狐だな! 感謝の仕方も知らないなんてよ!」


 愚痴を言い放つと、俺は夜の暗い城を歩き始めた。


 廊下には窓から月明かりが差しており、誰の声も物音もしない。廃城のようだ。

 ふと外に目がいった。眺めが良さそうと思っただけだった。

 すると、城から出ていく第一王子が見える。あの後ろ姿は見違えようのない。

 後を付けてみるか。何か判るかもしれない。

 今の俺はゼラの言葉になんでも反論する考えをしている。ゆえに、近づくなと言ったゼラを否定するように後を追った。



 城を出ると、リーテベルクは東に向かっていった。

 まだ来たばかりでこの街のことは何も知らないが、これだけでかい城が中央に聳え立っているんだ。帰りなら問題ないだろう、と後を追い続けた。

 

 いつの間にか国を出ており、次に行ったのは森の中。国へ入る道中にも見た果実の成っている木々の多い森だ。

 月明かりが森を神秘的に覆い尽くす中、王子の歩みはいっそう早まっていく。

 どこに行くつもりなんだ? こんな所になんのようなんだよ……。

 暫くして水の音が大きくなってきた。近くに川か滝があるんだろう。

 音が大きくなっていくので、目的地は川の畔ではないかと予想する。


 案の定、リーテベルクは森が開けて直ぐにある滝の前で立ち止まった。

 俺は、木陰に隠れて様子を見守ることにした。

 彼も付けられていないか最後の確認を行うと、いきなり突っ伏した。

 何かあったのか、と危惧したけれど、それが平伏している体勢であることに直ぐに気づくことになる。

 そいつは、滝の中から出てきた。

 楚々(そそ)とした女性。江戸時代で着られていたような厚い着物に身を包むものの、淡い色が相まって爽やかに感じられる。

 しかし、俺は彼女に対して最大の警戒をした。リーテベルクは気付いていないのか、と叱ってしまいたくなるほどに彼女から感じるのは深い憎悪の伴った妖気。

 俺がいつこれを妖気と断定したのか自分でも判らなかったが、少なくとも手を出していい相手ではないことは確かだ。

 何者だよ……あの女……。


「シモ様!」

嗚呼ああ……可愛い可愛い、わたしのリーテベルク」


 妖気だけは取り留めもないほどだが、どうやらリーテベルクを直ぐに殺すという雰囲気ではないらしい。


「私はいつ、王となれるのでしょうか!」

「そう焦るな。月はもう何度も欠けては元に戻ることを繰り返しているが、お前はまだ何も成しえてはおらんではないか」

「で、では……私はどうすれば……! 弟を消すことにも失敗してしまいました……」

「あんなもの……気にするに値しないと言ったではないか」


 弟を消す!!? まさか……リオネルを狙った奴はリーテベルクの命令で動いていたのか!?


「王は自分の地位を、我々の王族としてのあり方を忘れております。直ぐにでも私が王位を継承し、この国をあるべき姿へと昇華すべきなのです!」

「わかっている。ならば、まずは王位を継ぐに値することを証明しなくてはならん」

「私は、未だ王に相応しくないと?」

「無論。王は、皆に認められてこそ真価を発揮するもの。

 今のお前が直ぐに王位を継承しようとも、民衆の中で付いてこない者が出てしまう。それは、お前にとって今後の障壁となるだろう」

「しかし……」


 その時、俺の服が何かに引っかかったように突っ張った。

 振り向くと、そこにはにまけた顔をしたゼラがいた。

 なんとか口は押えたが、驚いて尻もちをついてしまう。


「誰だ!?」


 リーテベルクがこちらへ移動してくるのが見えた。

 やばい……気付かれっちまった……!

 ゼラは悪びれもせずにシーと静かにするように、とジェスチャーする。

 おまえのせいだからな!

 今にも叱咤したくなるのを抑え、俺は言う通りに息を殺した。

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