5-7川魚の蒸し焼き
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
えへへへへぇ~、お魚、お魚ぁ~♪(ルラ談)
そろそろ蒸し焼きになった川魚も出来あがったので私は鍋の蓋を取る。
ふわっ!
オリーブオイルにニンニクの香りを入れ、川魚の清涼感ある香りに乾燥バジルがほんのりと香る。
「うわぁ、いい匂い!」
ルラらはお腹を空かせていたので川魚の蒸し焼きの香りによだれを垂らしている。
私はお皿をポーチから取り出し、蒸し焼きになった川魚をそれに乗せる。
そしてその横に先程のわさびを少量載せて皆さんに配る。
「はい、川魚の蒸し焼きわさび添えです。お好みでわさびを少しづつ付けて食べてみてください」
そう言って皆さんを見るとフォークを構えたまましばしわさびを見る。
「うーん、これって辛いのでしょ?」
「最初からつけて食べるもんなのかな?」
「川魚の蒸し焼き自体は美味そうなんだが、わさびってのがどんな味だか想像もつかないな」
「取りあえず食べてみましょうか?」
カリナさんたちはそう言ってまずは普通に川魚の蒸し焼きを食べる。
私もルラもリュックスさんも川魚の蒸し焼きに手を付け始める。
蒸し焼きになっているのでフォークを突き刺すと簡単に皮が破れほくほくの白身が顔を出す。
それをまずは口に運ぶ。
ふわっ!
「うん、川魚の臭みが消えていい感じ」
「これニンニクの香りとバジルの香りがして美味しい~」
川魚は少し臭みが強いのでニンニクやバジルで匂い消しをしている。
それにオリーブオイルが絡まっているので油の旨味も絡まりほくほくで淡白なのに美味しい。
お腹の中に詰めた玉ねぎも甘みと旨味を出しているので、塩味のベースによく合う。
「ふむ、これは素朴ながら美味しいですね。さて、それではわさびも付けていただいてみましょう」
リュックスさんはそう言って川魚自体の味を楽しんでいたけど、いよいよわさびをつけて食べてみる。
「ルラ、わさび苦手なら無理してつけなくても大丈夫よ?」
「せっかくだから少し付けて食べてみるね~」
そう言ってルラはフォークの先にほんのちょっぴりわさびをつけて魚の白身に乗せる。
そして口に運ぶ。
ぱくっ!
「んっ、あんまり辛くない~。あ、なんか後味がさっぱりとする~」
そう言いながらまた少しわさびをつけて食べ始めるルラ。
他の皆さんもルラのそれを見て同じように試してみる。
ぱくっ!
「んッ!? なにこれ、一瞬辛いと思ったらもう辛くない? あ、それにオリーブ油の脂っこさが押さえられた?」
カリナさんはわさびをつけた川魚を口に運び目を丸くする。
「これは何とも面白い味わいですね。なるほどマスタードの酸味と辛味とは全く違う、本当に一瞬辛さを感じてもすぐに消える。そして油分のしつこさを無くしてくれるようですね? これがわさびですか」
「うおっ!!!! たくさん付けたら鼻が辛いっ!!!! くぅっ!!」
「た、確かに付け過ぎると鼻に抜けるような辛さがあるな、涙が止まらねぇ」
「これは量を多くすると気付け薬のように眼鼻に刺激が来ますね。ああ、しかし後味が何ともすっきりとする。本当に面白い」
リュックスさんはゆっくりと味わいその性質を見極める。
流石に料理長をしているだけはある。
しかし面倒がって大量にわさびをつけて食べたトーイさんやザラスさんは身震いしてそのわさび独特の辛さに悶えていた。
あ、ネッドさんはちゃんと調整しながら食べてるみたい。
私はそんなみんなの様子を見てから自分もわさびを少しつけて川魚の蒸し焼きを食べる。
ぱくっ!
「んっ!」
口に入れると途端にわさび独特の辛味が口の中から鼻腔に広がる。
生わさびでしかも採れたてだからわさび自体の味もして美味しい。
辛さだけでなくわさび本来の旨味が油っぽい川魚の蒸し焼きの後味さっぱりに変えてくれるので好みはあるだろうけど私は好きな味だった。
「わさび、確かにリル殿が言うようにこれで魚醤と一緒に獅子牛のローストビーフを食べればさっぱりとした味わいになりそうですね。いやはや、こんな食材が有ったとは。世の中にはまだまだ私も知らないモノが沢山有るのですね」
リュックスさんはそう言ってトーイさんたちと同じく涙目になりながらわさびの味をかみしめるのだった。
* * *
「さてと、相変わらずリルのご飯は美味しかったけどわさびはもう取らなくていいのかしら?」
「出来ればもう少し欲しいですね、見つかったのはどれも小さめなのですぐに使い終わっちゃいそうですから」
食事が終わり後片付けをしているとカリナさんが私にそう聞いてくる。
今までに見つかったわさびは全部で十個ちょっと。
でもほとんどが五センチクラスのミニサイズ。
さっきルラにすりおろしてもらったのは七センチくらいで、十センチを超えるのは一つしか見つかっていない。
コクさんの事だから気に入ったらもっと欲しいと言うだろうなぁ。
もしエルハイミさんが帰ってきたらエルハイミさんにも食べさせるつもりなんだろうなぁ。
そう考えるともう少し余裕が欲しい。
「それじゃぁまた水の精霊を呼び出すか」
そう言ってカリナさんは精霊魔法を使う。
そして更に上流へと行く事となるのだった。
* * * * *
「こんな所に古代遺跡?」
わさびを探して上流へ行くと岩場の多い所へと付いた。
岩の間から沢の水が染み出ているからかなり上流に来ているのだと思う。
そしてそんな岩肌にぽっかりと開いた人の手が加えられた穴が有った。
何時の時代かは分からないけどこんな所にこんな場所が有ったとは。
カリナさんはそれを見て目を輝かす。
「ちょっとだけ覗いて行かない? もしかしたら手つかずの遺跡かもしないわ!」
冒険者らしい発言だった。
私たちは目的のわさびを回収してから仕方なくカリナさんと共に遺跡の方へと行ってみるのだった。
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