4-32リルのスキル
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
リルぅ~(カリナ談)
私のチートスキル「消し去る」。
あの駄女神にもらったそのスキルは私が恥ずかしい先輩へのラブレターを消し去って欲しいと言ったのを変に解釈して与えてくれたスキル。
初めて使ったのは五歳の時。
森の中で衣服にくっ付いてくるくっ付き虫の種が嫌で「こんなの消えちゃえばいいのに!」と思ったら頭の中に消し去るかどうかの確認が浮かんで来た。
訳も分からずそれを承諾すると、服にくっついていた沢山のくっ付き虫が一斉に消えてなくなった。
それがこのチートスキル「消し去る」を初めて使った時。
そしてこのチートスキルが私以外にルラにもある事に気付き、その頃女の子になってしまった事を不満に思っていたルラ(赤城拓人君)にも教えて荒れてたルラを落ち着かせた。
と言うか、女の子になって弱くなったって事に凄く不満だったらしい。
でも自分にもあの時の約束通り「最強」のチートスキルがあるって知った時のルラは目を輝かせて二人で内緒で試してみたものだ。
そして今はこのスキルが有る事をあの駄女神に感謝する。
「呪いを消し去るには精神世界に干渉しなくてはいけません。コクさん、私がスキルを使いますから抵抗しないでくださいね」
「リル…… あな……たは……」
苦しそうに額に汗をかいているコクさんは途切れ途切れそう言い頷く。
私はそれを確認してからコクさんにかけられている呪いを感知する。
それは今まで感じた事が無いほど複雑かつ変な感覚だった。
私のチートスキル「消し去る」を対象の「呪い」に向けるけどそれを探し出すまでにすごく時間がかかっている。
いや、別世界に在るその呪いをこの世界とは違う場所なのでイメージが固まらない。
何と言うか、頭の中にある「命の木」の世界みたいに漠然としか感じられない。
しかしそれを感じ取って「消し去る」対象としてしっかりと認識しなければならない。
「ええぃ、ままよっ!」
私は気合を入れてその呪いを何とか認識する。
そしてチートスキル「消し去る」を発動させる。
途端に頭の中に実行するかどうかの確認が浮かび上がる。
「勿論承諾よ! チートスキル『消し去る』! コクさんの呪いを消し去って!!」
ぶんっ!
私が「消し去る」を実行すると途端にコクさんがうっすらと光り始める。
今まではすぐに消えてしまいこんな事は無かった。
「な、なにこれっ!?」
それはとても不思議な感覚だった。
精神世界に在るはずのコクさんの魂に何か紐のようなモノが付いている感覚。
呪いはそのコクさんの魂に絡まり、そしてその紐を伝わってどこかへ行こうとするのだけど、私が使ったチートスキル「消し去る」の力がその呪いを捕らえ始めると同じようなその力がその紐の方からコクさんの魂の方へと延びて来る。
それは私の力と同じ匂いがする。
そう、この世界にでは絶対に抗えない絶対的な力。
しかしそれはまるで私の意図と同じようにコクさんの魂に絡まっている呪いに襲いかかる。
そして私の力とそのやってきた力が接触した瞬間だった。
『あらあら~、何か面白い事やっていると思ったらこの世界の端末とも出会ってしまったのですわねぇ~。ほんと、あなたたちって面白いですわぁ~』
―― なっ!? この感じ、あの駄女神!? ――
『あらあら~、駄女神だなんてひどいですわぁ~。せっかくあなたたちにはこの世界では絶対的な力を与えてあげたと言うのに~。でも、こうして私の端末とも接触できてしまったという事はもうこの世界の女神と出会ってしまったのですわね~、ほんと、面白いですわ~』
―― 全然面白くないってば! なんかあんたに似た人たちに会うたびに私たちが苦労しているように感じるのだけど!? ――
『うふふふふぅですわぁ~♪ それは私のせいではありませんわ、あなたの運命なのですわ~』
―― 死んで別世界に転生してそんな変な運命に会うのって嫌だってばっ!! ――
『でもこれは仕方ない事ですわぁ。あら、そろそろこの呪いも消えますわね~? そちらとの接触もそろそろ終わりですわ。やはりあなたたちは面白いですわ~、またそのうち覗きに来ますわ~』
―― なっ!? 覗く暇が有ったら私たちをエルフの村に返してよ! ――
『それは出来ませんわ~、なんたってあなたたちを覗く私の楽しみが無くなってしまいますもの。あら、時間ですわ。それでは良いエルフ人生をですわ~』
―― ちょ、ちょとっ! このぉっ、やっぱり駄女神だぁッ!!!! ――
きゅぅううぅぅぅ……
ぽんっ!
はっ!?
目の前でコクさんの身体の光が収束して「ぽんっ!」とか変な音がして消えた。
もの凄く変な感じ。
目は見開いていてずっとコクさんを見ていたのにずっとあの駄女神に会って話をしていたような気がする。
私は思わず片目を手で覆い頭を振る。
「リル殿?」
その様子に気付いたクロさんが私に声をかけてくれる。
「だ、大丈夫です…… コクさんの呪いも消え去りました」
同時にいくつかの事をしていたので頭の中がやや混乱している。
そして変に理解した。
エルハイミさんはあの駄女神の姿をした「あのお方」のこの世界での端末。
絶対的な力の持ち主でこの世界にいたどの女神よりも強い力を持っている。
それは「破壊と創造」の力。
道理であの駄女神がエルハイミさんを気に入ってその姿を借りているわけだ。
しかしその力と同種の力が私のチートスキル「消し去る」。
あの駄女神に与えられた力はこの世界でも絶対だ。
それほど「あのお方」とは絶大な存在。
そう、前の世界で言う「神」そのものなのだから……
「こんな事で世界の真理に触れてしまうとは…… ああ、もうっ!」
何故か謂れのない怒りがこみあげて来る。
「あのお方」なら私たちの世界だって、この世界だって自由に出来る。
それは時間でさえ。
だったら私こと榛名愛結葉だって簡単に生き返らせられる、いや、時間を戻してそもそもが無かったことに出来る。
それを面白いからと言ってこんな状況に追いやるとは!!
「ううぅ、やっぱ駄女神よ……」
私が恨めしそうにそうつぶやくとコクさんが気付いた。
「うっ、これは……」
「黒龍様! 気が付かれましたか!!」
「黒龍様!」
「良かったでござる、黒龍様!」
クロさんやクロエさん、ベルトバッツさんが喜んでいる様を見て私はため息をつく。
「どうやら終わったようね? リル、どう言う事かきっちり説明してもらえるんでしょうね?」
ぎくっ!
一安心した私の後ろにいつの間にかこめかみに怒マークを張り付けたカリナさんが立っていたのだった。
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