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嘘吐き少年の異世界妖怪道~異世界に来た折、出逢ったのは妖麗な狐だった~  作者: 天空宮
第四章「月光に照らされた陰鬱な館」
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32話 赤い衝動に触れる妖(6)

「うちの妖怪がバカみたいなことして眠りを妨げたのは悪かったよ。妖怪も皆、心のどこかに傷を持っているんだ。

 俺も一緒だ。俺も、他人に蔑まれて生きてきた側だからな。もしかしたら俺とか、他にもお前の気持ちを理解してくれる奴がいたかもな」

「――どうしておまんは、ダに同情するんら……?」


 強くは殴らなかった。

 衝撃を与えるだけで軽く倒れていく巨人は、まるで花畑に飛び込むかのように身を任せていた。

 リコが巨人の倒れた頭の上で倒れた石を起き上がらせていた。華奢な体で踏ん張りながら元通りにしようとしている。

 石には古いお札があった。真ん中に入った亀裂を塞ぐように貼られていた。

 そのお札には霊験あたらたな雰囲気を感じられる。


「じゃあな巨人デカブツ。もし暴れたことを反省すんなら、次に目覚めさせた時は一緒に飯食おうぜ。俺の仲間は皆妖怪だから、お前のこともきっと受け入れてくれるよ」

「なぁあ――…………」


 巨人は、石が起き上がるにかけてその下に吸い込まれていく。

 台風のような大風が吹き、この身も吸い寄せられてしまうかと思った。

 それに耐えている間にあの大きな巨体はなにもいなかったかのように風に消えていた。巨体が倒れていた痕跡もなく、ただ一陣の風が吹き抜けていったかのように木の葉が舞っている。

 お札の付いた石の後ろでリコがポカンと口を開けていた。

 それを見てやっと終わったことを理解し、俺はその場に座り込む。疲労感がどっと押し寄せてきた。


「可哀想な奴だった……」


 少し後悔しているかもしれない。妖怪はそれだけで人間に揶揄やゆされたりしいたげられる。あいつも同じようなそれを受けていた。

 だけど、あのまま放置することはできなかった。暴れまくってここら一帯の生態系を変えてしまったら、他の動物達が可哀想だしな。


「……とりあえず、お疲れ様と言ってあげるわ。喜びなさい!」


 リコがこれまた偉そうにやってきた。

 俺の所に戻ってきたってことは、少しは見直してくれたんだろうか。目は合わせてくれないものの、腕組みしながら労いの言葉が放たれた。

 素直じゃないな、と思ったけれど、これまでの経緯を思い出せばその言葉が許せない。


「バーカ、誰のせいでこんなに疲れたと思ってんだよ。お前があいつの封印を解いたんだろ!? もっと身の周り気にして歩けよ!」

「あ、あれは……ちょっとやっちゃっただけじゃない。こんな所に無造作に置いてあるのがいけないんじゃない。そうよ、そういうことよ!」


 しおらしくなったかと思えば開き直りやがって……。全然反省する気ないなこいつ!


「っ……いてて。たく、お前のせいで体の至る所が痛い……」

「なっ……アンタねえ……! あたしがわざわざ労ってあげているのに、まだ何かさせようっていうわけ!? アンタのそういうところが嫌いなのよ!!」

「そんなこと言ってないだろ。本当に痛いんだって、お前を支えて落ちたんだぞ」


 やっと自覚したらしい。申し訳なさそうに俯き、もじもじと声が小さくなっていく。


「あ……そ、そういえばそうだったかも、しれないけど……。ま、まあそれはその……あ、あありが…………」

「はあ……色々あったから言いそびれるところじゃんか」

「っ――なにが!?」


 なんで切れてんだよ……。いや、俺の前ではいつもこんな感じか。

 たく、話が進まないからこういうところは治して欲しい。が、今回は俺にも非はある。誠意は示さないとクウの親として面目が立たない。


「――さっきは悪かった。お前が俺に何かしてくれようとしてたのはわかってたのに、俺、やっぱ素直になるのが苦手でさ。クウの世話も見て貰ってんのに……我儘だよな、俺」

「な、なによ……別に、謝って欲しいなんて言ってないんだけど!」


 リコは、そっぽを向いた。自身の髪を弄り始め、顔を羞恥に染めている。

 俺は、新鮮な表情を見せる彼女に対し笑ってしまった。


「ぷっ、ははははは!」

「な、なによ! 笑うことないじゃない!」

「いや、なんでもない。で、どうなんだ。許してくれるのか?」

「ま、まあ? アンタを許してやんないと空狐様の所に戻れないし? しょうがなくだけど、ほんとーにしょうがなくだけど! 和同開珎わどうかいちんくらいなら許してあげるわよ」

「ワドウカイチン……? なんだ、歴史の勉強か? どういう位の使い方してんだよ、どんぐらいか全然わかんねーんだけど」

「う、うっさいわね! そのくらい自分で考えなさいよ脳無しっ!!」

「おま……! そうやって直ぐに怒鳴どなる癖は直した方がいいと思うけどな!

 今更だけどな、俺だって怒ってんだからな! 素直に謝ってやったんだから、お前も俺に謝れ! それが平等ってもんだろうが!」

「なにをとんちんかんなことを言っているのかしら。勝手に謝ったのはそっちでしょ。どうしてあたしが謝らないといけないわけ?」


 リルカは、挑発しながらツインテールの髪を払う。


「勝手にキレて逃げたことだろ。言いたいことがあんなら、ちゃんと面と向かって言えよ! 俺は、口に出して言われないと何もわかんないんだよ!!」

「じゃあ言ってあげるわよ! 言えばいいんでしょ! ごめんなさい〰〰!?」


 リコは威嚇するような表情で謝罪の言葉を口にした。

 どれだけ言いたくないんだこいつは。


「……そうだよ、そうやって謝ればいいんだよ! どうだ、謝罪する方の気持ちが少しでもわかったか!?」

「ぜ〰〰んぜん! これっぽっちもわかんないから。バッカじゃないの!? そんなことで改心する妖怪がいるわけないから。ていうかアンタあれね、犬にボール投げて取らせたらもう自分が主人として認められたみたいに思う性質たちでしょ。違うから、犬はボールが好きなだけでアンタのことなんかど――――でもいいのよ!!」

「こいつ……意味わからんが、めちゃくちゃムカつく!!」

「はん、やる気? いいわよ、あんたなんかまだまだ尻尾の赤い戦闘初心者猿でしょうーが。あたしに敵うわけないわよ! あたしはさっきの奴みたいに大きな的じゃないもの!」

「にゃろ!」


 二回戦を始めてやる、と意気込んでリコに掴みかかるものの、鮮やかに躱されしまった。

 その勢いのまま俺は倒れてしまう。余裕で倒せると思ったが、簡単に躱されて恥ずかしい。

 まだ邪気の疲れが残っているだけだ。契約もしたし、生気をあげ過ぎた。

 俺、こいつと契約したんだよな……? 

 まあでも、今回はゼラもいないし俺がこいつの主人になるような条項はない。別に従ってほしいわけじゃないけど、少しくらいその刺々しい口調を丸めてくれないものかね。


「あはは! 笑える! 今は空狐様がいないんだもん、あんたなんかにもう油断しないし容赦もしないわ!!」

「この!」

「きゃっ!」


 俺は、リコを足払いして転ばせた。

 油断しないと言ったのはなんだったのか。簡単に倒れていては世話ない。

 リコの言葉を借りるなら、


「お前もまだまだ尻尾の赤い戦闘初心者狐だな」


 そう満足感に浸っていると、リコは俺の上に倒れ込んできた。

 咄嗟に支えようと手を出す。

 次の瞬間、なにやら柔らかいものに触れた感触があった。掌にそれがじんわりと広がっていく。

 女の子は柔らかいと言うが、妖怪もそうなのだろうか。リコは、女の子というよりもメスギツネだが。

 細めた目を開くと、俺の両手はがっつりとリコの胸を揉んでいた。

 おそらくブラはなく、服の下に乳房があるだろう。それほどの柔らかさで、中には指に引っ掛かる突起物もあった。

 体を支えられはしたものの、リコの憤慨を煽る結果となっている。リコの顔が赤くそして眉間に皴が寄るのがわかった。

 思わず手に力が入り、彼女の乳を揉んでしまった。すると、彼女の口から甘い吐息が漏れる。

 刹那、俺の顔面にはリコの掌のマークができあがった。


「ば……バカ――――ッ!!」


 リコは胸を恥じらいながら庇う。更には、勃然ぼつぜんと怒ってからきびすを返した。

 ぷりぷりとしながら言ってしまう彼女の背に俺は小さく謝る。


「悪い…………って聞こえないか。

 面倒な従者だ。でも、あいつがクウを守ってくれんなら、まあ安心してやってもいいかもな。あいつが石を見つけて、戻してくれなかったら終わってたかもしれないし。面倒な部分は……まあシノンがなんとかするだろう。今回はシノンがいなかったから起きた不祥事と思えば気が楽だしな。

 それにしても――」

「柔らかかったか?」

「ああ、そりゃあもう。柔らかさだけなら今迄で一番……いやだってあいつ、ブラしてな――」


 突然の質問に普通に答えてしまった。

 ハッと気づいて隣を見ると、細い目をしたゼラが俺を屈んで見ていた。なんとも言えない笑みで顎に手を付いている。

 今の一言から察するに、一連の流れを見られてしまったらしい。浮気現場を見られた心境……。


「あ、いや、ゼラさん……今のはただの独り言で……」

「ほう、独白どくはくで感想を口にしてしまったということか。羞恥心の欠片もない鬼畜クソ野郎の所業じゃな。

 助けてやろうと来てみれば、二人で仲良くじゃれ合っているではないか。呆れていたのも束の間にまさか女人にょにんの胸を揉みしだく悪行を働くとは見損なったぞ?」

「いや、揉みしだいてはないですよ……」

「では、揉んだというのは認めるということか。なんとも愚かな鬼畜クソ野郎じゃな」

「す、すみませんでした……」


 俺は、正座しながらゼラに平謝りした。

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