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嘘吐き少年の異世界妖怪道~異世界に来た折、出逢ったのは妖麗な狐だった~  作者: 天空宮
第四章「月光に照らされた陰鬱な館」
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32話 赤い衝動に触れる妖(7)

 後日、俺は再びリコの下を訪れた。

 リコは、いつものようにクウとシノンと一緒に行動を共にしており、今はまるで俺を待っていたかのように屋内修行場にいた。

 昨日は結局、クウに邪気の解決策を聞けず終いだったからだろう。リコとのわだかまりもひとまずは解決したので、俺をここで待っていた。

 リコの尻尾は一本に戻っていた。契約は履行中のはずだが、妖力を抑えているからだろう。

 ここにはこの三人以外には誰もいない。丁度良く話しやすい状況だ。

 ここに来て直ぐに明後日の方向を向いてるのでまだ怒っているか、気まずいんだろう。俺も変な別れ方をしたから話し掛けにくいのだが。意識して距離を取るとまた離れていきそうだから、自分から彼女に歩み寄る。

 俺は、一つの紙袋を持ってきていた。それを、仕方なくリコに突き出す。


「これ、お前にやるよ。昨日のお詫びだ」

「はえ!?」


 リコは驚いた様子だった。昨日の最後はあんな別れ方をしたから、俺が何かを手渡すというのが意外なのだ。

 プレゼント自体は嬉しいが、それよりも俺を疑う気持ちもあって葛藤している。手に取ろうかわきわきしつつも、威嚇するように「フシャア!!」と唸っている。


「動物かお前は。いや、狐なんだけども」

「あら、いいですね! 羨ましいです」


 これまた思っていないかのように笑みに華のないシノン。しかし、雰囲気を和やかにする目的の為なら大助かりだ。


「な、なによ……なんで……」

「ゼラに怒られたんだよ。もっと大人になれってな……だから反省した、それだけだ。

 本当はお前とも仲良くやりたいんだ。お前はクウにとって大事な奴だし、俺にとっても一緒にいて嫌じゃないと思える数少ない連中の一人なんだよ。睨み付けてくるのが玉にきずだけどな」

「う、うっさいわね……。こんな、空狐様の前で……どういうつもりよ!」

「だから言ってんだろ、仲直りがしたい。これ以上、クウの前で俺の顔に泥を塗るつもりか? そろそろ腕がきつくなってきたんだけど」

「う、受け取ればいいんでしょ、受け取れば!」


 リコは顔を薄紅色に染めながらもゆっくりと紙袋を手に取った。

 すると、シノンが関心しながら歩み寄ってくる。リコには聞こえないよう耳元で好奇心任せに訊ねてきた。


「何をあげたんですか? 気になります」

「服だよ、ゼラに俺の記憶の中から出してもらった。リコは俺のこと嫌いだから、今迄一度も貰わなかったらしいんだけど、仲直りの印としてどうかって薦められてさ。

 まあ、好みじゃないっていうなら着なくてもいいけど、(仲直りの)印だから持っていては欲しい」


 紙袋の中から出したのは、白を基調とした雨模様のブラウスに長い青のスカート。元の世界風の衣類だが、狐に合わせて尻尾は出るように修正はしてある。


「これは赤人あかひとさんが選んだのですか?」

「な……っ! き、訊くなよそんなこと! 誰でもいいだろ!」

「あ、あたしには似合わないわ。空狐様の護衛もあるし、こんな無防備な服着てたんじゃ戦い難いでしょうし……」

「似合うと思うよ、リコ」

「空狐様!!?」


 クウが爽やかな笑みでそう言った。

 すると、早着換えならぬ早妖術でリコの服が一瞬にして今渡した衣服にチェンジした。

 暗く地味だけど戦闘を考えたら合理的な服装から、華やかで明るい印象の服装へと変わる。すると、リコそのものの印象ががらりと変わった。

 妖怪なはずなのに、まるで遊園地にデートしに来ている女の子と大差ない。口を開かなければ、元からの容姿も相まって清楚で眉目秀麗な学生に思える。


「「うん、可愛い」」

「えっ……!?」


 やべ、口に出てた!? しかもクウとハモった!


「本当ですか、空狐様……!」

「うん、その方が一緒にいたくなる」

「そ、それは素直に喜んでいいのかどうかわからなくなる感想ですね……」

「いいんじゃないですか。私もその方がリコのよいところが出ていると思います」

「ほんと?」

「はい!」


 よかった、バレてない。

 あの狐耳と尻尾を見るとついつい可愛いと言いたくなってしまう。私服にあんな琴線に触れるようなものがつけ合わされれば言ってしまうのも仕方が無い。という言い訳を心の中だけでしておこう。


「まあでも、リコの容姿は素のまんまでいいから、私服を着たら自然と可愛くなるのは必然だよな」


 ふと不機嫌な視線が俺に向いたことに気付く。クウが頬を膨らませていた。

 逆にリコは顔を赤らめる。まんざらでもないように口を歪ませ、俯いていた。


「あれ、俺また口に出てた……!?」

「パパ、クウにも大人な服欲しい」

「アカヒト様、褒めるのはよろしいですが空狐様への配慮を忘れてはいけませんよ」

「……悪い。クウは……も、もう少し成長したらな……」

「むう……」

「アカヒトのバーカ……」


 クウに謝る瞬間、リコに何か言われた気がした。だが、振り返ると彼女はなにかを企むような笑みを綻ばせているだけだった。


「これ以上面倒掛けさせんなよ……。もうクウの傍を離れるな、お前の覚悟が本物ならな」

「アンタなんかに言われなくても、わかってるわよ」


 強かに振舞ってはいるが、彼女の尻尾は横に振られていた。


「お二人共、仲が良くなったようですが――リコと契約したというのは本当ですか?」

「え、ちょ、なんでシノンがそれ知ってんの!?」

「まあ流石にクウに言わないわけにはいかないからな。昨日ゼラが言ったらしい」

「なん……っ! 空狐様、これは違うんです! あたしは仕方なく、緊急時でそれはもう仕方なくで! なんなら今すぐ契約なんて解消してやります。ちょっとアンタ、さっさと契約解消するわよ!」

「おい、なにすんだ!?」


 リコは、俺の襟首を掴み脅すように睨んだ。

 しかし、クウが諫めるようにリコのスカートの裾を掴む。

 空は首を横に振って気の立った彼女に願った。


「契約はそのまま」

「へ、なぜですか? あ、あたしは空狐様の為のあたしです! あたしは、貴女様以外の主人を作るなんてことしたくありません!!」


 まあ、そういう流れだろうな。俺もリコとの契約は解消するつもりでいた。

 だが、それはクウの了承の下にゼラに拒まれた。


「リコには、俺じゃなくこのままクウを守って貰う」

「ですが、契約は継続される。あなたが強くなる為には、より多くの妖力が必要ですが、妖玉ようだまだけでは効率が悪い。契約し、気のやり取りをする方法ですと、一時的にはですが多大な妖力を得ることができます。

 現在、赤人さんが契約済みなのはリコを含めますと三人。九尾様とハク様です。ハク様は赤人さんの側近ですから、基本的に一緒にいることが多い。ですが、たった二人だけというのは非常に危うい。おそらく九尾様のお考えですね」

「ま、まあ……」


 なにもかも知っているかのような口調だ。昨日聞いていたのは、ゼラと俺とクウだけのはずだ。聞き耳立てられていたのか?


「それであたしを使うってわけ?」


 睨んでるな。そりゃあそうだ、自分の自由を俺に奪われるなんて屈辱以外のなにものでもない。それが俺の為というのなら、それ以上に感じるはずだ。


「本来ならクウと俺が契約すればいいだけだけど、それはまだできない。ここには俺を、人間を良く思っていない妖怪が半数近くいる。そいつらはクウがいるからここに集まり、クウだけが心の支えだ。ゼラだけならまだいいんだろうが、嫌悪の対象である俺にクウが就いたと知れれば暴動が起きかねない。

 昨日の事故は大事になりすぎた。森の生態系を変えるほどの地震とあの巨体だ。屋敷内でも俺とリコが事を収めたと噂されていたし、人間反対派からすればリコは俺側に就いたと思われても仕方ないだろう」

「だからって……!」

「だから開き直って、別の噂を流す。リコは解雇した後に俺の左腕となり、別の妖怪をクウの従者に据える」

「は、はあ!? あたしがアンタに従属しなきゃいけないっての!? あたしがそんなの認めるわけないでしょ!!」 

「俺だってお前みたいな面倒な女ごめんだ。だから、そこらの妖怪全部騙すぞ!」

「はあ?」


 怒鳴ったかと思えば、眉を顰めた。ここまで言って理解できたのは、シノンだけのようだ。


「別の妖怪――それこそがリコというわけですね」

「そうだ。リコには普段から変化で姿を変えてもらう。俺に就くリコの代わりは、ゼラかハクが幻術で紛らわす。

 この屋敷は元から上位階級と下位の階級で部屋が分かれて姿を見るのもそんなに多くない。リコの姿が見えなくても不思議じゃないわけだ。偶に俺も外に出る時はあるし、その時は幻術で騙すけどな」

「ま、回りくどいわね……ていうかめんどくさ」

「お前がクウの傍にいたいなら精進しろ。リコは、どんくさいからちゃんと変化できるか不安だ……」

「あ、アンタね……!!」

「人間反対派の連中とは近いうちに和解する。それまで待ってくれ、頼む」

「っ……はあ……仕方ないから、術の勉強でもしてるわ。その間に、えっと……色々と、お願いしてあげる」


 真剣な眼差しに折れてくれたようで、溜息混じりに快諾かいだくを得た。

 しかし、このままではこのムカつく女狐に謙ったような終わり方になってしまう。それでは俺も後味が悪い。

 リコには何故か躾したくなる感情が湧き出てしまうのだ。


「それじゃあまあ、ちゃっちゃっと口上でも述べて貰おうか。俺の従者になるわけだしな。ゼラもハクもなにかしら俺に言ったからなあ」


 改めて俺が主人であると偉ぶると、爽やかな恰好とは裏腹にリコの表情が強張った。


「あ、アンタ……アンタねえ……調子に乗らないでくれるかしら……!」

「あ、やべ……」

「あたしの主人は空狐様だけよ。だけど、アンタを主人の父であることくらいは認めてあげるわ。昨日は、助けてくれて……あんがと……」


 怒るものかと思ったが、恥ずかしそうにリコは感謝する。

 わかればいいんだよわかれば、と言おうとも思ったが自重した。張り合いが無いは無いでもやもやするが、彼女の誠意を濁す科白せりふになる気がした。

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