5-18解き放たれた思い
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
ディメア、あなたと言う子は……(コク談)
「あたしは『最強』!!」
ルラはチートスキル最強を発動させて竜の頭と鱗を持った「巨人」を次々と殴り飛ばす。
どごんっ!
ぼごっ!
ごがーんっ!!
身の丈十五メートル以上はあるその巨体を身長百六十センチに満たない小柄なルラが殴り飛ばしてゆく。
そして着地すると同時に今度は近くにいる「鋼鉄の鎧騎士」も蹴り飛ばす。
ばきっ!
どかっ!
ごんッ!!
通常攻撃も魔法も効かないはずの「鋼鉄の鎧騎士」はまるでサッカーボールのようにルラに蹴り飛ばされ森の奥へと木々をなぎ倒し飛んで行く。
とん。
「ふぅうう~ぅ。さあ次はだれが相手だ!?」
ルラは軽やかに地面に降り立ちくるりと相手に向かって構えそう言う。
「な、何だあのエルフは!? 『巨人』や『鋼鉄の鎧騎士』がこうもあっさりと!?」
ジュメルの神父はルラのその活躍に目をむき驚く。
「コクさん! 全ての呪いを『消し去る』!」
私はあの呪い以外にもいくつか呪いを受けているようなコクさんたちの呪いを全てチートスキル「消し去る」で消し去る。
するとひときわ大きなコクさんらしい黒い竜は天空を向いて大きく吠える。
「ごがぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
びりびりびりっ!
その雄叫びは大気を揺らしびりびりと此処まで振動をする。
途端にトーイさんたちが悲鳴を上げる。
「ひっ!」
「うっくっ!」
「ひあぁああああああぁぁぁっ!」
「うっ、竜の雄叫びには相手の心を畏怖させる効果があるけど、流石に黒龍様ね。これはかなりきついわ……」
カリナさんもそう言ってその雄叫びにおののく。
「ひぃ、こ、黒龍めっ! 何故呪いが消えた!?」
「それは私が消したんです! もう止めてください、どんな呪いが有っても私は全てそれを消せる。例え女神様の呪いだって消して見せます!!」
コクさんの雄叫びにジュメルの神父も畏怖の念が芽生え、腰が引け始めていた。
そんな彼に私ははっきりと言う。
もうこんな無駄な争いはやめなければならないからだ。
「の、呪いを消し去るだと…… 女神の呪いすら消し去るだと…… 貴様、ただのエルフでは無いな!? まさか貴様が『女神の伴侶シェル』なのか!?」
「違います!」
なんで私がエルハイミさんにあーんな事やこーんな事されちゃうシェルさんなのよ!?
私はいたってノーマルなの!
お、女の子同士でそう言うのに興味なんてこれっぽっちも無いのっ!!
「シェルに間違われる何てリルも災難ね。でも、ジュメル! もうあなたの手の内は通じないわ! 大人しくしなさい!!」
ちゃきっ!
憤慨している私の隣にカリナさんは剣を構えてやって来る。
どごーん!
ばごーん!
ごがーん!
向こうではルラがまた「巨人」や「鋼鉄の鎧騎士」をボコボコにしている。
ジュメルの神父はそれを横目で見ながら注意深く私やカリナさん、向こうで戦っているルラをチラ見する。
「たかがエルフ如きがこれは一体どう言う事だ? 何だその力は??」
「私たちのチートスキルよ! この力女神様にだって負けないのよ、さあ覚悟して大人しくしなさい!」
びしっ!
よぉーし!
私をシェルさんと間違えた事を説くと説明して教え込んであげよう。
私はノーマルで、同性愛者じゃないの!
そりゃぁエルハイミさんは可愛いけどそれは同じ女の子としてちょっとうらやましいだけで好きとかそう言う感情じゃないもん!
私はそう思い指さしているとジュメルの神父は笑いながら聞いてくる。
「はーっはっはっはっはっはっ、女神にも負けない力だと? 我がジュメルの神に敵うとでも? 愚かな! 貴様名を何と言う?」
「私はリル! さあ大人しくなさい!!」
私がそう名乗るとジュメルの神父はさらに笑い声をあげ懐から輝く石を取り出す。
「リルと言う名か! 覚えたぞ、貴様のその力そしてあのエルフの女の力もな!!」
「えっ!?」
ちらりと向こうで戦っているルラを盗み見してジュメルの神父は手に持つ石を更に輝かす。
「まずい! あれは帰還魔法!?」
カリナさんはそう言って神父に斬りかかる。
ばっ!
「もう遅いわ!!」
そう言ってジュメルの神父は手に持つ光る石を更に輝かせその場から一瞬で消えた。
ぶんっ
がんっ!!
カリナさんが振った剣は誰もいなくなった地面を叩いていた。
「ちっ! 逃がしたか!!」
カリナさんが悔しそうにそう言う。
確かに取り逃がしたけど今はそれよりコクさんたちやジーグの民の方が先だ。
向こうを見るとルラが「巨人」や「鋼鉄の鎧騎士」をボコボコにし終わって動けないようにしていた。
そしてずっと竜の姿でいたコクさんがその体を縮め人の姿に変わって行く。
「リル、ルラ! あなたたち何故此処に?」
「コクさん! カリナさん、カリナさん!!」
人の姿に戻ってコクさんはこちらに歩み寄る。
勿論その後ろにはクロさんとクロエさんもいつもの姿でくっついて来ている。
私はカリナさんを急いで呼んであの水晶の記憶をまた作動させてもらうのだった。
* * * * *
「ディメア…… あなたは……」
水晶のディメアさんの記憶を見たコクさんは下を向いて涙を流していた。
勿論それはクロさんやクロエさんも同じで目には光るモノが有った。
そんなコクさんに私は聞く。
「コクさん、もうジーグの民をどうこうする必要はないですよね?」
「ええ、もちろんです。それに元々ここへ来た理由は彼らと話し合う為。そして秘密結社ジュメルとの関係を断ち切ってもらう為です」
コクさんはそう言ってジーグの民の長と言う人に顔を向ける。
「過去に起こった事については謝罪をしましょう。我が娘の意図も知らずその恨みをあなたたちに向けてしまった事を」
「黒龍よ、我らが女神様があなたの娘だったと言う話、そしてあなたに殺されたのではなく我らの祖先の手で我らが女神様を亡き者にした…… 我らジーグの民が黒龍、あなたの怒りを買うのは当然だった…… 恨みが消えたと言えば嘘にはなるが我々はもうあなたに手を出す事は無い。そして同胞であったジュメルは我々を騙していた…… 今は我らに関わる事無く静かにしてもらえないだろうか……」
ジーグの民の長はそう言うとコクさんは黙って立ち上がった。
それを長たちは目も合わさず黙っている。
コクさんはそれを見て踵を返して歩き出そうとするも、ふと思い出したかのように聞く。
「ジーグの民よ、あなたたちは秘密結社ジュメルが何処にいるか知っていますか?」
「黒龍よ、騙されたとはいえきゃつらは一刻でも我らと共にあった。これは我らの問題だ」
長は片目だけ見開いてコクさんにそう答える。
するとコクさんはそれ以上は何も言わず踵を返して歩き出す。
ディメアさんの本当の思いを知ってやっとその時が動き出したかのように。
私たちはそんなコクさんの後を追ってこのジーグの民の隠れ里を後にするのだった。
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